自分にとって社会人としての出発点であり、自分の営業スタイルの原点でもある和歌山県田辺市を舞台にした、ほんのりココロが温まる佳作。
稲田怜(上野樹里)は、田舎(和歌山県田辺市)の電器店で儲けにならない仕事ばかり請け負う父親・誠一郎(沢田研二)に反発して東京へ出てきた、デザイン会社に勤める新人イラストレーター。
しかし自分が思い描いていたような仕事はできず、上司と衝突して会社を辞めてしまう。
同僚で彼氏の耕太(笠原秀幸)のなだめにも悪態をついてしまい自己嫌悪に陥る。
再就職もままならない最悪な状況の中、妹の香(中村静香)の“策略”に乗せられ急遽帰省することになった怜は、身重の姉・瞳(本上まなみ)の頼みもあって骨折して入院した父親が戻るまで家業を手伝うことになり、不機嫌が増幅していく。
更には父親の浮気疑惑まで再燃し、「もう最悪ーっ!」
しかし、慣れない家業を手伝っているうちに、父親の仕事ぶりや人柄は地元の人々にとても愛されていることを知る。
そして父親の愛情の深さや家族の絆のありがたさに気付き、人々に感謝される仕事の喜びに目覚め、頑なな心が徐々にほぐされていく…。
蛍光灯の電球交換の注文を受けながら、募ったイライラが暴発してサボってしまった怜。
一日過ごした浜辺から家へ戻る途中、点滅する蛍光灯の灯りが漏れる客先にたどり着いたのは日もとっぷりと暮れた頃。
電球を交換した部屋に入ってきた客が、とても嬉しそうにしながら、「人生が明るくなる」と感謝を述べる。
思いも寄らない言葉に触発される怜に、過去の自分が重なる。
サービスに満足した顧客のうれしそうな笑顔に触れ、営業という仕事の面白さがカラダに染み込んだ時のことを思い出した。
突然の雷雨に故障が多発し、留守電いっぱいに修理依頼が吹き込まれる。
病院を飛び出してきた誠一郎とともに一軒一軒回って行った中のある家で、買ったばかりのプラズマテレビが故障し、直せなかったら返品する!と悪態をつかれる。
理不尽な物言いにも関わらず、丁寧な物腰で応対する誠一郎。
返品てなんやねん!(故障はウチのせいちゃうやろ!)
客の態度に憤る怜を誠一郎がなだめる。
「お客さんの話を聞くのも仕事や。いろいろあるんやろ。」
そう、その通り!
ちょっとしたことで呼びつけては、ネチネチ文句を言う客がいる。
なにがしか怒っている顧客には、まずは話をひたすら聞くことが大事。
相手が怒っているときは、つい言い訳や反論をしたくなるのが人情だが、絶対にやってはならない。
些細なトラブルでもきちんと相手の話を聞き、一つ一つ丁寧に対応していけば、その顧客との信頼関係はどんどん深まっていく。
「クレーム」が「感謝」に変わった瞬間の感動も、営業の醍醐味の一つだ。
誠一郎「ウチは売った後のサービスが売りなんじゃ!お客さん第一の店なんじゃ!」
怜「そのやりすぎで火の車なんやろ!そんな効率悪い商売、コンビニでもやった方が儲かるんちゃうん!?」
“お客様第一”を掲げる企業は、日本中に掃いて捨てる程あるだろう。
しかし、イナデンのように本当に実践しているところは皆無に近い。
大企業になるほど、限りなく0に近づくと思われる。
それは、怜の言葉が象徴するように、効率が悪いからだ。
効率だけ考えれば、商品・サービスを購入するだけでアフターサービスを必要としない顧客が、最も望ましい。
しかしそれでは、購入した商品・サービスへの満足による顧客の笑顔に、後日触れることから得られる感動を味わうことはできない。
効率一辺倒の営業には、深い感動などあり得ない。
そんな仕事が本当に楽しいだろうか?
一日の生活のうち、大半を占める「仕事」。
その「仕事」の面白さとは何だろうと、改めて考えさせてくれる映画でもある。
今の「仕事」に疑問・違和感がある、今の「仕事」を辞めたいと思っている、あるいは「営業という仕事」に意義を見出せない、などなど、「仕事」の面白さが見えなくなっている人には、ぜひご覧になることをお勧めする。
頑なな心ゆえに周りを受け入れられず、またそのために周りにも受け入れられない悪循環。
そしてその悪循環からくる居心地の悪さ。
母親が死んでからの田辺での生活と東京での生活で、怜が感じている孤独感は、この悪循環が生んだもの。
入社して最初の配属が田辺とされたときの左遷されたような感覚。
大阪に配属された仲間から取り残されるような焦燥感。
さっさと定時で退社しては、毎日のように飲み歩く先輩社員が自堕落に見え、最初は田辺にいることがイヤでイヤで仕方なかった。
週末が待ち遠しく、金曜の夜には定時で退社して、大阪の実家、京都の友人・知人宅へと飛んでいき、日曜の深夜に戻ってくるという生活を続けていた。
正直、「こんな田舎にいてられるか!」と、自分から田辺を拒絶していた。
しかし、大阪からたった一人で縁もユカリもない田辺にやってきた自分を、温かく迎え入れてくれた先輩社員に囲まれるうち、週末は必ず京阪神に戻らなければ、という気持ちは薄れていった。
そうして田辺に自分からなじみ始めると同時に、自分を贔屓にしてくれる顧客も増えていった。
そしてどんどん仕事も楽しくなっていき、また楽しい仕事を任されるようにもなった。
周りが受け入れてくれたことで自分も周りを受け入れることができ、全てが楽しい方向へと加速していった。
「受け入れる」ことの大切さを教えてくれたのは田辺だ。
「やにこい」「もじける」「なっとしょう」「ほいてよぉ」。
出演者の紀南弁(田辺弁)が懐かしく、心地よい。
また、怜と香が一緒に訪れた、独り暮らしの野村のおばあちゃん宅。
マッサージ機を移動してくれという注文だったが、テレビや家具の移動までさせられ、挙句に部屋の掃除までやった後、手渡される御礼としてのネギの束。
自分も客先で、特産のみかんのほか、キウィ、キャベツに刺身用のマグロの身まで、いろんなものをもらったことを思い出して、これまた懐かしい。
天神崎、扇ヶ浜海水浴場、上秋津の風景、梅林、みかん山…。
冬でものどかで温かい田辺各地の風景。
田辺の空気が、この作品を更に味わい深いものにしている。
…ちょっと思い入れが過ぎたかな?(苦笑)
しかし、特に疲れた都会人には観てほしい一本であることは間違いない。
「幸福のスイッチ」
2006年/日本 監督:安田真奈
出演:上野樹里、本上まなみ、沢田研二、中村静香、林剛史、笠原秀幸、石坂ちなみ、新屋英子、深浦加奈子、芦屋小雁
稲田怜(上野樹里)は、田舎(和歌山県田辺市)の電器店で儲けにならない仕事ばかり請け負う父親・誠一郎(沢田研二)に反発して東京へ出てきた、デザイン会社に勤める新人イラストレーター。
しかし自分が思い描いていたような仕事はできず、上司と衝突して会社を辞めてしまう。
同僚で彼氏の耕太(笠原秀幸)のなだめにも悪態をついてしまい自己嫌悪に陥る。
再就職もままならない最悪な状況の中、妹の香(中村静香)の“策略”に乗せられ急遽帰省することになった怜は、身重の姉・瞳(本上まなみ)の頼みもあって骨折して入院した父親が戻るまで家業を手伝うことになり、不機嫌が増幅していく。
更には父親の浮気疑惑まで再燃し、「もう最悪ーっ!」
しかし、慣れない家業を手伝っているうちに、父親の仕事ぶりや人柄は地元の人々にとても愛されていることを知る。
そして父親の愛情の深さや家族の絆のありがたさに気付き、人々に感謝される仕事の喜びに目覚め、頑なな心が徐々にほぐされていく…。
蛍光灯の電球交換の注文を受けながら、募ったイライラが暴発してサボってしまった怜。
一日過ごした浜辺から家へ戻る途中、点滅する蛍光灯の灯りが漏れる客先にたどり着いたのは日もとっぷりと暮れた頃。
電球を交換した部屋に入ってきた客が、とても嬉しそうにしながら、「人生が明るくなる」と感謝を述べる。
思いも寄らない言葉に触発される怜に、過去の自分が重なる。
サービスに満足した顧客のうれしそうな笑顔に触れ、営業という仕事の面白さがカラダに染み込んだ時のことを思い出した。
突然の雷雨に故障が多発し、留守電いっぱいに修理依頼が吹き込まれる。
病院を飛び出してきた誠一郎とともに一軒一軒回って行った中のある家で、買ったばかりのプラズマテレビが故障し、直せなかったら返品する!と悪態をつかれる。
理不尽な物言いにも関わらず、丁寧な物腰で応対する誠一郎。
返品てなんやねん!(故障はウチのせいちゃうやろ!)
客の態度に憤る怜を誠一郎がなだめる。
「お客さんの話を聞くのも仕事や。いろいろあるんやろ。」
そう、その通り!
ちょっとしたことで呼びつけては、ネチネチ文句を言う客がいる。
なにがしか怒っている顧客には、まずは話をひたすら聞くことが大事。
相手が怒っているときは、つい言い訳や反論をしたくなるのが人情だが、絶対にやってはならない。
些細なトラブルでもきちんと相手の話を聞き、一つ一つ丁寧に対応していけば、その顧客との信頼関係はどんどん深まっていく。
「クレーム」が「感謝」に変わった瞬間の感動も、営業の醍醐味の一つだ。
誠一郎「ウチは売った後のサービスが売りなんじゃ!お客さん第一の店なんじゃ!」
怜「そのやりすぎで火の車なんやろ!そんな効率悪い商売、コンビニでもやった方が儲かるんちゃうん!?」
“お客様第一”を掲げる企業は、日本中に掃いて捨てる程あるだろう。
しかし、イナデンのように本当に実践しているところは皆無に近い。
大企業になるほど、限りなく0に近づくと思われる。
それは、怜の言葉が象徴するように、効率が悪いからだ。
効率だけ考えれば、商品・サービスを購入するだけでアフターサービスを必要としない顧客が、最も望ましい。
しかしそれでは、購入した商品・サービスへの満足による顧客の笑顔に、後日触れることから得られる感動を味わうことはできない。
効率一辺倒の営業には、深い感動などあり得ない。
そんな仕事が本当に楽しいだろうか?
一日の生活のうち、大半を占める「仕事」。
その「仕事」の面白さとは何だろうと、改めて考えさせてくれる映画でもある。
今の「仕事」に疑問・違和感がある、今の「仕事」を辞めたいと思っている、あるいは「営業という仕事」に意義を見出せない、などなど、「仕事」の面白さが見えなくなっている人には、ぜひご覧になることをお勧めする。
頑なな心ゆえに周りを受け入れられず、またそのために周りにも受け入れられない悪循環。
そしてその悪循環からくる居心地の悪さ。
母親が死んでからの田辺での生活と東京での生活で、怜が感じている孤独感は、この悪循環が生んだもの。
入社して最初の配属が田辺とされたときの左遷されたような感覚。
大阪に配属された仲間から取り残されるような焦燥感。
さっさと定時で退社しては、毎日のように飲み歩く先輩社員が自堕落に見え、最初は田辺にいることがイヤでイヤで仕方なかった。
週末が待ち遠しく、金曜の夜には定時で退社して、大阪の実家、京都の友人・知人宅へと飛んでいき、日曜の深夜に戻ってくるという生活を続けていた。
正直、「こんな田舎にいてられるか!」と、自分から田辺を拒絶していた。
しかし、大阪からたった一人で縁もユカリもない田辺にやってきた自分を、温かく迎え入れてくれた先輩社員に囲まれるうち、週末は必ず京阪神に戻らなければ、という気持ちは薄れていった。
そうして田辺に自分からなじみ始めると同時に、自分を贔屓にしてくれる顧客も増えていった。
そしてどんどん仕事も楽しくなっていき、また楽しい仕事を任されるようにもなった。
周りが受け入れてくれたことで自分も周りを受け入れることができ、全てが楽しい方向へと加速していった。
「受け入れる」ことの大切さを教えてくれたのは田辺だ。
「やにこい」「もじける」「なっとしょう」「ほいてよぉ」。
出演者の紀南弁(田辺弁)が懐かしく、心地よい。
また、怜と香が一緒に訪れた、独り暮らしの野村のおばあちゃん宅。
マッサージ機を移動してくれという注文だったが、テレビや家具の移動までさせられ、挙句に部屋の掃除までやった後、手渡される御礼としてのネギの束。
自分も客先で、特産のみかんのほか、キウィ、キャベツに刺身用のマグロの身まで、いろんなものをもらったことを思い出して、これまた懐かしい。
天神崎、扇ヶ浜海水浴場、上秋津の風景、梅林、みかん山…。
冬でものどかで温かい田辺各地の風景。
田辺の空気が、この作品を更に味わい深いものにしている。
…ちょっと思い入れが過ぎたかな?(苦笑)
しかし、特に疲れた都会人には観てほしい一本であることは間違いない。
「幸福のスイッチ」
2006年/日本 監督:安田真奈
出演:上野樹里、本上まなみ、沢田研二、中村静香、林剛史、笠原秀幸、石坂ちなみ、新屋英子、深浦加奈子、芦屋小雁