わたしたちが世界を見るというときに、その世界は漢訳仏典からできた語であることを知る。
インドのサンスクリット語にその淵源を持つ語である。
説明を求めると、その語の持つ意味はは、空間また林間地、木のないところ、空き地、であるようだ。
訳語となったときに、漢字の意味である、世 と、界 があてられて、この構成には漢訳の語として、時間と空間とを組み合わせたようだ。
ローカダートゥ loka-dhaatu は、命あるものが生存し、輪廻する空間で、一仏が教えを広める空間を意味する、と解説がある。
世界を用いて中国の漢詩の表現では意味の拡大が起こったようだ。
仏の教えのための空間が、人々世の中、世間の意味になって、それを日本に伝えたともある。
日本国語大辞典委よって、日本語の用例を見る。
*文華秀麗集〔818〕中・和菅清公傷忠法師〈嵯峨天皇〉「不知何世界、出現救蒼生」
*竹取〔9C末~10C初〕「世界の男、あてなるも賤(いや)しきも、いかで此かぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでてまどふ」
*竹取〔9C末~10C初〕「いかがしけん、疾(はや)き風吹て、世界暗がりて、ふねを吹もてありく」
*大和〔947~957頃〕一六八「『いづら』といひて、もてこし人をせかいにもとむれどなし」
*蜻蛉〔974頃〕中・天祿元年「つれなしをつくりわたるに、夜はせかいの車のこゑに胸うちつぶれつつ」
*宇津保〔970~999頃〕楼上下「しらぬせかいに、とし若うしていきつたはり給つつ、悲しきめの限りを見給て」
*源氏〔1001~14頃〕東屋「若うより、さる東の方の、遙なるせかいに埋もれて」
*栄花〔1028~92頃〕鶴の林「かるが故に、このせかいに露の心とまらず、仏の御教の如くにて、最後の御念仏乱させ給はざりつ」
*今昔〔1120頃か〕一〇・三六「此を見て、血を付けし男共、咲(わら)ひ喤(ののし)り合ひたる程に、其の事无く、世界さらめき喤り合たり」
*保元〔1220頃か〕中・新院御出家の事「世界広しと雖も、立ち入らせ給ふべき所もなし、五畿七道も道せばくて、御身をよすべき陰もなく」
*宇治拾遺〔1221頃〕六・九「しらぬせかいに吹よせられて、陸(くが)によりたるを」
*正法眼蔵〔1231~53〕古仏心「いはゆる世界は、十方みな仏世界なり」
フリー百科事典ウイキペディアより。
>日本語の「世界」は、インドから中国を経て漢語として日本に伝来した来歴を有している。
源流となっているサンスクリットはローカダートゥ(loka-dhaatu)である。"loka "は、「空間」や「(林の中の)木の無い場所」「空き地」のようなものを意味していた。"dhaatu "は界を意味する。"loka-dhaatu "は仏教用語として用いられた歴史があり、「命あるものが生存し輪廻する空間で、そこにおいて一仏が教えを広める空間」を意味する。
このサンスクリットが漢語訳されたとき「世界」となった。「世」には時間の観念に重きをおいた字であり、「界」は空間に重きをおいた字であり、「世界」とは、時間と空間の両方に配慮した訳語である。ある経典では、東西南北上下が界であり、過去・現在・未来の三世が世である、といった主旨のことが述べられている。
中国においては、当初は仏教用語であった「世界」であったが、詩歌の分野において(特に唐詩において)次第に「世の中」や「世間」といった意味で使用されるようになった。これらの歴史が積み重なった状態で日本にももたらされ、『竹取物語』などでも「世の中」「世間」の意味で「世界」の語が用いられている。
世界大百科事典 第2版の解説
せかい【世界】
もと仏教の術語で,生物が生存し輪廻する空間を意味する。サンスクリットのローカダートゥlokadhātuの訳。ローカlokaは空間を意味しダートゥdhātuは層stratumを意味する。lokaは語根ルチruc‐〈光る〉と関係し,もともと〈林開地〉,したがって〈あき地〉の意であった。ラテン語のルケオluceo〈光る〉,ルクスlucus〈森〉と同じ関係である。サンスクリットのlokaには必ずしも〈時間〉の意味はないが,その漢訳語〈世〉にはそれがある。
せかい【世界】
歌舞伎,人形浄瑠璃劇作用語。作品の背景となる時代,事件をさす概念。実際にはその中の登場人物の役名,それらの人物の基本的性格(役柄),人物相互の関係,基本的な筋,脚色さるべき基本的な局面や展開などまでを含む概念である。主として,江戸時代の人々に周知の通俗日本史や伝承などを基礎として成立しているが,原拠や原典そのものをさすのではなく,中世芸能をはじめ先行の歌舞伎や人形浄瑠璃でくりかえし脚色上演されてきた中で形成された類型的な内容を持つ。
デジタル大辞泉の解説
せ‐かい 【世界】
《7が原義》
1 地球上のすべての地域・国家。「―はひとつ」「―をまたにかける」
2 自分が認識している人間社会の全体。人の生活する環境。世間。世の中。「新しい―を開く」「住む―が違う」
3 職業・専門分野、また、世代などの、同類の集まり。「医者の―」「子供の―」
4 ある特定の活動範囲・領域。「学問の―」「芸能の―」「勝負の―」
5 歌舞伎・浄瑠璃で、戯曲の背景となる特定の時代・人物群の類型。義経記・太平記など、民衆に親しみのある歴史的事件が世界とされた。
6 自分が自由にできる、ある特定の範囲。「自分の―に閉じこもる」
7 《(梵)lokadhtuの訳。「世」は過去・現在・未来の3世、「界」は東西南北上下をさす》仏語。
須弥山(しゅみせん)を中心とした4州の称。これを単位に三千大千世界を数える。
一人の仏陀の治める国土。
宇宙のこと。
8 このあたり。あたり一帯。「―暗がりて」〈竹取〉
9 地方。他郷。「―にものし給ふとも、忘れで消息し給へ」〈大和・六四〉
10 遊里などの遊興の場。「京町に何かお―が、おできなすったさうでござりますね」〈洒・通言総籬〉
辞林 第三版の解説
せかい【世界】
①地球上のすべての国家・すべての地域。全人類社会。 「 -の平和」 「 -最高の山」
②物体や生物など実在する一切のものを含んだ無限の空間。宇宙。哲学では社会的精神的事象をも含める。また,思考・認識する自我に対する客観的世界をさすことも多い。 「可能-」 「 -の創造」
③自分を中心とした生活の場。自分の知識・見聞の範囲。生活圏。世の中。 「新しい-が開ける」 「ピカソの-」 「あなたと私とでは-が違いすぎる」 「君は-が狭いよ」
④同一の種類のものの集まり,またその社会。 「動物の-」 「勝負の-は厳しい」
⑤歌舞伎・浄瑠璃で,その作品の背景となる特定の時代や人物類型。例えば「仮名手本忠臣蔵」の世界は「太平記」。
⑥くに。土地。地方。異境。 「知らぬ-にめづらしき憂へのかぎり見つれど/源氏 明石」
⑦界隈。付近一帯。 「いづら,といひて,もてこし人を-に求むれどなし/大和 168」
⑧遊ぶ所。遊里など。 「 -は大みせ,女房にもならうといふ女郎,しやうといふ客/洒落本・傾城買四十八手」
⑨〘仏〙 〔梵 lokadhātu〕
㋐須弥山(しゆみせん)を中心に形成される一定の空間領域。全宇宙にはこの世界(一世界・小世界)と同じ規模の世界が数多くあるとして,三千大千世界などと表現する。
㋑衆生(しゆじよう)が住んでいる場所で,時間・空間的になんらかの制約を受け,まとまりをもっている広がり。
㋒ある仏を中心とする空間。仏国土。
インドのサンスクリット語にその淵源を持つ語である。
説明を求めると、その語の持つ意味はは、空間また林間地、木のないところ、空き地、であるようだ。
訳語となったときに、漢字の意味である、世 と、界 があてられて、この構成には漢訳の語として、時間と空間とを組み合わせたようだ。
ローカダートゥ loka-dhaatu は、命あるものが生存し、輪廻する空間で、一仏が教えを広める空間を意味する、と解説がある。
世界を用いて中国の漢詩の表現では意味の拡大が起こったようだ。
仏の教えのための空間が、人々世の中、世間の意味になって、それを日本に伝えたともある。
日本国語大辞典委よって、日本語の用例を見る。
*文華秀麗集〔818〕中・和菅清公傷忠法師〈嵯峨天皇〉「不知何世界、出現救蒼生」
*竹取〔9C末~10C初〕「世界の男、あてなるも賤(いや)しきも、いかで此かぐや姫を得てしがな、見てしがなと、音に聞きめでてまどふ」
*竹取〔9C末~10C初〕「いかがしけん、疾(はや)き風吹て、世界暗がりて、ふねを吹もてありく」
*大和〔947~957頃〕一六八「『いづら』といひて、もてこし人をせかいにもとむれどなし」
*蜻蛉〔974頃〕中・天祿元年「つれなしをつくりわたるに、夜はせかいの車のこゑに胸うちつぶれつつ」
*宇津保〔970~999頃〕楼上下「しらぬせかいに、とし若うしていきつたはり給つつ、悲しきめの限りを見給て」
*源氏〔1001~14頃〕東屋「若うより、さる東の方の、遙なるせかいに埋もれて」
*栄花〔1028~92頃〕鶴の林「かるが故に、このせかいに露の心とまらず、仏の御教の如くにて、最後の御念仏乱させ給はざりつ」
*今昔〔1120頃か〕一〇・三六「此を見て、血を付けし男共、咲(わら)ひ喤(ののし)り合ひたる程に、其の事无く、世界さらめき喤り合たり」
*保元〔1220頃か〕中・新院御出家の事「世界広しと雖も、立ち入らせ給ふべき所もなし、五畿七道も道せばくて、御身をよすべき陰もなく」
*宇治拾遺〔1221頃〕六・九「しらぬせかいに吹よせられて、陸(くが)によりたるを」
*正法眼蔵〔1231~53〕古仏心「いはゆる世界は、十方みな仏世界なり」
フリー百科事典ウイキペディアより。
>日本語の「世界」は、インドから中国を経て漢語として日本に伝来した来歴を有している。
源流となっているサンスクリットはローカダートゥ(loka-dhaatu)である。"loka "は、「空間」や「(林の中の)木の無い場所」「空き地」のようなものを意味していた。"dhaatu "は界を意味する。"loka-dhaatu "は仏教用語として用いられた歴史があり、「命あるものが生存し輪廻する空間で、そこにおいて一仏が教えを広める空間」を意味する。
このサンスクリットが漢語訳されたとき「世界」となった。「世」には時間の観念に重きをおいた字であり、「界」は空間に重きをおいた字であり、「世界」とは、時間と空間の両方に配慮した訳語である。ある経典では、東西南北上下が界であり、過去・現在・未来の三世が世である、といった主旨のことが述べられている。
中国においては、当初は仏教用語であった「世界」であったが、詩歌の分野において(特に唐詩において)次第に「世の中」や「世間」といった意味で使用されるようになった。これらの歴史が積み重なった状態で日本にももたらされ、『竹取物語』などでも「世の中」「世間」の意味で「世界」の語が用いられている。
世界大百科事典 第2版の解説
せかい【世界】
もと仏教の術語で,生物が生存し輪廻する空間を意味する。サンスクリットのローカダートゥlokadhātuの訳。ローカlokaは空間を意味しダートゥdhātuは層stratumを意味する。lokaは語根ルチruc‐〈光る〉と関係し,もともと〈林開地〉,したがって〈あき地〉の意であった。ラテン語のルケオluceo〈光る〉,ルクスlucus〈森〉と同じ関係である。サンスクリットのlokaには必ずしも〈時間〉の意味はないが,その漢訳語〈世〉にはそれがある。
せかい【世界】
歌舞伎,人形浄瑠璃劇作用語。作品の背景となる時代,事件をさす概念。実際にはその中の登場人物の役名,それらの人物の基本的性格(役柄),人物相互の関係,基本的な筋,脚色さるべき基本的な局面や展開などまでを含む概念である。主として,江戸時代の人々に周知の通俗日本史や伝承などを基礎として成立しているが,原拠や原典そのものをさすのではなく,中世芸能をはじめ先行の歌舞伎や人形浄瑠璃でくりかえし脚色上演されてきた中で形成された類型的な内容を持つ。
デジタル大辞泉の解説
せ‐かい 【世界】
《7が原義》
1 地球上のすべての地域・国家。「―はひとつ」「―をまたにかける」
2 自分が認識している人間社会の全体。人の生活する環境。世間。世の中。「新しい―を開く」「住む―が違う」
3 職業・専門分野、また、世代などの、同類の集まり。「医者の―」「子供の―」
4 ある特定の活動範囲・領域。「学問の―」「芸能の―」「勝負の―」
5 歌舞伎・浄瑠璃で、戯曲の背景となる特定の時代・人物群の類型。義経記・太平記など、民衆に親しみのある歴史的事件が世界とされた。
6 自分が自由にできる、ある特定の範囲。「自分の―に閉じこもる」
7 《(梵)lokadhtuの訳。「世」は過去・現在・未来の3世、「界」は東西南北上下をさす》仏語。
須弥山(しゅみせん)を中心とした4州の称。これを単位に三千大千世界を数える。
一人の仏陀の治める国土。
宇宙のこと。
8 このあたり。あたり一帯。「―暗がりて」〈竹取〉
9 地方。他郷。「―にものし給ふとも、忘れで消息し給へ」〈大和・六四〉
10 遊里などの遊興の場。「京町に何かお―が、おできなすったさうでござりますね」〈洒・通言総籬〉
辞林 第三版の解説
せかい【世界】
①地球上のすべての国家・すべての地域。全人類社会。 「 -の平和」 「 -最高の山」
②物体や生物など実在する一切のものを含んだ無限の空間。宇宙。哲学では社会的精神的事象をも含める。また,思考・認識する自我に対する客観的世界をさすことも多い。 「可能-」 「 -の創造」
③自分を中心とした生活の場。自分の知識・見聞の範囲。生活圏。世の中。 「新しい-が開ける」 「ピカソの-」 「あなたと私とでは-が違いすぎる」 「君は-が狭いよ」
④同一の種類のものの集まり,またその社会。 「動物の-」 「勝負の-は厳しい」
⑤歌舞伎・浄瑠璃で,その作品の背景となる特定の時代や人物類型。例えば「仮名手本忠臣蔵」の世界は「太平記」。
⑥くに。土地。地方。異境。 「知らぬ-にめづらしき憂へのかぎり見つれど/源氏 明石」
⑦界隈。付近一帯。 「いづら,といひて,もてこし人を-に求むれどなし/大和 168」
⑧遊ぶ所。遊里など。 「 -は大みせ,女房にもならうといふ女郎,しやうといふ客/洒落本・傾城買四十八手」
⑨〘仏〙 〔梵 lokadhātu〕
㋐須弥山(しゆみせん)を中心に形成される一定の空間領域。全宇宙にはこの世界(一世界・小世界)と同じ規模の世界が数多くあるとして,三千大千世界などと表現する。
㋑衆生(しゆじよう)が住んでいる場所で,時間・空間的になんらかの制約を受け,まとまりをもっている広がり。
㋒ある仏を中心とする空間。仏国土。