旅館5

2023-08-29 08:59:09 | 日記
「そもそも、ここ、10年以上も前に民宿してたんだけど、お客が来なくて廃れたんだよね」

「だけどその頃とは、状況も違って来てるから、お客さんも来るんじゃないかな?」

「だけど、あの頃と違って最寄りの『○○駅』も廃駅になったでしょ、さらに状況は厳しくなってると思うけど」

「…あ、そうだね」

「ここって…民宿がつぶれたのは、客が来なくなったのが原因じゃないらしいぞ」

「え?」

「じいちゃんに聞いたんだけど…ここって、俺たちが生まれるずっと前に、事件があったんだって」

「事件?どんな?」

「…それがさ…」


旅館4

2023-08-24 09:37:39 | 日記
「頼みたいことは、とりあえず、この宿の裏庭なんだけど、草むしりを頼みたいんだ」

宿の裏は、草むしりでは間に合わないほど、自分たちの身長ほどに、うっそうと成長しきった雑草が生い茂っていた。

「シャベルは、裏の物置小屋にあるからね。私は、宿の方の掃除があるから、何かあったら声かけて!」

店主は50代の気さくなおじさん。申し訳なさそうに、仕事を頼むとバタバタと宿に入って行った。


3人は、用意してあった鎌を手に、身近な場所から草刈りを始めた。
小さな雑草は手でむしる。

「この宿、4人もアルバイト雇って、大丈夫かな?」

年上の梨花が草をむしりながらつぶやいた。

「どうして?」

「海からちょっと離れた宿だから、あまりお客が来ないんじゃない?」

「僕もそう思う」

少し離れた場所で鎌を振るっていた徹弥もつぶやいた。


旅館3

2023-08-20 09:11:04 | 日記
「例の『いさみや』って、新装オープンって言うけど、心霊スポットだったよね。本当にそこでバイトするの?」

親友の舞美がつぶやいた。

「先日、面接に行ってきたけど、内装もリニューアルされてて綺麗だったよ」

「そりゃそうよ。綺麗にしなかったら、あんな旅館には泊まれないよ」


バイト初日。

「宿のオープンは来週からなんだけど、ちょっと頼みたいことがあって…悪いね~」

アルバイトに決まっている夕美と、同い年の徹弥や、ひとつ年上の大人しめの女性、梨花の3人が集められた。
…というより、あと一人の幹太が予定がつかず、オープンしてからの合流で全員だ。

旅館2

2023-08-16 09:25:47 | 日記
夕美は、夏休みには、近くの蕎麦屋さんのバイトをしていましたが。。。

去年の秋に、麺を打つ店主が亡くなり、お店じまいをしてしまったのです。

すっかり頼りにしていた蕎麦屋さんがダメだとなって…、途方に暮れた夕美は、いくつかアルバイトを探しましたが、なかなか条件に合うバイトが見つかりません。

そして、やっと彼女が選んだアルバイトは、町の離れに出来た旅館、『いさみや』。

旅館の近くには、人が集まる海水浴場があり、集客が望めそうな場所でした。
 
ところが、その旅館、新しくオープンしたばかり…という触れ込みだが、実は元々廃旅館として長い間放置されていたもので、一時は心霊スポットとして、若者が出入りしていた場所でした。

旅館1

2023-08-13 09:01:32 | 日記
18才になったばかりの夕美は、夏休みにアルバイトをする予定でいました。

彼女の家は、80才を越える祖父と、兄弟は、弟二人。

父親は職人をしていましたが、天気に左右されてしまうために、安定した収入とは言えず、母親は数年前から体を壊してパートの仕事を辞めています。

…なので、長い休みの時には必ずアルバイトをしていました。

毎年夏休みには、近くの蕎麦屋さんのバイトをしていました。

蕎麦屋の近所に何件かの工場もあり、夏はそうめんも出しているので、昼時はとても忙しい…。

なので、時給も良かった。彼女にとっては、理想的なバイトでした。