あの頃(新入生)15

2020-06-30 07:58:32 | 日記
次の公演のあゆみの配役は、かなりの端役…。

そんなハズない❗

…と、誰もが思った。


その頃の私は、団子屋さんに飽きて、さらに3本ほど裏路地に入ったところにある、ジャズがかかる静かな喫茶店を見つけた。

一見入りにくそうだが、その頃の私は、新規開拓が楽しくて、入りにくそうなところを選んで入ってみたりしていた。

そこで、珈琲とチョコケーキ。

甘いもので、脳を活性化させるんだ!と、得意げにケーキを頬張っていた💦(なんで太るんだろう💦と悩みながら、笑)

ある時、ずいぶんと早くに稽古場に来てしまったので、そのお洒落な喫茶店に入た。

いつもの、珈琲とチョコケーキ‼️

すると、どこかで見た顔が入ってきた。

あゆみだ。

あゆみは、このジャズがかかる喫茶店が似合う。

…どうしよう…目があった。

あゆみは、私を見つけると、迷わず私のテーブルに来た。

「おはようございます。早いですね」

「あゆみさんも、早いですね!」

「あの…、迷惑で無ければ、ご一緒していいですか?」

「あ、どうぞ❗」

あゆみも、珈琲を頼んで…、私が食べるケーキを見て、さらにケーキも追加した。

「よく、来るんですか?このお店」

「あ、最近!……あの、敬語やめません?私の方が年下ですよね。」

「だったら、あんこさんも、敬語やめてくださいね」

「あ…そうだ…ね。」

「私は、このお店は2回目なの。」

「私。4回目。」

「気まぐれに入ってみたら、ジャズが流れてたから、気に入って…

「カッコいい!」

「え?」

「あゆみさんは、ジャズに惹かれてこの店を選ぶってのが、似合うよね。私は、ここのケーキに惹かれて…だから。」

ふたりで声を出して笑った。

「稽古のある日は、毎日来ます?」

「うん、今のところ…」

「それじゃ、私も来よう!」

思わぬところで、あゆみと急激に親しくなった。






あの頃(新入生)14

2020-06-29 06:21:56 | 日記
Aが役をチェンジして欲しい…宣言があったり、本番近くにあゆみが休んだり…、いろいろあったけど、なんとか本番を乗り越えた。

あれ以来、Aはおとなしくなった。

あゆみも、いつも通りに稽古に通っていたが、心なしか元気が無い…。

Aとあゆみは、少し距離をおいたまま、時間が過ぎた。


ーーー次の公演がやってきた。

今度こそは、あゆみが主演だろう…と、誰もが思っていた。

配役発表!

ところが、主演はあゆみでは無かった。

あゆみは…というと、セリフがかなり少なめの脇役。

前回、あゆみが、貴重な本番前の稽古を風邪で休んだから…?…まさか…。

あゆみは、主演に十分な力量だ。

前回のように、主演でなくとも、それなりに重要な役割ならわかるけど、今度は、かなりの端役だ…。

…みんながざわついた。







あの頃(新入生)13

2020-06-28 08:07:42 | 日記
本番近くになって、あゆみが稽古を休んだ。

風邪だという…。

なんだか、変な胸騒ぎがした。

電話も一度繋がったような気がしたが…切れた…。混線だろうか…?

Aとのトラブルをそんなに気に病んでいた様子は無いし…。

本当に風邪なのかな…?

そして、次の稽古の日。

誰よりも早く稽古場に来てストレッチをしているあゆみの姿が無い…。

「電話してみたか?」

演出があゆみの様子を気にしていた。

「してみたんですが…。出ないんです。」

電話を掛けたとき、一度かかったような感じがあって切れてしまったことは、言わなかった。

「事務所には、連絡あったんですか?

「今日はまだ、連絡が無い…。
よほど具合が悪いのかも知れない。R子、用意しておけ」

あゆみが万一、出演出来なかった時は、R子があゆみの役を演じる。



ーーそして、その日も稽古が始まった…。

おそらく、今日が限界だろう…。

「おはようございます!」


すると、あわててあゆみが稽古場に飛び込んで来た。


…そして、何事も無かったかのように、その日の稽古は終わった。

「風邪…大丈夫か?」

「申し訳ありませんでした。もう、大丈夫です!」

あゆみは、深々と頭を下げた。

一件落着…だろうか…。

一度電話が繋がったときに、電話口に確かに誰かの息づかいがあった。混線などでは無いはず。








あの頃(新入生)12

2020-06-27 08:45:34 | 日記
あゆみは、主演の座を断った。

そんなに、主役のライバル役に魅力を感じているのか…それとも、こだわりの役作りなので、今さら役のチェンジは嫌なのか…と、周りは噂をした。



紆余曲折、とりあえず公演の稽古は進められた。

Aは、以前よりはパワーを発揮している。

しかし、あゆみほどのエネルギーは感じられない。

悩みながらも前進していた。

稽古もあと少し…。いよいよ本番に向けての磨き上げの時、あゆみが休んだ。

風邪をひいたと言う。

なんとなく不自然さを感じた。

本番近くだし、少しくらいの体調不良だと、とりあえず出てきそうなタイプだ。

よほどの高熱なんだろうか…。


そして、翌日…。

また、あゆみは休んだ。

風邪が治らないらしい…。

大丈夫だろうか?

よほどことなのだろうか…。

彼女は特に親しくしている仲間がいなかったので、誰かに様子を聞くことも出来ない。



「電話してみましょうか?」

演出に申し出た。

「うん…。頼む…。よほどことかも知れない…」

演出も、不自然さを感じていたようだ。


電話をしてみた。

……………。

出ない…。

電話にも出られないくらいひどい状態?!

時間をおいて再度かけてみる。

………かちゃ。。

出た。

「あゆみ、あんこだけど…。大丈夫?」

………ぷつっ。

切れた?

あれ?間違い電話しちゃったかな?


もう一度かけてみた。

……………。

それからは、出なかった。

なんだろう…胸騒ぎがする。


あの頃(新入生)11

2020-06-26 05:31:16 | 日記
役をチェンジして欲しい…という、Aの無茶な発言…。

スタートしたばかりだし、本人同士が大丈夫なら、叶わないコトでは無い。

だけど、無茶苦茶なお願いだ。



「今日は返事が出来そうにありません。次回まで返事を待ってください」

あゆみは深々と頭を下げ、帰って行った。


あゆみにしてみれば、今までの役を全うしようと全力で研究してきたのだから、急遽役を変更する…ということは、大変なことだと思う。

だけど、新入生としてやってきて、初めての公演でいきなりの主演は…大抜擢だと思う。いきなりではあるが、主演とは…、決して悪い選択では無いはず。

…どうするんだろう…。

次の稽古の日…、演出を伴って、複雑な表情であゆみとAが入ってきた。

「皆も知ってることだと思うが…。いろいろあって、あゆみが主演を演じる方向で話し合って来たが…。やはりあゆみは今のままの役を全うしたい…と言う。…なので、再度Aには、このまま主演を全うするように説得した。そして、このまま、役を変えずに続けることになった」

ざわっとした後、徐々に拍手が起きた。

「よろしくお願いします」

あゆみが頭を下げる。

「申し訳ありませんでした。」

Aも頭を下げる。

あゆみは、なぜ断ったんだろう…。

そんなに、主演のライバル役に魅力を感じるんだろうか…と、しばらくの間、稽古場では、その話しで持ちきりだった。