ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「カシオペアの丘で」

2020年05月15日 | 書籍関連

「2000年に直木賞を受賞し、幾つかの作品がTVドラマ化&映画化された程の売れっ子作家だけれど、彼の作品を全く読んだ事が無かった。昨年、原作をTVドラマ化した『流星ワゴン』の再放送を見て、非常に感動した。先日、『流星ワゴン』が再放送されていたのを見る機会が在り、改めて心揺り動かされ、彼の作品を読む事にした。」のが、重松清氏の長編小説カシオペアの丘で」で在る。

*********************************************************
丘の上の遊園地は、俺達の夢だった。

悪性腫瘍を告知された39歳の秋、柴田俊介(しばた しゅんすけ)は、2度と帰らないと決めていた故郷へ向かう。其処には、嘗て傷付けてしまった友が居る。初恋の人が居る。“王”と呼ばれた祖父が居る。満天瞬くカシオペアの丘で、再会と贖罪の物語が、静かに始まる。
*********************************************************

「嘗ては炭鉱町として栄えた北海道の北都市。1977年10月9日の夜、こんもりと盛り上がった形の丘に、小学校4年の同級生4人が集まる。“シュン”、“トシ”、“ユウ”という綽名の男の子3人と、“ミッチョ”という綽名の女の子1人だ。彼等が丘に集まった理由は、其の年の夏に打ち上げられたNASAの無人宇宙探査機ヴォイジャー2号』と『ヴォイジャー1号』を、夜空で見付ける事だった。目的は叶わなかったが、夜空に瞬く星々に心動かされた彼等は、何も無い此の丘に将来、遊園地が出来る事を望み、そして丘を“カシオペアの丘”と呼ぶ事にする。」、「カシオペアの丘」はそんな感じで物語がスタートする。

そして、時は流れて30年後。“シュン”と呼ばれていた倉田俊介(くらた しゅんすけ)は39歳となり、想像もしていなかった肺癌を告知される。残された日々は、長くて1年と言う。或る理由から祖父・倉田千太郎(くらた せんたろう)を憎み、「故郷には2度と帰らない。」と決意して東京に移り住んだ俊介。“倉田家”と縁を切る意味も在って、“柴田家”に入り婿した彼は、同い年の妻と小学校4年の息子を抱える父親となっていた。そんな彼が、死を間近にした事で、故郷に帰る事になる。疎遠になっていた“友”や“家族”と会い、俊介の気持ちは少しづつ変化して行く。そういうストーリー展開。

「将来、遊園地が出来る事を望んだ丘。」には、実際に遊園地が出来ている。でも、遊園地と呼ぶには物足りない程、施設的には御粗末で、来園者数も非常に少ない。嘗ては炭鉱町として栄えていたが、今は寂れている北都市は、「若い頃は溌溂としていても、年を重ねれば老いて行き、最後は死を迎える。」という人生と似ている。「流星ワゴン」でも“死”と直面する人間が描かれていたけれど、「カシオペアの丘で」でも“死”というのが重要なテーマとなっており、非常に印象的だ。

又、“家族”というのも「流星ワゴン」で重要なテーマだったが、此の作品でも同様で、合わせて“友”という存在も大きく取り上げられている。そういう所が、個人的にはぐっと来てしまう。

********************************************************
・一万二千年後には、いまの北極星は位置を変えてしまい、こと座ベガが北極星になる。そして、いまは存在しない南極星の位置には、りゅうこつ座カノープスがつく。果てしない遠い未来の話でも、ベガとカノープスが一年に一万二千分の一ずつ天の北極南極に向かって動いていることは確かだ。あの夜からの三十年なら、割り算をすれば四百分の一。僕たちが生まれてからの四十年なら、三百分の一。ベガとカノープス以外にも、さまざまな星が、それぞれに動き続けている。

・神さまは、どうして、人間に「好き」という感情を与えたのだろう。「好き」がなければ「嫌い」もない。そうすれば世の中のたいがい厄介ごと消え去るはずだし、「好き」が暴走した果ての、真由(まゆ)ちゃんが殺されたような悲劇も起きないはずなのだ。でも、俺は知っている。おとなだから知っている。「好き」も「嫌い」もなくなった世界は、のっぺりとして、真っ平で、つまらなくて、なにより寂しいものだろう。
********************************************************

アポロ12号に関する“間抜けな逸話”には、良い意味での“人間らしさ”が感じられ、にやっと笑ってしまった。又、最後の方では、読んでいて涙が溢れてしまった。「流星ワゴン」といい、心の琴線に触れる作品を書くのが上手な作家だ。

此の作品に関する評価は、はっきり分かれている。「長編過ぎて、余りにも冗長。」というのが、マイナス評価を下した人達の多くの理由だった。今回読んだ文庫版の場合、上・下巻合わせて8百を超えているし、冗長さを感じる部分が無い訳では無い。でも、そういう部分を加えても、個人的にはぐっと来る作品だった。「近しい人を、少なからず見送って来た。」、「“死”という物が、そんなに遠い存在では無くなって来た。」等の点から、年齢を重ねた人程、思う所が多い作品かも知れない。

総合評価は、星4つとする。


コメント    この記事についてブログを書く
« なかにし礼作品ベスト10 | トップ | “死”に付いて思いを馳せる機... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。