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明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのは、IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久(まきば ともひさ)。此れぞ、暗号ミステリの最高峰。
いろは48文字を一度ずつ、全て使って作るという、日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」48首が挑戦状。其処に仕掛けられた空前絶後の大暗号を解読する時、天才しか為し得ない「日本語」の奇蹟が現れる。
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「2017本格ミステリ・ベスト10【国内編】」の4位、「2016週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の3位、そして「このミステリーがすごい!2017年版【国内編】」の1位に輝いた小説「涙香迷宮」(著者:竹本健治氏)。推理作家の他にSF作家の顔も持つ竹本氏は、デビューから今年で40年目の大ヴェテランだが、彼の作品を読むのは今回が初めてだった。
「黒岩涙香」という人物に関しては、其れなりの知識が在った。ジャーナリストとして日刊新聞「萬朝報」を創刊し、100種類以上もの外国小説を翻案した人物。翻案された作品には「月世界旅行」や「鉄仮面」、「巌窟王」、「噫無情」等、彼の翻案によって、我が国でも広く知られる様になった物は多い。又、ミステリ好きとしては、“日本初の創作ミステリ”と言われる「無惨」を著した作家というイメージも。
此れだけでも“凄い才能の持ち主”と思ってしまうのだが、「涙香迷宮」によると、彼の才能はこんな物では無い。「五目並べ」を「連珠」と命名&発展させ、競技かるたのルールを全国統一させた。其れだけでは無く・・・。
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「いやいや。まだまだこんなものじゃないよ。涙香が手を染め、熱中し、結果として一流の腕前に至った趣味娯楽を数えあげると、囲碁、連珠、かるた、花札、ビリヤード、漢詩、狂詩、都都逸、自転車、競馬、野球、闘犬と数限りなく、およそ将棋と釣り以外は、世間の人が手がけるものを悉くやったと言っていい。武芸百般ならぬ、遊芸百般だね。(後略)」
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「何を遣っても、相当レヴェルの腕前になってしまう。」というのだから、凡人の自分からすると羨ましい限りだ。
「萬朝報」では明治38年、「新いろは歌」を懸賞募集したそうだ。涙香自身がいろは歌に対して深い思い入れを持っていたのだろうけれど、そんな涙香が「いろは48文字を一度ずつ、全て使った48種の歌、其れも48種の冒頭の文字が全て違っている歌を作った。」という“設定”で、「涙香迷宮」は著されている。“設定”と書いたのは、実際に此れ等の歌を作ったのは竹本氏自身だからなのだけれど、其の量や完成レヴェルの高さには絶句。此れ等の歌が暗号となっており、其の暗号を解くと、更なる暗号が浮かび上がる。此れだけの仕掛けを作り上げるのに、何れだけの時間を費やしたのだろうか?素晴らしい!
唯、残念な面も在る。真犯人の殺人動機が、「そんな事で、人を殺してしまう!?」と思ってしまう程、弱過ぎる感じが在るからだ。世の中には色んな人が居り、劣等感が余りに強過ぎると、人を殺めてしまう事が在るのかもしれないが・・・。
暗号解きの部分だけならば「星4つ」を与えられる作品だが、上記の動機の弱さがどうしても気になってしまう。総合評価は、星3つとする。