ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「アビエイター」 ~全ての夢を掴んだ男~

2005年04月17日 | 映画関連
本年度のアカデミー賞で、最多の5部門を受賞した映画「アビエイター」を見て来た。タイトルのAviator(実際の発音は「”エイ”ビエイター」なのだが。)とは「飛行家」の意味で、主人公のハワード・ヒューズ氏が大富豪で在ると同時に、飛行家で在った事から来ている。

油田掘削機の発明で莫大な財を成した父を持つヒューズ氏。その富を受け継いだ彼は、会社経営をする一方で、映画プロデューサーや映画監督、航空機製造者、そして飛行家の顔も持っていた。本業である会社経営を人任せにしてまで彼がのめり込んだのは、映画プロデューサー(乃至は映画監督)の仕事だった。映像に拘り、金に糸目を付けずに湯水の如く自己資金を注ぎ込む彼を、ハリウッドの映画人達は「採算性を度外した気違い沙汰。所詮は金持ちの道楽。」と嘲笑を持って迎えられた。「地獄の天使」や「暗黒街の顔役」、「ならず者」等でヒットを飛ばす一方で、余りにも莫大な制作費の為に大損する事も再三だったとか。

幼い頃より機械いじりが好きだった彼は、航空機製造にも熱を上げ、世界最速の航空機を作るべく、これ又湯水の様に資金を投入。設計&開発に口を挟むだけではなく、自ら新機種の操縦桿を握り、数々の新記録を樹立。1938年にはかのチャールズ・リンドバーグ氏が保持していた「ニューヨーク-パリ間横断記録」を更新するに到った。

キャサリン・ヘプバーンエヴァ・ガードナー等の大物ハリウッド女優達と多くの浮名を流す等、公私に亘って派手な男だったと言えるだろう。

映画制作や航空機製造に於いて、自社の財務担当者の忠告を無視して資金を注入する彼。金を積み上げる事で、全てを解決しようという姿が露骨に見られる。又、目的達成の為には手段を選ばず、買収や乗っ取り、そして売却を繰り返して行く姿からは、今話題の中心に在るあの人の姿がオーバーラップしてしまった(^o^;;;。

そんな彼には、度の越した潔癖症と変わり者な面も存在した。幼少時より過保護な母親に溺愛されて育てられた彼は、同年代の子供達と遊ぶ機会も殆ど無く、又、極度に清潔さを求めた母親の影響も在って、他者とのコミュニケーション能力に劣る超潔癖症な人格が作り上げられていったと言える。

常に自分用の石鹸を持ち運び、トイレでは延々と時間を掛けて手を洗い続ける彼。「他者が触った物は不潔。」と信じて疑わない彼は、トイレのドアノブすらも自ら廻そうとせず、誰かが入って来る迄待ち、ドアが開くと同時に脱兎の如く隙間から飛び出して行く彼。他者が摘んだ食事に口を付ける等はもっての外。*1この性癖は、1946年に自らが操縦する航空機で墜落事故を起こし、全身大火傷で命は何とか取り留めたものの、容貌が激変してしまった事で一層の拍車が掛かる事となる。

極度の細菌恐怖症になってしまった彼は、最高級ホテルの最上階に引き篭もり、人との接触を絶って素っ裸で日々を送っていたのだとか。同じ言葉をうわ言の様に繰り返し、大好きなミルクやアイスクリームばかりを食べ続け、暗く閉ざされた部屋で大好きな映画を見続ける彼。潔癖症で在りながらゴミが散乱する室内に、彼の精神の錯乱の程が窺える。1976年に腎臓機能不全で70歳の命を終えた彼は、指紋確認を行なわなければ本人と判らない程容貌が一変し、薬物の影響からか身長は10数センチも縮んでいたという。全ての夢を掴んだ筈の男の末路。結婚生活にも恵まれず、この人の人生は本当に幸せだったのだろうか?と思ってしまった。

以前、「うちのお父ちゃんが。」で有名だった大屋政子さんの人生を描いた番組を見た事が在る。大富豪で何時も朗らか、「天真爛漫」という言葉を体現したかの様な彼女が、実は一生に亘って他者への猜疑心と恨み心を持って生きていた一面が在ったのを知り、不幸せな一生だったのかもしれないなあと思ったが、それと同じ思いを感じてしまった。

他者が経験出来ない様な贅沢さと波乱に満ちた人生を送るのが、幸せなのか不幸せなのかは人によって判断は異なるだろう。自分も余りにも退屈に過ぎる人生は送りたくは無いし、”多少の”波乱万丈な人生は送ってみたい気も在る。でも、若くしての苦労は一向に構わないが、晩年は平穏な生活を送りたいと思う。恨み言や悔い事を残しての死だけは迎えたくないものである。

因みに、肝心な映画の評価だが、アカデミー賞には何故か縁が薄い主演のレオナルド・ディカプリオ。アカデミー賞を総なめにした(11部門で受賞。)「タイタニック」ですらも、主演男優賞を獲得出来なかった不運さが漂う。そんな彼が満を持して臨んだこの映画。狂気漂う演技は素晴らしいと思った。

しかし、何か全体的に中途半端さは否めない。成功者の光と影の部分を描こうとしているのだろうが、ヒューズ氏の最期迄描くでもなく、人物描写も含めて中途半端さを感じた。中盤にやや間延びを覚える場面も在り、ディカプリオが今回も主演男優賞を逃してしまった一因も其処に在るのではないかと感じた。面白い作品では在るが、星3.5個といった感じだろうか。

*1 以前の職場で、ヒューズ氏そっくりの上司が居た。同僚のみならず客ともまともに会話せず、上から見下ろす様な感じで黙りこくっている人物だった。同僚の中には1年以上、彼の”声”を聞いた事が無いと言っている者すら居た程。(実際、近くに寄ると、終始小声で何かブツブツ言っていたのだが。)

手を洗うのに5分以上もかけていただけではなく、自動販売機で買った缶コーヒーもそのまま飲むのは汚いと、缶毎石鹸で一心不乱に洗い込んでいる姿を見た時は、正直怖さを覚えた。

病的な潔癖症という面では同情を覚えたが、それを上回る理不尽な言動(或る時、彼と共に路上を歩いていた所、彼が咳き込んだ事が在った。普通に「風邪ですか?」と聞いた所、それ迄能面の如く無表情な顔をしていた彼が、突如「誰が風邪なんて言った!」と激昂し出したのだ。そんな気分屋的な言動がしばしば、それも自分以外に対してもとられていた。)に、最後は顔を見るのもウンザリな状態になった。廻りの人間も同様に思っていて、彼は完全に孤立していたが、それを全く気にする風情も無く唯我独尊の道を行っていた。頭は切れるのかもしれないが、他者との”距離感”が掴めない人だった。

中年の域に達する自分では在るが、未だ嘗てあれ程迄にエキセントリックな人物に御目にかかった事が無い。当時は神経がやられそうな程の苦痛の日々を味わわされたが、今となっては稀有な人生勉強をさせて貰ったと”プラス思考”で考える様にしている(笑)。
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7 コメント

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TBありがとうございました。 (ELSA)
2005-04-17 11:56:36
実際にそーゆー人だったんですね。

とても気の毒な気がします。

映画では、ディカプリオの端正な容貌が激変しなくてよかった。

・・・でも、身近にはいて欲しくないタイプです。
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こんばんは。 (まほ)
2005-04-18 03:45:36
TBありがとうございました。こちらからもTBさせていただきますね。

自分のブログにもチラっと書いたことですが、潔癖症(というか強迫性障害)だったために「誰にも頼れない」「自分ですべてをやらなければ」という不安と焦燥に駆り立てられていたのでしょう。信じようようとしていたキャサリーン・ヘップバーンにも捨てられて。

でもだからこそ自分(だけ)を信じて前に進めたんでしょうね。

…そう思うとやっぱりなんだか切ない映画ですね
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TBありがとうございました。 (tabalog)
2005-04-19 15:29:16
こちらからもTBさせていただきました。

ロボット達がかわいいですね♪

これはgooのテンプレなんでしょうか?



さてさて、こちらを読んでわかった事がいっぱいあってびっくりしたのですが、映画を観ている限りですとハワードの父が油田掘削機を発明したとか、お母さんが潔癖症だとかわからなかったんですけど、やはり私のオツムの問題でしょうか?

寝てはいなかったはずなんですけど・・・(T_T)



それと「ば○こう○ち」というのを見て、家の近所で自分の家の壁に「キ○ス○教は死ね」みたいな事を書いている人がいまして、ついその事を思い出してイタズラトラバかと思いました。

すんません
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ありがとうございますTB (besame-mucho)
2005-04-29 00:03:57
そしてとても勉強になりました。これだけの知識をもって映画を観たらまた違った印象も受けたと思います。

私のまわりにも、極度のとは言いませんが、意外に潔癖じゃんって人はいます。やっぱり上司なんですが、潔癖症って男性に多いと思います。なんでだろ?
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>besame-mucho様 (giants-55)
2005-04-29 01:21:27
初めまして。書き込み有難うございました。



基本的に、書き込みして下さった方のブログへ、直接レスを付けさせて戴く形を取っているのですが、貴ブログのURLを失念してしまった為、こちらに書き込む失礼の段を御許し下さい。



この映画に関して多くの方が書かれている様に、かなり中弛みを感じさせる内容でした。上手く纏めれば、2時間一寸でも充分何かを伝え切れたのではないかと。ディカプリオが熱演していただけに、その点が残念です。



これからも宜しく御願い致します。
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ハワード (chishi)
2005-05-01 13:56:47
えてして

歴史に名が残るような人って、

どこかしら常人じゃぁない。

だから、こんなもんなんだろーなーと

思いつつ映画を観ました。

でもって、だからどうなの?と劇場を出るときに思ってしまいましたが(汗)

レオ様は頑張ってましたけどねぇ。
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こんばんは♪ (miyukichi)
2007-07-24 21:16:38
 こちらもTBさせていただきました♪

 上司の方、直接部下になると苦痛でたまらないのでしょうが、
 こうやって客観的にお話を伺うと、
 哀れさのほうが募りますね。。

 ハワード・ヒューズのことは存じなかったので、
 この壮絶な実話に圧倒されました。
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