小説「臨床真理」で第7回(2008年)「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞し、文壇デビューした柚月裕子さん。此の作品に関する自分の総合評価は、「星3.5個」だった。以降、彼女の作品は「最後の証人」(総合評価:星3つ)、「孤狼の血」(総合評価:星4.5個)、そして「慈雨」(総合評価:星3.5個)の4作を読了。今回の「盤上の向日葵」は5作目となる。
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埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品で在る「初代菊水月」作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破剛志(いしば つよし)と、嘗てプロ棋士を志していた新米刑事・佐野直也(さの なおや)のコンビが調査を開始した。
其れから四ヶ月、2人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる「竜昇戦」会場だ。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とは!?
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「2017週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の第2位、「このミステリーがすごい!2018年版【国内編】」では第9位に選ばれた「盤上の向日葵」は、将棋の世界を描いたミステリー。
「中学3年生のプロ棋士・藤井聡太四段が大活躍。」、「“ひふみん”事加藤一二三九段が注目を集める。」、「竜王戦を制した羽生善治九段が、史上初めて『永世七冠』の称号を得る。」等、昨年は大きな注目を集めた将棋界。「そんな将棋人気に乗っかった作品なのだろう。」と思っていたら、此の作品が読売プレミアムで連載開始となったのは2015年夏からという事で、将棋人気に乗っかっての作品という事では無かった。将棋人気が起こる以前に、将棋の世界を舞台にした作品を書き始めた柚月さんは、先見の明が在ったという事になる。
埼玉県天木山山中で発見された白骨死体共に発見された駒袋の中には、600万円とも言われる「初代菊水月」作の将棋の駒が1組入っていた。「そんなに高価な駒が何故、死体と共に埋められていたのか?」というのが、此の作品の大きな謎となっている。
ヴェテラン刑事・石破と共に捜査に当たるのは新米刑事の佐野で、彼は嘗てプロ棋士を志すも、“年齢制限”の壁に阻まれ、失意の内にプロ棋士になる夢を断念した過去が在る。将棋を愛し乍らも、「将棋に関する事には、2度と触れない。」と誓った彼が、刑事として将棋が関わる殺人事件に当たる事となる。複雑な思いを抱える彼が、将棋に関する知識が余り無い石破に対し、“将棋の世界の常識”を説明して行く事で、(自分も含めた)将棋の世界には全く興味が無かった者でも理解出来る内容となっている。
ストーリーは「殺人事件の捜査に当たる石破達。」という“今”と、「異例な経歴を持つプロ棋士・上条桂介(かみじょう けいすけ)六段。」の“今”及び“過去”という3つの“視点”から描かれている。作品から伝わって来る雰囲気は、東野圭吾氏の小説「手紙」や「白夜行」と似た感じが在り、切ない思いが読後に残る。
謎解きという面では「充分満足出来た。」とは言えないけれど、一気に読ませる筆致力の高さ。「2017週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」で第2位に選ばれたのも当然だ。
総合評価は、星4.5個とする。