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「君は満洲という白紙の地図に、夢を書き込む。」。
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川(ほそかわ)。ロシアの鉄道網拡大の為に派遣された神父クラスニコフ。叔父に騙されて、不毛の土地へと移住した孫悟空(ソンウーコン)。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野(すの)。奉天の東に在る<李家鎮>へと呼び寄せられた男達。“燃える土”を巡り、殺戮の半世紀を生きる。
1つの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦迄の半世紀、満洲の名も無い都市で繰り広げられる知略と殺戮。
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第13回(2022年)山田風太郎賞及び第168回(2022年下半期)直木賞を受賞した小説「地図と拳」(著者:小川哲氏)を、図書館で借りて読了した。読了する迄、凪時間を必要とし、借りては返すを何度も繰り返したのは、6百頁を超える大長編という事“だけ”が理由では無い。「読んでいてドキドキ感と言うか、高揚感が余り湧かず、読み進める気力が何度も失せたから。」だ。「“主人公”と思っていた人物が、“新たな主人公”へと切り替わって行く。」という繰り返しも、読み進める気力を失わせた要因。
でも、全体の3分の2を過ぎた辺りから、ストーリーに引き込まれて行った。「1899年夏」から「1955年春」という“56年に亘る長期間を舞台とした大河ドラマ感”に加え、戦争という“異常な世界”を通して変貌して行く登場人物達の内面と外面に興味を惹かれたので。山田風太郎賞及び直木賞という“ビッグな賞”を受賞したのも納得。
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・一つの戦争や事変がその後の戦争や事変の引き金となり、そうやって歴史は連綿と続いていく。むろん支那事変も、未来に広がったさまざまな可能性の原因の一つとなるだろう。過去と未来は対立する二つの概念ではなく、現在という親から生まれた双子のようなものなのだ。
・「せっかくだし問題を出そう。超高層の建築を実現するため、絶対に必要だった技術とは何だろうか?」(中略)「答えは、エレベーターと空調機の発明だよ。この二つの技術が、超高層を実現させたのだ。エンパイア・ステート・ビルディングを設計した男はそう言っていたよ。四百メートルの建物では、高層階へ階段で移動する訳にはいかない。利用者を運ぶためにエレベーターが必須だった。また高層階では風が強く、窓を開けることもできないので、換気をするための空調機も必要だった。実用的な高層ビルディングには、この二つの技術がなければならなかった。」。
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「拳→暴力→戦争」という発想から、タイトルの「拳」には「戦争」が重ね合わされている。詰まり「地図と拳」は「地図と戦争」という意味合いが在り、其れを考え合わせると“意味深いタイトル”だと思う。
最初から3分の2位迄が「残念!」という感じが在り、其れが減点ポイント。総合評価は、星3.5個とする。