ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「兎は薄氷に駆ける」

2024年06月01日 | 書籍関連

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或る嵐の晩、資産家の男性が、自宅で命を落とす。死因は、愛車のエンジンの不完全燃焼による一酸化炭素中毒容疑者として浮かんだ被害者の、日高英之(ひだか ひでゆき)の自白で、事件は解決に向かうと思われたが、其れは15年前の殺人事件に端を発する壮大復讐劇の始まりだった。警察検察、15年前の事件の弁護も担当した弁護士・本郷誠(ほんごう まこと)、事件調査を請け負う垂水謙介(たるみ けんすけ)、英之の恋人・大政千春(おおまさ ちはる
)。其れ其れ思惑絡み合い、事件は意外な方向に二転三転して行く。
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貴志祐介氏の小説兎は薄氷に駆ける」は、「15年前、軽度障害を持つ父・平沼康信(ひらぬま やすのぶ)が殺人容疑逮捕され、そして、収監中に死亡。」という過去を持つ日高英之を、何とか救おうとする3人の人物が主人公。「康信は人権を無視した警察の過酷な取り調べにより、虚偽の自白をさせられた挙句、収監中に死亡した。」という疑いが強く、又、「そんな父の名誉を回復したい。」と考える英之も、叔父殺しの容疑で逮捕されてしまうのだが、其の自白には人権を無視した警察の過酷な取り調べが存在。此奴が犯人だ!」という決め付け在りきで事を進める警察及び検察。そういうスタンスにより、生み出されてしまい兼ねない冤罪テーマにした作品で在る。

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そもそも、殺人の被害者や遺族にすれば、殺人者が責任能力有無によって減刑されたり、無罪になったりするのは、理不尽極まりない制度に映っているはずだ。心神喪失心神耗弱は、飲酒や薬物によるものも含まれるが、自分の意思で、酒を飲んだり薬物を摂取しているのに、それで罪が免じられるというのは、とうてい納得がいかないだろう。

・「質問を変えましょうか。指紋というのは、一般に、どの程度の期間保つものなんでしょうか?」。「それは、条件によって違います。」。長谷部(はせべ)は、正確を期そうとしているように証言台のマイクを口に近づけた。まず、指紋が付着している素材によって、検出が可能な期間は大幅に変わってきますので。指紋が最もよく保たれるのは紙で、ふつう、二、三年は検出できます。保存状態が良ければ、十年前の指紋でも採れる場合があります。。(中略一般的な硬質の素材、ガラス、鉄、プラスチックなどでは、通常二、三ヶ月は残っています。ただし、屋外の場合は、風雨にさらされたり、紫外線によって分解されたりするので、ずっと短くなります。
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貴志氏は1996年、「十三番目の人格 ISOLA」で文壇デビュー此の作品はミステリー型のホラー小説分類されるが、以降、彼は此の手の作品“も”十八番としている。「兎は薄氷に駆ける」のには此れぞ現代の“リアル・ホラーという惹句が記されており、矢張りミステリー型のホラー小説という事になろう。

読み進めて行くと、どんどん不快感が増して行く。「人権等を一切無視した取り調べを行う警察。」や「流れ作業
での処理に腐心する検察」の姿等がそうさせるのだけれど、後半に入って行くに連れ、他の者達の言動も不快感を増させる。狂気に支配された者達の言動”というのは警察や検察の人間にも見られたが、後半で明らかとなる“彼等”の其れ度を越している。唯々不気味で、そういう意味では“リアル・ホラー”なのかも。

ミステリーの醍醐味の1つは、「どんでん返しにより、予想を超えた意外性を堪能出来る事。」だと思っている。「兎は薄氷に駆ける」でも、“一応は”どんでん返しが設けられているけれど、多くの読者に「思ってた通りじゃないか。」と思わせるで在ろう結末なので、意外性が全く無い。残るのは不快感だけ。貴志作品が好きな自分は、大いに失望させられた。

総合評価は、星2.5個とする。


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