日本語文章は書き手によるスタイルがある。
文章の材料とする新聞のコラム、天声人語は毎日掲載されるが、その執筆は複数の書き手によると思われる。
文章の文の単位に見ていくと、短く工夫をするのはどの日にも同じであるが、それでも主題主語を使ってまとめる文章には、その一文の構造に特徴がある。
20140402天声人語は小保方さんの騒ぎを話題にしている。
書き出しに、存在を規定し、主格主語を、博士論文がある と書きだしている。
その論文のタイトルは、「蛙（かえる）の眼球（めだま）の電動作用に対する紫外光線の影響」という、この一文をを続けている。
そして、小説「吾輩（わがはい）は猫である」に出てくる寒月（かんげつ）君の取り組む論文だ、として、架空のものを示唆する。
小説でもまだ書き上げていないことを説明に、あとでくわえている。
寅彦のことばもそのままに引用符付きで一文としている。
「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」まことにたくみな暗喩である、この文章の書き手がとるスタイルは、さすがである。
方は 漱石ファンだろう
寺田寅彦なのは 知られている
寅彦は 残した。
借用したのは 賛辞だった
書かねばならないのは やりきれない
理化学研究所は 公表した
核心は ある
小保方さんは 反論している
話は違ってこよう
論文は 出来る
時代は 遠く
科学者は いま
必要は ないか
にやりとした方
そのモデルが物理学者の寺田寅彦なの（だということ）
――味わいの深い多くの言葉を、寅彦は残した
そんな一節を１月の小欄で借用したの（こと）
喜びとともに報じた快挙を、カッコつきで書かねばならないの（こと）
所属する理化学研究所
――核心はなお藪（やぶ）の中にある
小保方さん
――話は違ってこよう
――顧みる必要はないか
にやりとした方は漱石ファンだろう。
そのモデルが物理学者の寺田寅彦なのは、よく知られている。
味わいの深い多くの言葉を、寅彦は残した。
そんな一節を１月の小欄で借用したのは、「大発見」をなした小保方晴子さんへの賛辞だった。
喜びとともに報じた快挙を、カッコつきで書かねばならないのはやりきれない。
所属する理化学研究所はきのう、研究に不正行為、それも捏造（ねつぞう）があったと調査報告を公表した。
ただ、核心はなお藪（やぶ）の中にある
小保方さんは「このままでは、あたかもＳＴＡＰ（スタップ）細胞の発見自体が捏造であると誤解されかねず、到底容認できません」と反論している。
細胞が本当に存在するのなら話は違ってこよう。
寅彦こと寒月君に戻れば、論文はいつ出来ると聞かれて「まあ十年か、事によると二十年」と呑気（のんき）に答える。
そんな時代は遠く、科学者はいま、魂が追いつかぬ疾走を続けているようにも思う。
顧みる必要はないか。
天声人語
2014年4月2日（水）付
＞ 実存はしないが、知る人ぞ知る博士論文がある。「蛙（かえる）の眼球（めだま）の電動作用に対する紫外光線の影響」という。にやりとした方は漱石ファンだろう。小説「吾輩（わがはい）は猫である」に出てくる寒月（かんげつ）君の取り組む論文だ。そのモデルが物理学者の寺田寅彦なのは、よく知られている
味わいの深い多くの言葉を、寅彦は残した。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである」。そんな一節を１月の小欄で借用したのは、「大発見」をなした小保方晴子さんへの賛辞だった
喜びとともに報じた快挙を、カッコつきで書かねばならないのはやりきれない。所属する理化学研究所はきのう、研究に不正行為、それも捏造（ねつぞう）があったと調査報告を公表した。懲戒委をつくって、処分を検討するそうだ
ただ、核心はなお藪（やぶ）の中にある。小保方さんは「このままでは、あたかもＳＴＡＰ（スタップ）細胞の発見自体が捏造であると誤解されかねず、到底容認できません」と反論している
細胞が本当に存在するのなら話は違ってこよう。重要な謎を残しつつ、理研側に、この騒動を、はた迷惑な独り芝居として葬りたい思いが透けていないか。最大の関心事を、つまびらかにする責任がある
寅彦こと寒月君に戻れば、論文はいつ出来ると聞かれて「まあ十年か、事によると二十年」と呑気（のんき）に答える。そんな時代は遠く、科学者はいま、魂が追いつかぬ疾走を続けているようにも思う。顧みる必要はないか。
