薬丸岳氏の作品「刑事のまなざし」は「オムライス」、「黒い履歴」、「ハートレス」、「傷痕」、「プライド」、「休日」、そして「刑事のまなざし」という7つの短編小説から構成されている。全てに登場するのが30代後半の刑事・夏目信人で、彼は大学院を出た後に法務技官として働くも、30歳の時に警察学校に入り、刑事になったという異色の経歴を持つ。
子供好きで学校の教師になりたいという希望を持っていた彼が、「罪を犯した少年と向き合う。」という法務技官になったのは、大学院の見学実習で訪れた埼玉の児童養護施設で或る少年に出遭ったからだ。ずっと両親から酷い虐待を受けて来た其の少年を、夏目は親身になって指導するも、結果的に救えなかった挫折感が、彼を法務技官の道へと進ませた。
しかし10年程前に発生した或る事件により、彼は法務技官を辞め、刑事になる決意をさせる事に。「人を信じる」という立場から、「人を疑う」という立場に変わった彼が、7つの事件を解き明かして行く訳だが、「人を100%疑い切れず、心の何処かに葛藤を抱えている。」様な夏目という人物は、実に面白いキャラクター。「シリーズ物が成功するか否かは、主人公がどれだけ魅力的かに掛っている。」と言っても良いが、そういう意味では夏目なるキャラクターはシリーズ物に合っている気がする。
最初の「オムライス」という作品が、一番インパクトが在った。犯人は当てたのだけれど、其の動機が予想外で、尚且つ「堪らない程に、後味が悪い動機。」だったので。最近は実社会でも、そういった動機での犯行が無くは無いけれど・・・。
最後の「刑事のまなざし」という短編小説で「取り敢えずの完結」という感じもするが、是非シリーズ化して欲しい。総合評価は、星3.5個。