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2020年、東京オリンピックを前にした世界に、新型コロナウイルスが襲来した。豪華クルーズ船「ダイヤモンド・ダスト号」で、感染者が発生。此の対応で、厚労省を始めとする安保宰三(あぼ さいぞう)政府は後手に回る。
一方、北海道の雪見市救命救急センターでもクラスターが発生。速水晃一(はやみ こういち)センター長を始め、対応に追われる。
クルーズ船感染者を、東城大学医学部付属病院ホスピス病棟「黎明棟」で引き受ける事になり、新型コロナウイルス対策本部に任命された田口公平(たぐち こうへい)が、其の任に当たる。
一方、東京では嘗て“日本三分の計”を打ち出し、挫折した元浪速府知事・村雨弘毅(むらさめ ひろき)を筆頭に、政策集団「梁山泊」が安保内閣の打倒を目指していた・・・。
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現役の医師で在り、作家でも在る海堂尊氏の「コロナ黙示録」は「田口・白鳥シリーズ」に含まれる作品で、新型コロナウイルスに見舞われた世界を描いている。フィクションという事にはなっているが、登場人物の多くが「彼(又は彼女)の事だな。」と思わずニヤッとしてしまう様な、実在の人物を思い浮かばせる設定だ。
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・安保政権は外交と経済の業績が自慢だが、外交はカネをばらまくが実質的な成果は何もない。米国には軍事費を始め、諸々搾取されっぱなしだし、国民の悲願、北方領土返還問題は棚上げで協議入りすらできず、北朝鮮の拉致問題は解決の糸口もつかめていない。止む無く事在る毎に嫌韓の風潮を煽ることが安保外交の中心になった。世界史的にはこういう手法は内政・外交に行き詰った独裁政権の最後の悪あがきで、断末魔的な症状なのだが。
・だが天国(地獄?)で父宰太郎(さいたろう)はそのことを喜んでいたかもしれない。なぜなら幼い頃から、宰三には人の情がない、一番政治家にしてはいけないヤツだと酷評していたからだ。
・絶体絶命だったが宰三には姑息な特技があった。議論をまともに受けずに茶化し、論点をぼかしてしまうという技術だ。加えて愛妻・明菜(あきな)が考えた「悪夢の民友党時代」という言葉を連呼し、屁理屈を弄し非難し続けた。それは効果的なフレーズだったが、酷い冤罪だった。
・たとえ「フェイク」であったとしても、人々が受け入れたら、「ファクト」になる。
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「世論調査で支持率が下がっても、約3割は支持し続けている。」というのが、安倍晋三政権及びドナルド・トランプ政権の共通点だ。共に中身が全く無く、自身の権力を握り続ける事だけに汲々としていて、公私混同としか思えない問題を連発しているのに、国民の約3割は“鉄板の支持者”なのだ。“外交の安倍”というフレーズ1つ取っても、自分の頭できちんと考えれば「何1つ成果を残していない。」のが判るだろうに。こういう人達の多くは、彼等が目の前で明らかな犯罪を犯したとしても、変わる事無く支持し続けるのだろう。
過去に「安倍政権の異常さ」を何度も何度も書いて来た自分なので、「コロナ黙示録」内で描かれる安保宰三首相の異常さには、全て思い当たる所が在る。「異常な言動を繰り返しても、長期政権を成し遂げられるシステムが、何の様にして作り上げられて行ったのか?」も、詳しく記されていて興味深い。
又、「“現実の世界”で、新型コロナウイルスが何の様にして広がって行ったのか?」というのが時系列で記されているので、未曽有の災厄に付いて頭の中を整理する上で、非常に役立つ事だろう。
「此の作品、評価は大きく分かれるだろうな。」と思っていたが、ネット上を見ると案の定だった。極端に低い評価を付けている人のコメントを読むと、多くは尤もらしい理由を書いているものの、要するに「安倍首相にとって不都合な事柄は全てフェイクで在り、そういう事柄を論うのは許せない!」思いが透けて見える。「様々な角度からの情報に触れた上、自分の頭で考え抜いた結果の判断。」ならば良いのだが、ネット上に転がっている“自分にとって好ましい一方向からだけのフェイク情報”だけしか触れず、妄信しているのだとしたら、「何だかなあ・・・。」という思いしか無い。(安倍政権に批判的な自分だが、過去に書いた様に、彼が行った事で評価した事柄も在る。自分に合うor合わないというのは無関係に、様々な角度からの情報に触れた上、是々非々で判断した結果の主張で無ければ、全く説得力を持ち得ないだろう。)
「余りにもエキセントリックな言動から、不快な気持ちにさせられる人物。」の白鳥圭輔(しらとり けいすけ)だが、今回の作品では「新型コロナウイルスで、日本の医療体制が崩壊しない様に動き回る熱さ。」が感じられ、珍しく好印象を持った。
総合評価は、星3.5個とする。