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平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷付けたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家・・・始まりは、細やかな秘密。気付かぬ内にじわりじわりと「御金」の魔の手は遣って来て、見逃した筈の小さな綻びは、彼等自身を搦め捕り、蝕んで行く。
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芦沢央さんの小説「汚れた手をそこで拭かない」は5つの短編小説から構成されており、「2020週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の5位に選ばれた。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺が在る。「1つの行為が引き金となり、次々と新たな出来事が発生する。」という内容で、「表面的には全く無関係に思える事でも、実は関係性を持っていた。」という譬えだ。「汚れた手をそこで拭かない」は、風吹けば桶屋が儲かる的な話が中心。
悪意が無い、又は悪意が少ししか無かったのに、1つの行為がどんどん悪い方向に転がって行き、最悪の状況となってしまう。良く在る話でも無いけれど、全く無い話でも無い。「埋め合わせ」という作品は「自分のミスで排水バルヴを閉め忘れ、学校のプールの水を全て抜いてしまった小学校教諭。」の話で、決して安くは無い補償額と責任問題になる事を恐れ、悪い考えを実行してしまう。きちんと報告し、責任を取れば済んだ事なのに・・・どんどんと状況は悪化してしまう。程度の差こそ在れ、似た様な事は、少なからずの人が経験しているだろう。結末としては自分が予想していたのと違ったけれど、「“人間が持つ嫌な部分”を表している。」という点では一緒。
又、「意外な関係性が明らかになって行く。」という「忘却」という話も面白かったが、「全体としては凡庸な作品揃い。」という感じがした。表題の「汚れた手をそこで拭かない」という作品も存在せず、「5作品全部通しても、何か無意味で、パッとしない表題だなあ。」という思いが。
総合評価は、星3つとする。