今回の記事が、当ブログを立ち上げてから通算「3,333番目の記事」となる。ぞろ目も此処迄大きな数字になると感慨深くもなるが、改めて思うのは「4千本安打達成が視野に入って来たイチロー選手の凄さ。」だ。4千番目の記事なんて、今迄の更新ペースでも、後2年近く要するから。
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一浪してそこそこの私大に行き、そしてそこそこの会社に入学した武誠治(たけ せいじ)。“宗教の修行”の様な新人研修を1週間受けた際、「何かが違う。」と感じた彼は、会社に居心地の悪さを感じ続け、結局、3ヶ月程で退社。以降、自堕落&気儘に、親の臑を齧っしていた。
そんな彼が25歳を目前にして、母・寿美子(すみこ)が重度の精神的な病に罹患してしまう。「非常に頑固で、自分の事しか考えていない様な父・誠一(せいいち)。」と「名古屋の開業医の長男に嫁いだ、勝気で確り者の姉・亜矢子(あやこ)。」との諍いの中で、自分が如何に“甘ったれ”ていたかを思い知らされた誠治は、母の病気を改善させる為にも、就職して金を貯め、そして家を買う事を決意する。
バイトに精を出し、職捜しに、大切な人を救う為に奔走。「本当に遣りたい仕事って?」、「遣り甲斐って何?」等、脛齧りの頃には考えもしなかった様々な疑問に自問し乍ら、徐々に変わって行く誠治。
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3年前にTVドラマ化された、有川浩さんの小説「フリーター、家を買う。」。「面白いタイトルのドラマだなあ。」とは思っていたけれど、当時は有川さんの小説を読んでいなかった事も在り、実際に見てはいない。
此の小説を簡単に説明するならば、「家族内のトラブルと自身の就職活動を通して、甘ったれた青年が成長して行く姿を描いた作品。」という事になるだろう。「自分が今不幸なのは、全て○○の所為だ。」と他者に責任転嫁し、其れで済ませている誠治は、若かりし頃の自分自身を見ている様で、正直非常に気まずかった。後書きで有川さんは「誠治の駄目っぷりもかなり自分にかぶるところがあったりなかったり。」(彼女自身、内定が一個も取れずに、社会人になってから数年間バイトや派遣で凌いでいたそうだ。)で記しているけれど、余程の確り者でない限り、誠治に若い頃の自分を重ね合わせてみてしまう人は、結構居るのではないだろうか?
「亀の甲より年の劫」なんて表現が在るが、誠一が「履歴書1枚から見えて来る“人間性”」を次々に指摘しているシーンには、「確かにそうだよな。」と思ってしまう。「自分の立場」だけに固執していたら見えないけれど、「相手の立場」になってみたら見えて来る事って在るのだ。
一気に読み進んでしまう程、面白い作品なのは確かだが、「余りにも“予定調和”過ぎる展開。」だし、「近所の悪意が余りに酷い。」という面も在って、現実感に乏しさは否めない。小説として割り切って考えるにしても、評価は読む人によって大きく分かれる事だろう。
総合評価は、星3つとする。
「心身共に、其処迄追い詰められてしまった母親」という設定にするには、「度の過ぎた近所の悪意」というのは仕方無かった面も在りましょうね。唯、ネット上のレヴューで「そういう面も在るか。」と考えさせられたのは、「強度な鬱病に罹患している人が此の小説を読んだ際、(鬱病の)母親の言動に自分を重ね合わせ過ぎてしまい、結果として『役に立たない自分なんかは、世の中に存在してはいけないのだ。』等と自分を追い込んでしまい兼ねない。」という指摘。「小説としては面白いけれど。」という但し書きが在った上での指摘でしたが、「そういった面は在るかもしれないなあ。」と。飽く迄も「小説」ですから、ああだこうだ言うのは無粋だけれど、「病気」に関わる内容に関しては、記述に一定の配慮が必要な面も在るでしょうね。自分の場合、其処迄は気にならなかったけれど。