*****************************************************************
救急医・武田航(たけだ わたる)の元に搬送されて来た、一体の溺死体。其の身元不明の遺体「キュウキュウ12」は、何と武田と瓜二つで在った。
彼は、何故死んだのか?そして、自身との関係は何なのか?武田は旧友で医師の城崎響介(きのさき きょうすけ)と共に、調査を始める。然し、鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体と成って発見されてしまう。
自らのルーツを辿った先に在る、思いも寄らぬ真相とは?
*****************************************************************
今回読了した「禁忌の子」(著者:山口未桜さん)は、第34回(2024年)鮎川哲也賞を受賞し、「2024週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」で3位に選ばれた小説だ。プロフィールを読むと、山口さんは1987年生まれの現役の医師。元々、「小説を書いて生きて行く。」という夢を持っていたが、医学の道に進む為、一度は諦めたものの、自身の出産を契機に小説を書き始めたのだと言う。"16年間のブランク"を経て、夢を実現したのは本当に凄い事。
*****************************************************************
禁忌:忌 み嫌って、慣習的に禁止したり、避けたりする事。又、其の物。タブー。
*****************************************************************
救急医・武田航の元に一体の男性の溺死体搬送されて来るのだが、彼は顔形も然る事乍ら、身体的特徴迄もが航と瓜二つ。でも、航は、便宜的に「キュウキュウ12」と名付けられた彼の事を全く知らないし、亡くなった父母等からも、そんな"兄弟"が居るという話は全く聞いた事が無く、「どういう事なのだ?」と当惑してしまう。其処で航は、中学時代の同級生で、現在は同じ病院で働く城崎響介と共に、"事件"の調査に乗り出す。
現役の医師という事も在り、医療現場の描写等が実にリアル。謎が明らかに成って行く過程も含めて"読ませる内容"だし、"探偵役”の城崎が実に個性的でキャラ立ちしており、ストーリーにどんどん引き込まれて行く。そして、何よりも"犯人の意外性"が際立つ。ミステリーの世界では「犯人=意外過ぎる人物」という設定は常識だが、ミステリーを読み込んで来た自分ですら「えっ!」と驚かされる人物が犯人だったので。
「結局、犯人は野放し状態の儘では?」等、其の結末には賛否両論在る事だろう。或る人物と或る人物との"関係性"に付いても、「そんな偶然って在るか?」という声も在りそう。
でも、ミステリーとしては凄く面白いし、「新人作家で、こんなにも完成度が高い作品を書くって凄いな。」と思った。同時に「『2025本格ミステリ・ベスト10【国内編】』及び『このミステリーがすごい!2025年版【国内編】』には、『禁忌の子』がベスト10に入らなかったのは何故だろう?」という疑問も。
「禁忌の子」の「禁忌」に込められた意味合いが、非常に重く伸し掛かって来る結末で、複雑な思いに成る読者も居る事だろう。
今年、シリーズの続編「白魔の檻」の上梓が決まっている。城崎響介も登場する様で、今から楽しみ。
総合評価は、星4つとする。