井上芳雄くんが出てるというだけで観に行ってみました。岩波ホール、前に行ったことがあるような気がしてたけど初めてでした・・・。
90歳の監督デビュー、とちょっと話題になってましたが、90歳でデビューと言っても、長年美術で映画にかかわり、劇中の木室と同じように映画学校の校長もやっていたという人ですから、監督は初めてでも大御所ではあるんですよね。
というわけで豪華なキャスティングにびっくり。特に終盤にちょこっと登場した芳雄くん演じる村上大輔の母親が桃井かおりさんだったのにはびっくりでしたねー。こんな出番少ない役で桃井かおりって・・・!
そんな中芳雄くんがキャスティングされたのはどういうつながりなのかちょっと不思議でしたが。
いきなり歌いだした時は、ちょっと不自然で(上手すぎて・・・)「また歌要員?」と思ってしまったけど(この間はOLにっぽんでラマンチャ歌ってましたねー)、回想シーンのBGMとして流れだしたら、すごくハマッてて良かったです。
最後にも彼の歌を上手く使ってましたしね。
心を病んで苦しむ青年役はまさにお手のものという感じですね。彼が狂気の役が得意だってわかっててキャスティングされたのかなあ?
というわけで芳雄くんも結構良かったのですが、映画自体もなかなか良かったです。
90歳という年齢からか、現代の話のはずなのに、なぜか昭和40年代風でしたけど・・・(特に根拠はないけど、30年代ほど古くない感じだったのでなんとなく(汗))映画学校の学生たちも、服は今風だけど、ほとんどメイクしてなかったりとちょっと何かが違う感じでした。
宮沢りえさん演じる中埜順子も、今時あの年齢で毎日和服着てる人いるかなあとか・・・
でもまあ、その独特な雰囲気が、過去の回想とのフラッシュバックと相俟って独特の雰囲気を出していました。
老齢で少し足が不自由ながら(でも歳のせいではなく戦時中の傷のためだというのが回想シーンからわかりますが)矍鑠としていて、映画学校の校長にもなり、一方で痴呆の症状が出始めている妻をいたわりながら暮らしている木室が、戦争中、戦後まもなくの回想に悩まされるようになります。
戦争と言っても、戦時中よりも戦後まもなくの回想が多いのですが、そこには戦争を経たことによる痛みが感じられます。
思えば、戦中戦後を直接の記憶として語れる人はだんだん少なくなっているわけで・・・しかも、その時代に大人だった人はさらに少なくなっているんですよね。
これも、90歳の監督だからこそ作れた作品なんだなあと思いました。
過去の回想が現実と交錯するあたりの幻想的な雰囲気は結構好きでしたね。
そんな戦争の記憶が甦るというだけの話ではなく、平行して現代の平和な時代に生きながら、心を病んで苦しむ村上大輔との文通のエピソードが入ることで、物語にアクセントが出ていてとても良かったと思います。芳雄くんの演技も良かったからなあ。
苦しむ大輔と木室の交流と平行して、戦時中に若くして命を失った戦没画学生美術館や、特攻平和記念館も出てきました。繊細な大輔は描きたいのに命を失った戦没画学生に心を乱され、木室は大輔の苦しみに触れることで、若くして命を失った特攻隊に興味を持ちます。
症状が悪化して行く大輔を木室が励まし続けたのは、大輔と戦争で死んだ若者たちを重ねていた部分があったからなのでしょう。大輔の死を知った時の、悲しむよりもむしろ悔しがっていた姿が印象的でした。
単に戦争の回想だけだったら、ここまで鮮烈な印象は残せなかったでしょう。大輔の存在で、単なる回顧だけでなく、今も変わらない命の重さの物語へと昇華することに成功していたと思いました。
しかし、大輔の悲しい死の後に、最終的には前向きなハッピーエンドになっていたのがびっくりでしたが・・・
そう言えばガルシア=マルケスの最新作「わが悲しき娼婦たちの思い出」でも、90歳の主人公が前向きに生きていくハッピーエンドでびっくりしたものでしたが、歳を重ねることでかえって前向きに生きていく気持ちになるのかな。(ガルシア=マルケスは80歳にもなってなかったけど)
戦争で失われた命、多くの別れ、そして大輔の死も乗り越えて、今ある命を大切に生きて行こうとすることで、捉われていた過去から未来へと歩き出せたのですね。
ピアノの曲がどうしても途中で思い出せなくて弾けなかった木室の妻が最後まで弾くことができた時には思わずちょっと泣いてしまいました。ピアノを弾けたことよりも、家事を手伝ってた人の嬉しそうな顔にやられたのかも。
私はついつい芳雄くん演じる大輔のエピソードを中心に見ていましたが(いや実際中心でしたけど)、他にも木室の妻もまた過去の記憶に縛られてから開放されるまでが描かれていたし、映画人にとっての映画への思いも描かれていたし、宮沢りえさんが二役で演じていた順子と薄幸のスナックのママのエピソード、大輔を好きだったらしい木室家の家事を手伝っている映画学校の卒業生・・・と、結構たくさんのエピソードが盛り込まれていましたが、上手くまとめていたと思います。
美術畑で映画にかかわって来た監督だけあって、幻想的な画面も、ちょっと古めかしい日本家屋での木室の暮らしぶりも、美しかったです。ちょっと昭和40年代風だったけどね・・・(笑)
芳雄くんが出てなかったら決して見ることはなかったですが、芳雄くんのおかげでなかなか良いものが観られたなあと思います。
というわけで今年見た映画の順位。
1.イースタン・プロミス / 2.ミラクル7号 / 3.宮廷画家ゴヤは見た / 4.マイ・ブルーベリー・ナイツ / 5.グーグーだって猫である / 6.西の魔女が死んだ / 7.ナルニア国物語第二章 カスピアン王子の角笛 / 8.落下の王国 / 9.スウィーニー・トッド / 10.夢のまにまに / 11.転々 / 12.TOKYO! / 13.僕らのミライへ逆回転 / 14.コドモのコドモ / 15.パコと魔法の絵本 / 16.コレラの時代の愛 / 17.エリザベス ゴールデン・エイジ / 18.あぁ、結婚生活 / 19.ライラの冒険 黄金の羅針盤 / 20.奈緒子 / 21.L Change the World / 22.クリストファー・リーとフランク・ザッパのこわがることをおぼえようと旅に出た男 / 23.ティム・バートンのアラジンと魔法のランプ / 24.スターウォーズ クローンウォーズ / 25.デトロイト・メタル・シティ / 26.20世紀少年 / 27.マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋 / 28.カンフーくん / 29.フランシス・フォード・コッポラのリップ・ヴァン・ウィンクル / 30.ポストマン / 31.ミック・ジャガーのナイチンゲール
何が基準でこの順位なんだか自分でもよくわからない(汗)
あと、今年中に観に行く映画のリスト。
公開中 「崖の上のポニョ」「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」(鑑賞済み)「ブーリン家の姉妹」「レッドクリフpart1」
12月13日公開 「アラトリステ」
アラトリステやっと公開日決定したんですね。年内に見るかどうか微妙なところですが。しかしシャンテシネでやる映画って観損ねることが多くて実はまだ一度も行ったことないです・・・今度こそ見られるかなあ。
90歳の監督デビュー、とちょっと話題になってましたが、90歳でデビューと言っても、長年美術で映画にかかわり、劇中の木室と同じように映画学校の校長もやっていたという人ですから、監督は初めてでも大御所ではあるんですよね。
というわけで豪華なキャスティングにびっくり。特に終盤にちょこっと登場した芳雄くん演じる村上大輔の母親が桃井かおりさんだったのにはびっくりでしたねー。こんな出番少ない役で桃井かおりって・・・!
そんな中芳雄くんがキャスティングされたのはどういうつながりなのかちょっと不思議でしたが。
いきなり歌いだした時は、ちょっと不自然で(上手すぎて・・・)「また歌要員?」と思ってしまったけど(この間はOLにっぽんでラマンチャ歌ってましたねー)、回想シーンのBGMとして流れだしたら、すごくハマッてて良かったです。
最後にも彼の歌を上手く使ってましたしね。
心を病んで苦しむ青年役はまさにお手のものという感じですね。彼が狂気の役が得意だってわかっててキャスティングされたのかなあ?
というわけで芳雄くんも結構良かったのですが、映画自体もなかなか良かったです。
90歳という年齢からか、現代の話のはずなのに、なぜか昭和40年代風でしたけど・・・(特に根拠はないけど、30年代ほど古くない感じだったのでなんとなく(汗))映画学校の学生たちも、服は今風だけど、ほとんどメイクしてなかったりとちょっと何かが違う感じでした。
宮沢りえさん演じる中埜順子も、今時あの年齢で毎日和服着てる人いるかなあとか・・・
でもまあ、その独特な雰囲気が、過去の回想とのフラッシュバックと相俟って独特の雰囲気を出していました。
老齢で少し足が不自由ながら(でも歳のせいではなく戦時中の傷のためだというのが回想シーンからわかりますが)矍鑠としていて、映画学校の校長にもなり、一方で痴呆の症状が出始めている妻をいたわりながら暮らしている木室が、戦争中、戦後まもなくの回想に悩まされるようになります。
戦争と言っても、戦時中よりも戦後まもなくの回想が多いのですが、そこには戦争を経たことによる痛みが感じられます。
思えば、戦中戦後を直接の記憶として語れる人はだんだん少なくなっているわけで・・・しかも、その時代に大人だった人はさらに少なくなっているんですよね。
これも、90歳の監督だからこそ作れた作品なんだなあと思いました。
過去の回想が現実と交錯するあたりの幻想的な雰囲気は結構好きでしたね。
そんな戦争の記憶が甦るというだけの話ではなく、平行して現代の平和な時代に生きながら、心を病んで苦しむ村上大輔との文通のエピソードが入ることで、物語にアクセントが出ていてとても良かったと思います。芳雄くんの演技も良かったからなあ。
苦しむ大輔と木室の交流と平行して、戦時中に若くして命を失った戦没画学生美術館や、特攻平和記念館も出てきました。繊細な大輔は描きたいのに命を失った戦没画学生に心を乱され、木室は大輔の苦しみに触れることで、若くして命を失った特攻隊に興味を持ちます。
症状が悪化して行く大輔を木室が励まし続けたのは、大輔と戦争で死んだ若者たちを重ねていた部分があったからなのでしょう。大輔の死を知った時の、悲しむよりもむしろ悔しがっていた姿が印象的でした。
単に戦争の回想だけだったら、ここまで鮮烈な印象は残せなかったでしょう。大輔の存在で、単なる回顧だけでなく、今も変わらない命の重さの物語へと昇華することに成功していたと思いました。
しかし、大輔の悲しい死の後に、最終的には前向きなハッピーエンドになっていたのがびっくりでしたが・・・
そう言えばガルシア=マルケスの最新作「わが悲しき娼婦たちの思い出」でも、90歳の主人公が前向きに生きていくハッピーエンドでびっくりしたものでしたが、歳を重ねることでかえって前向きに生きていく気持ちになるのかな。(ガルシア=マルケスは80歳にもなってなかったけど)
戦争で失われた命、多くの別れ、そして大輔の死も乗り越えて、今ある命を大切に生きて行こうとすることで、捉われていた過去から未来へと歩き出せたのですね。
ピアノの曲がどうしても途中で思い出せなくて弾けなかった木室の妻が最後まで弾くことができた時には思わずちょっと泣いてしまいました。ピアノを弾けたことよりも、家事を手伝ってた人の嬉しそうな顔にやられたのかも。
私はついつい芳雄くん演じる大輔のエピソードを中心に見ていましたが(いや実際中心でしたけど)、他にも木室の妻もまた過去の記憶に縛られてから開放されるまでが描かれていたし、映画人にとっての映画への思いも描かれていたし、宮沢りえさんが二役で演じていた順子と薄幸のスナックのママのエピソード、大輔を好きだったらしい木室家の家事を手伝っている映画学校の卒業生・・・と、結構たくさんのエピソードが盛り込まれていましたが、上手くまとめていたと思います。
美術畑で映画にかかわって来た監督だけあって、幻想的な画面も、ちょっと古めかしい日本家屋での木室の暮らしぶりも、美しかったです。ちょっと昭和40年代風だったけどね・・・(笑)
芳雄くんが出てなかったら決して見ることはなかったですが、芳雄くんのおかげでなかなか良いものが観られたなあと思います。
というわけで今年見た映画の順位。
1.イースタン・プロミス / 2.ミラクル7号 / 3.宮廷画家ゴヤは見た / 4.マイ・ブルーベリー・ナイツ / 5.グーグーだって猫である / 6.西の魔女が死んだ / 7.ナルニア国物語第二章 カスピアン王子の角笛 / 8.落下の王国 / 9.スウィーニー・トッド / 10.夢のまにまに / 11.転々 / 12.TOKYO! / 13.僕らのミライへ逆回転 / 14.コドモのコドモ / 15.パコと魔法の絵本 / 16.コレラの時代の愛 / 17.エリザベス ゴールデン・エイジ / 18.あぁ、結婚生活 / 19.ライラの冒険 黄金の羅針盤 / 20.奈緒子 / 21.L Change the World / 22.クリストファー・リーとフランク・ザッパのこわがることをおぼえようと旅に出た男 / 23.ティム・バートンのアラジンと魔法のランプ / 24.スターウォーズ クローンウォーズ / 25.デトロイト・メタル・シティ / 26.20世紀少年 / 27.マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋 / 28.カンフーくん / 29.フランシス・フォード・コッポラのリップ・ヴァン・ウィンクル / 30.ポストマン / 31.ミック・ジャガーのナイチンゲール
何が基準でこの順位なんだか自分でもよくわからない(汗)
あと、今年中に観に行く映画のリスト。
公開中 「崖の上のポニョ」「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」(鑑賞済み)「ブーリン家の姉妹」「レッドクリフpart1」
12月13日公開 「アラトリステ」
アラトリステやっと公開日決定したんですね。年内に見るかどうか微妙なところですが。しかしシャンテシネでやる映画って観損ねることが多くて実はまだ一度も行ったことないです・・・今度こそ見られるかなあ。