旅館22

2023-10-31 10:46:52 | 日記
しばらくしたある日の朝、4人が、仕事を始める支度をしていた。

「あのさ、例の箱!衣栄ばあちゃんから重要な話し聞けたよ」

徹弥が興奮気味で話しはじめた。

「ホントか?」

飛び付いたのは幹太だ。

「ばあちゃんに、思いきって『いさみや』の物置小屋に開かない小さい箱があるの知ってる?って聞いてみたんだよ」

「うんうん!」

「そしたら、知ってるらしくて…。あの箱、『いさみや』の前の『かねみつ』って旅館でも物置小屋はそのままで、箱もそのまま受け継いだらしいよ」

「ほお…」

「そもそも、受け継ぐって言い方からして、物々しくない?」

「確かに…」

「受け継ぐって、そんなすごい箱なの?」

「わからん」

「…で、あの箱は開けちゃダメだって!」

「うん、詳しくは話してくれなかったんだけど、開けちゃならん…って言われてるらしい」


旅館21

2023-10-28 09:00:14 | 日記
4人は、この件を『物置小屋の謎』として、時々話題に出してはいたが、特に進展もなく過ごしていた。

そのうちに、旅館もオープンして半月もすると、急に忙しくなってきた。

アルバイトの4人は、ゆっくりと会話をする時間もなく、日々忙しく過ごしていた。

それでも、夕方の一時間の休憩時間は、夕美と徹弥、梨花と幹太が二人ずつ一時間程度の休憩があり、少しゆっくりと話せる時間があった。


「最近、例の『物置小屋の謎』の話しはしなくなったね。」

夕美がつぶやくように、その話題に触れてみた。

「あぁ~、確かに、旅館も忙しくなって来たし、物置小屋に入る用事も無いからなぁ…」

「衣栄おばあちゃんは、何か教えてくれた?」

「ばあちゃんは、相変わらずだよ。話をしに行く時間も無くて…」

「例の箱の件は、このまま流れてしまった方がいいんじゃない?」

「なんで?」

「だって、幹太の好奇心が旺盛過ぎて、このままだと開けてしまいそうだよ」

「いやぁ~、俺も本当は開けてみたいけどなぁ…」

「やめた方がいいよ。バチがあたる。しかも、そもそも、ここの旅館のオーナーに許可もなくそんな事をしたら、クビになるよ」

「そうだよなぁ…」

徹弥は、深く溜め息をついた。



旅館20

2023-10-24 08:55:34 | 日記
「前も旅館だったんだ…。だけど、オーナーの親戚なら、何か知ってるかもね!それじゃ、聞いてみないと!」

「衣栄ばあちゃんに早速、聞いてみたんだよ」

「おっ!仕事早い!」

「それがさぁ…。知ってるみたいなんだけど、衣栄ばあちゃん、ちょっと認知症が始まってて、記憶が曖昧みたいなんだ。」

「…そうなんだ。」

「だけど、衣栄ばあちゃん、記憶がしっかりしてるタイミングもあるから、時々聞きに行ってみる」

「おぉ!頼んだ~!」

幹太は興奮していた。


旅館19

2023-10-20 10:03:11 | 日記
そして、『旅館 いさみや』は、無事にオープンした。

オープンしてしばらくは、あまり宿泊客もなく、閑散としていた。

休憩時間になると、『例の話』だ。

「例の箱、じいちゃんに聞いてみたんだ」
徹弥が話す。

「え?なんて?」

「知らない…ってさ。だけど、俺んちの裏に住んでる衣栄ばあちゃんが知ってるかも知れない…って。今の『いさみや』の前の旅館『かねみつ』って言うんだって!そこのオーナーの親戚なんだってさ。」

旅館18

2023-10-16 10:36:40 | 日記
「あ、これこれ!見た目より結構重いんだよ」

例の箱を見つけた徹弥は得意げに持ち上げる。

「どれどれ!」

幹太は箱を受け取った。

「あ、本当だ」

そして、幹太はその箱を上下に振り出した。

「音…しないよ」

「そんなことないよ。」

幹太はさらに大きく振った。

「やめなよ。何かあったらどうするの?」

「何かって?」

「何かが割れたり…」

「…呪われるとか?」

幹太は笑った。

「とにかく、やめよう」

夕美は幹太から箱を奪うと、元の場所に戻した。

「もう、草むしりしよう!」

夕美は、正直、この物置小屋に長く居たくなかった。