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同潤会:内務省によって、1924年に設立された財団法人。1923年に発生した関東大震災の義捐金を基に設立され、東京と横浜で住宅供給を行った。集合住宅「同潤会アパート」(16ヶ所)の建設で知られている。
同潤会代官山アパート:関東大震災によって大破した青山女学院の跡地に着工され、1927年~1928年に掛けて、36棟の建物が竣工した。2~3階建てで、汲み取り式便所が普通だった当時に水洗トイレが供えられる等、当時としては非常にモダンな建物だった。1953年になるとアパートは住民等に払い下げられ、以降は各居住者による無秩序な増改築が目立つ様に。老朽化した事から、1996年に解体工事が始まり、2000年に都市型複合住宅「代官山アドレス」に生まれ変わった。
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「ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ」で有名な小説家・三上延氏が、同潤会代官山アパートを舞台に、1人の女性の人生を描いた作品「同潤会代官山アパートメント」を読了。
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関東大震災で最愛の妹・愛子(あいこ)を喪った八重(やえ)は、妹の婚約者だった竹井光生(たけい みつお)と結婚したが、最新式の住居にも、新しい夫にも、上手く馴染め無い。
昭和と共に誕生し、其の終焉と共に解体された同潤会代官山アパート。其処に暮らす一家の歳月を通して、時代の激流に翻弄されても、決して失われない“魂の拠り所”。
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「同潤会代官山アパートメント」は、プロローグとエピローグの間に“7つの章”が存在する。プロローグが1995年の日本(阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が発生した年。)を描き、“第1章”の「月の砂漠を」では1927年に遡る。以降の章では約10年ずつ時代が現代に近付き、エピローグでは再び1927年に遡るという構成。具体的に言えば、「1995年→1927年→1937年→1947年→1958年→1968年→1977年→1988年→1997年→1927年」という流れだ。
関東大差震災発生時、“12階”と呼ばれた高層建築物「凌雲閣」に上っていた愛子は、倒壊によって亡くなってしまう。彼女の婚約者だった竹井光生は、軈て愛子の姉・八重と結婚する事になるのだが、愛した人を建物の崩壊で喪った事から、頑丈な同潤会代官山アパートメントに住む事を決めるという展開。
1977年に放送されたTVドラマ「ルーツ」は、作家のアレックス・ヘイリー氏の先祖、即ち“ルーツ”を辿り、そして描いた小説を原作にしており、非常に面白い作品だった事は、過去に何度か書いている。“壮大さ”という面では「ルーツ」に及ばないものの、八重を“軸”にして、彼女の曾孫の代迄を描いた「同潤会代官山アパートメント」は、「ルーツ」に劣らず面白かった。
又、世相を表す記述からは、“時代の雰囲気”が伝わる。自分がリアル・タイムで知らない“昭和戦争”の時代は然る事乍ら、阪神・淡路大震災等の知っている時代の雰囲気が、改めて伝わって来た。
総合評価は、星3.5個とする。