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韓国・元徴用工訴訟「原告の訴え却下」は保守派判事の反乱か=澤田克己

2022-08-01 11:38:53 | 日記
韓国・元徴用工訴訟「原告の訴え却下」は保守派判事の反乱か=澤田克己


2021年6月8日

相次ぐ異例の判決は文在寅大統領への「忖度」ではない Bloomberg
 韓国の裁判所でまた、驚きの判決が出た。ソウル中央地裁が7日、元徴用工や遺族が日本企業16社に損害賠償を求めた訴えを却下したのだ。
元徴用工を巡る訴訟では既に、日本企業に賠償を命じる最高裁(大法院)判決が確定している。文政権下で進歩派主導となった最高裁への、保守派判事の反乱とも言える様相だ。保守派と進歩派の理念対立が司法にまで持ち込まれる背景には、激動の韓国現代史がありそうだ。
最高裁の判例と異なる驚きの判決
 判決は、1965年の日韓請求権協定によって元徴用工の問題も解決されたという立場を取った。個人の請求権が消滅したとまでは言えないものの、訴訟による権利行使は制限されると判断した。協定で解決済みだとする日本政府が「救済されない権利になった」と説明するのと同じ理屈だ。
 韓国政府も、もともとは「徴用工問題は協定の対象に含まれる」と解釈していた。文在寅政権になって揺らいでいる感はあるものの、従来の解釈を明確に否定したことはない。
 ただ韓国最高裁は2018年、協定では解決されていないとして日本企業に賠償を命じる判決を出している。最高裁の判例があれば、下級審ではそれに従うのが普通だ。下級審で違う判断をすることもできるが、社会情勢の変化があったり、実質的には同じ争点でも別の法的根拠で争われたりした場合が多い。この辺の事情は、日本も韓国も変わらない。
 だから、今回の地裁判決は想定外のものだった。原告を支援する団体は「特別な事情変更や追加の論理なしに(判例と)違う解釈をした」と批判した。協定解釈の妥当性とは別に、判例と下級審の関係を考えれば当然の反発だろう。
「日本への配慮」は文在寅政権への忖度なのか
 韓国の裁判所ではこのところ、日本との関係に配慮したかのような判断が続いている。
元徴用工訴訟の判決後、記者団の質問に応じる原告側の関係者
 元慰安婦をめぐる訴訟では日本政府に賠償を命じる地裁判決が1月に出て確定したものの、3月には判決の執行に事実上のブレーキをかける「決定」が出た。韓国内の日本政府資産を差し押さえることは「国際法に違反する恐れがある」という判断で、今回の元徴用工訴訟と同じ裁判長によるものだった。
 4月には元慰安婦による同種の訴訟で、主権国家は他国の裁判所の管轄に服さないという国際法の原則「主権免除」を認めて日本政府への賠償請求を却下する地裁判決が出た。
 文在寅大統領は1月の記者会見で、日本政府に賠償を命じた判決に「困惑した」と語っている。元徴用工の訴訟で差し押さえられた日本企業の資産を売却して現金化することも「望ましくない」と明言し、従来とは違う姿勢だと注目された。
 こうした経緯から、大統領の姿勢変化を忖度した韓国司法の動きではないかと考える人もいるようだ。しかし、判決の中身を見てみると、とてもそうは思えない。保守派と進歩派という理念対立が司法の場で展開されており、それが日本がらみの裁判で表面化したと考えた方がよさそうなのだ。
請求権協定による経済成長「漢江の奇跡」に言及
 4月に出た元慰安婦訴訟の判決は、慰安婦問題をめぐる15年の日韓合意を肯定的に評価し、合意に対する文政権の対応を批判するものだった。毎日新聞のサイト「政治プレミア」で詳しく紹介したが、判事が強い信念を持って書いたことがうかがえる。
 今回の判決も同じだ。進歩系である京郷新聞によると、判事出身の弁護士は「このように判断しなければ判事としての良心を守れないという信念に従って判決を下したように見える」と語ったという。政権への忖度とは対局にあると言えるだろう。
 わかりやすいのが「漢江の奇跡」への言及だ。
1973年に完成した韓国・浦項市の浦項製鉄(現POSCO)。建設には対日請求権資金の一部が充当された
 請求権協定では日本が5億ドル(無償3億ドル、有償2億ドル)の経済協力を供与し、請求権の問題について「完全かつ最終的に解決された」ことを確認した。
 日本は資金とともに技術協力にも応じ、韓国は経済成長にまい進した。西ドイツへの坑夫と看護師の出稼ぎ労働やベトナム戦争参戦への経済的見返りなどの要素も大きかったが、日本の経済協力が「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の驚異的な高度成長に寄与したことは疑いない。だが韓国ではあまり知られていないし、文政権を支える進歩派は日本の貢献を認めることに消極的だ。
 一方で判決は「請求権協定で受け取った外貨はいわゆる『漢江の奇跡』と評価される世界の経済史に残る目覚ましい経済成長に大きく寄与することとなった」と評価した。
「国際司法で敗訴すれば国益に損失」という危機感
 法律論というより、政治的信念の吐露といえる部分も目についた。
 判決は、国際司法の場に持ち出して敗訴したら「韓国司法府の信頼に致命的な傷を負わせることになり、(経済規模で)世界10位圏に入ったばかりの韓国の文明国としての威信は地に落ちる」という懸念を示した。
 さらに、日米中露という大国に囲まれた分断国家という地政学的な位置に置かれた韓国にとって、国際司法での敗訴は「自由民主主義という憲法的価値を共有する西側勢力の代表国家の一つである日本国との関係毀損」につながると指摘。さらに「韓米同盟によって我が国の安保と直結している米国との関係毀損にまでいたる」という見方を示して、韓国の「安全保障」に害を与えかねないと憂慮を表明した。
 それだけではない。竹島と元慰安婦を加えた日本との三つの懸案について国際法廷で争えば、「すべて勝訴しても韓国として得るものはない。勝訴しても国際関係で難局にぶつかるであろう半面、一つでも敗訴すれば国の格および国益に致命的な損失を被ることは明白だ」と表明した。
 文政権を支える進歩派の考えとは全く異なる世界観だと言えるだろう。
民主化で起きた判事たちの混乱と「暴走」
 日本人の感覚では理解し難い韓国司法の動きの原点は、1987年の民主化にある。
 80年代初めに任官した韓国の元判事は数年前の筆者とのインタビューで、「韓国人は激動の時代を生きてきた。戦後の日本しか知らない人には想像できないような時代だ。裁判官もこの社会に生きる人間だから、無縁ではいられない」と語った。
 日本の読者にはピンとこない部分もあるだろうから、第2次世界大戦後の「激動の時代」を簡単に振り返ってみよう。
 45年に日本の敗戦で植民地支配から解放されたが、南北は分断された。50年に朝鮮戦争が起きて、ほぼ全土が戦場となった。60年には初代大統領の李承晩が不正選挙への抗議運動の高まりでハワイ亡命を余儀なくされ、61年に朴正煕がクーデターを起こした。79年の朴正煕暗殺後も軍部主導の政権が続いたが、87年に民主化を実現した。
 経済的にも朝鮮戦争後には、一人当たり国民所得が数十ドルという世界最貧国の一つだった。60年代後半以降に高度成長を始め、96年には「先進国クラブ」とも呼ばれる経済協力開発機構(OECD)入りを実現させたものの、97年に通貨危機に見舞われる。
 直後に発足した金大中政権は、国際通貨基金(IMF)の要求を受け入れて新自由主義的な経済政策に舵を切った。マクロ経済はV字回復を果たしたが、それまでも問題だった格差のさらなる拡大という副作用を生んだ。ただマクロ経済は、その後も順調に成長を続けた。今では世界10位前後の経済力を誇り、一人当たり国民所得は日本と同等になった。為替レートの取り方によっては、日本より上である。
 こうした変化の中で、司法を含む韓国社会全般に大きな影響を与えたのが民主化だ。
 開発独裁と呼ばれる軍部主導の政権下では、政権の言いなりになった人権無視の捜査と裁判が横行していた。気骨のある判事もいたが、あくまで少数派だった。
 それが民主化で一変した。国民の不信を意識せざるをえなくなった裁判所は自ら民主化を進める姿勢をアピールした。前述の元判事は「いきなり『裁判官の独立』とか、『法と良心のみに従って判決を出せ』と言われて戸惑った」と吐露した。
 外部からの圧力で判決が曲げられてはいけないというのは当然だが、それまでとの落差が大きすぎた。元判事は「いきなり裁判官の独立と言われたから、今度は『自分の思い通りにしていい』と暴走する判事が出始めた」と話した。
 彼は、政権批判の大規模集会で混乱が起きて建物やモノを壊した事件をたとえに出した。被告が多ければ、何人もの判事が分担して裁判を進めることになる。その時にある判事は「民主主義を重視すれば多少の器物損壊は仕方ない」と無罪判決を出し、別の判事は「やりすぎだ」と有罪判決になる。「昔だったら判事同士で調整したけれど、そんなことはなくなった」。
まったく読めない他の元徴用工訴訟の行方
 元慰安婦や元徴用工の訴訟をめぐる司法判断のぶれは、こうした事情をもろに反映したものなのだろう。
 元徴用工訴訟の流れを変え、原告勝訴の道を開いた2012年の最高裁判決はその典型だ。韓国紙・東亜日報によると、原告敗訴の高裁判決を破棄差し戻しとした判決を書いた判事は知人に「建国する心情で判決を書いた」と打ち明けたという。高裁でのやり直し裁判で原告勝訴となり、それが18年の最高裁判決で確定した。
 韓国の「法律新聞」電子版によると、ソウル中央地裁では今回の訴訟以外に19件の元徴用工訴訟が係争中だという。今回と同じような判決が続けて出たとしてもおかしくないし、判例に従う反対の判決が出ても不思議ではない。
 元判事はインタビューで「裁判官の独立を保証しながら、判事の判断が妥当なものに落ち着くようにしなければならないというのが、韓国司法の宿題だ」と語った。まったく同感だが、簡単なことではないだろう。韓国司法が日韓関係に影響を与える構図は、まだ続きそうである。
澤田克己(さわだ・かつみ)
毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数


ジム・ロジャーズ「今は何に投資をすべきなのか」 高インフレ下であなたを守ってくれる資産とは 2022/07/22 06:30

2022-08-01 10:52:37 | 日記
ジム・ロジャーズ「今は何に投資をすべきなのか」 高インフレ下であなたを守ってくれる資産とは

2022/07/22 06:30

シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。

前回の記事「ジム・ロジャーズ『ついにバブルは終了するのか』」に続き、同氏の最新刊『世界大異変: 現実を直視し、どう行動するか』から世界情勢を解説していきたいと思います。

今回は「新型コロナウイルス危機」やウクライナ侵攻後のインフレの行方についてお伝えします。

利上げでは商品の需要は一時的にしか抑えられない
日本は海外に比べて物価の上昇が緩やかとは言われているものの、ジリジリと上昇しており、もはや見逃せないレベルです。

2020年基準を100とする消費者物価指数を見ると、2022年6月(東京都区部)では、電気代122.3、都市ガス代125.4、灯油119.5、調理カレー118.2、ルームエアコン110.8などとなっています。

岸田政権はガソリンなどに加えて電気代の補助も打ち出そうとしていますが、「焼け石に水」のようにも感じます。

では、給与が伸び悩み、物価が上昇する時代に、どのように家計や資産を守っていけばよいのでしょうか。

ジム・ロジャーズ氏は、今起きているインフレからもわかるとおり、「確実にコモディティ(商品)の時代が到来する」と予測しています。

「ウクライナ危機で農作物を植え収穫する人が少なくなれば、自然と食料生産高も減り、需給の歪みで物価は上昇する。

それに加えて、中央銀行がこれまでに行ってきた大量緩和によって歪みはさらに大きなものになっている」
ロジャーズ氏は続けます。

「供給は新型コロナウイルスなどに影響される一方、需要はテクノロジーの変化や中央銀行の大幅緩和によって大きく変わった。

利上げをすれば一時的には需要が抑えられるかもしれないが、利上げを行っても農作物や銅、鉛の生産量は増やすことはできず、こういった物を工場で大量生産することはできない。

また物流の歪みも物不足を生み、インフレを助長する。さらに、エネルギー価格の高騰は世界的な流通コストの上昇をもたらしている」

先日、私は約3年ぶりに日本にシンガポールから家族3人で一時帰国をしましたが、PCR検査で1人当たり約1万〜2万円も取られただけでなく、航空券と一緒に請求された燃油サーチャージには本当に驚きました。

例えば、日本から北米やオセアニアへの燃油サーチャージは、日本円で1人4万7000円(日本航空、2022年6月1日から7月31日発券分)も取られるのです。もはや、必要な旅行以外は考えてしまうレベルの値上げです。

日本人が購買力を維持するためには、資産運用を真剣に考える必要がありそうです。

高インフレ時に注意すべきこととは?
ロジャーズ氏は言います。

「今の注目はコモディティだ。世界を見渡せば株や債券だけでなく、さまざまな国の不動産もバブルになっている。安いと言われていた日本の不動産も、バブルになりかけているように見える。

韓国やニュージーランドのように、すでにバブルになっている国も存在している。しかし、コモディティだけはまだ割安だと感じる。

例えば、銀は高値から約50%も下がっているので、これはバブルではない。

砂糖も同様だ。上昇したといっても、ピーク時の価格を大きく下回っているので、バブルにはほど遠い。私は長期保有できるものに投資したいので、テクノロジー株よりはコモディティを注視している

「まずは資産のポートフォリオを考えなければいけない。過去の歴史においては、インフレ時には金や銀、食料やエネルギーなどの商品、あるいは不動産を持つことが有効だった。
ウクライナ侵攻が起こって以降、食料やエネルギーの高騰が続いているが、私はそれ以前から商品には注目し投資をしていた」

実際、2020年に取材をしていた頃から、ロジャーズ氏はウクライナ危機の予言こそありませんでしたが、金や銀、コモディティの話を繰り返し熱く語ってくれたことを覚えています。

まだ皆が株式や暗号資産(仮想通貨)に熱狂していた頃から、上がり始める前のコモディティに注目をしていたのです。

長期的に見れば、商品ほど儲かっている資産は少ない。
至るところで紹介しているが、私は1966年から1974年にかけて砂糖の先物が1.4セントから66セントへ上昇する間、安く買った砂糖を持ち続け、価格が45倍以上にもなったときは、とても興奮した。

株式と商品の価格変動には逆の相関があって、およそ18年程度のサイクルで両者が変化している。例えば、1906年から1923年にかけては、商品が上昇し株式は行き詰まっていた。その後は逆だった」

ロジャーズ氏は続けます。

「一方、1970年代には商品相場が過熱し、株式が不振だった。この間、アメリカは史上最悪のインフレ期で、株式とは対象的に商品市場は上昇を続けた。砂糖以外にも、トウモロコシは295%も上昇し、石油も1970年代に15倍に上昇、金や銀は10年間で20倍以上も上昇した」

「商品ETF」などを保有すればインフレに対抗できる
このように、株や債券が不振な時代にも商品をポートフォリオに加えると、その値上がりによって利益を得ることができるとロジャーズ氏は言います。 
 
「現在は、長く続いた『株式の時代』が終わり、再び『商品の時代』が到来しようとしている。

過去の時代、コモディティ投資はプロの世界のものだったが、現在では、コモディティ関連のETF(上場投資信託)やETN(指標連動証券)、インデックスファンドなど、個人でも気軽に投資できる金融商品が多く出てきている。

それらに投資することで、大きなリスクを取らなくても、商品で利益を上げることができるようになっている」

「私は、インフレが続くと見ているので、ポートフォリオには必ずある程度、商品を組み込んでおくことをお勧めする。

商品投資は、株式の下落相場やひどいインフレに対してだけではなく、深刻な不況に対しても有力なヘッジ手段となりうるものだ。

過去最大級のバブルが破裂し、私が懸念する究極のベア(弱気)相場に突入したときにも、きっとあなたを守ってくれるはずだ」

日本では電気代が高くなったといっても今のところは1.2倍程度で済んでいますが、海外では契約によっては1.5倍以上に値上がりをしている国も少なくありません。

私は電気代の値上がりをヘッジするために、コモディティインデックスのETFを保有しています。

ETFの値上がり益と支出増を相殺する効果があるからです。
また、ウクライナ侵攻やインフレで株式市場がアップダウンしている間も、ポートフォリオに商品を加えることで値下がりを緩和する効果がありました。

本来はヘッジのために商品の取引をすることが多いものです。家計や企業活動をインフレから守るうえでも、ポートフォリオの一部にコモディティを加えることは有効だと感じます。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

著者:花輪 陽子

次の大暴落で最もひどい影響を受けるのは日本だ ジム・ロジャーズ氏が変われない日本に警告

2022-08-01 10:32:49 | 日記
次の大暴落で最もひどい影響を受けるのは日本だ ジム・ロジャーズ氏が変われない日本に警告

2022/08/01 08:00

シンガポール在住、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。引き続き、大投資家であるジム・ロジャーズ氏の『世界大異変:現実を直視し、どう行動するか』から世界情勢を解説していきます。

今回は日本と世界経済の未来についてお伝えします。

「巨額のお金を刷ったツケ」は若い人たちに

「世界の中央銀行は信じられない額の通貨を発行し、大量の株や債券の買い入れのために巨額の資金を使っている。コロナ以降の経済回復は早かったが、これだけの巨額の資金を使えるのなら、誰もが楽しい時間を過ごせるだろう」

確かに、世界中の中央銀行の金融緩和によって、「新型コロナショック」は一見、最悪の状態を免れたのかもしれません。しかし、ロジャーズ氏はそんな都合のいい状況が続くわけはないと言います。

「しかし、これは若い人たちにとっては、悲劇的とも言える悪い事態だ。私のような高齢者はこの代償を払う必要はない。

なぜなら次の大暴落が来たときには、おそらくもうこの世にいないか、残りの人生の時間はきわめて短いからだ」

「お金を印刷し続ければ続けるほど、次の大暴落は、よりひどいものになる。そして、数多くの国家が痛手を負うことになるが、その中で一番ダメージを被るのは日本になる。なぜなら、日本の出生率は低く、外国人をほとんど受け入れておらず、日本銀行は今もなお大規模な緩和を続けているからだ。巨額のお金を刷れば、それだけ通貨の価値は下落する。そして、円安のデメリットは、若い人に対してより重いものになる」

「コロナ給付金」「Go Toキャンペーン」など、大規模なバラマキに思うところがあった人もいるでしょう。

日本だけではなく、欧米諸国でも金融緩和政策だけでなく、度重なる大規模な財政出動が行われました。

ロジャーズ氏はその中でも異例の長期にわたる日本の金融政策について心配をしています。これだけの緩和を続けてきた先進国の中央銀行は過去にないからです。

「日本に関して言えば、いくら日銀が株や債券を操作しても、相場参加者のほとんどが『日銀は信頼できない』と感じており、円を売り込んでいる。

長い間、円は安全通貨であり、他の通貨よりも安定していると考えられていた。

だが、最近になってマーケットは日本に対して不信感を募らせている。

日銀が何を言っても、マーケットはもう日銀の言葉や行動を信用することはないだろう」

「日銀が緩和を続ける限り、円安は続き、いずれ日本国内の誰かが、これほどまでの円安は健全ではないと気づくだろう。そしてどこかで日銀もスタンスを変え、利上げなどの金融引き締めを実施するだろう。

だが、そのときには、わずかな引き締めでは足らず、日銀は信頼を勝ち取るために何度も利上げをしなければならなくなるだろう。

そのことは、多額の債務を有する日本には大きな試練となる」

「金利上昇」「円安」「物価上昇」の悪循環の懸念
確かに世界的に見ても、日本はGDPに対しての債務の比率は大きく、なかなか利上げに向かうことができない状態です。そんな中でも永遠に金融緩和を続けるわけにはいきません。

もしどこかで利上げに転じる際には、債務の多い日本には大きな受難が来ると予測されます。

金利が上がると利払いが増え、住宅ローンを組んでいる家計を直撃するでしょう。

また、資産運用をしている人にとっても、利上げは株価の下落リスクを高めることとなり、老後資金にも影響が及びます。

さらに、利上げしても中央銀行への信頼が低下したりすれば、円安が進み、留学や海外旅行も一段とお金がかかることになります。輸入品の値段も上がります。

「日本の将来を考えたとき、ものすごい勢いで子供を増やすか、移民を受け入れるか、とんでもないスピードで借金を減らすなどしない限り、この先も安全で豊かな社会が長く続く見通しは絶望的だ。

このまま、若者が減って高齢者が増え、社会保障のサービス水準が変わらないとすると、数少ない若者に重税を課さない限り、借金は増え続けることになる」

2022/08/01 08:00

次の大暴落で最もひどい影響を受けるのは日本だ
(東洋経済オンライン)

ロジャーズ氏は続けます。

「このまま何もしなければ、日本には恐ろしい未来が待っている。

すぐに消滅することはないが、経済破綻した他国と同じように、外資に買われまくる運命をたどるだろう。大多数の中間層は、今よりも貧しくなる。そうすれば、おそらく現在のような穏やかで豊かな社会は維持できなくなる」

日本が大好きな同氏は、つねに若い世代を心配しています。

「改めて、私は日本の子供たちに伝えたい。『あなたが10歳だったら日本から逃げるか、AK10-47(携帯用の自動小銃)を使えるようにしろ』と。生きているうちに、社会の混乱から逃げられないからだ」

今回が「ラストチャンス」になるかもしれない
参議院選挙が終わりましたが、与党も野党も、多くの候補者は給付金を配るなどの財政を拡大する方向で経済政策を訴えていた、と感じました。

ロジャーズ氏が突きつける「少子化対策」は、「シルバー民主主義」が幅を利かせている日本ではなかなか受け入れられないほか、

「国の借金を減らす」
「移民を増やす」という政策も、
「まずは目先の1票」しかない近視眼的な政治家にとっては後回しにされがちな政策です。

結局、

「ほとんど何もなされないまま、時が過ぎて手遅れになる」と同氏は繰り返します。

絶望的な未来を回避するためには、金融緩和が継続されている数年の間に、日本から画期的な技術革新が生まれることを期待するくらいなのかもしれません。

低金利で円安の間に、経営者や個人が「稼げる産業」にシフトし、将来に備えることができるのか。今回がラストチャンスになるのかもしれません。

個人としてできることがないわけではありません。もし円の価値が落ちても将来も購買力を維持できるように、一定の外貨や外国資産を持つことも必要になるでしょう。

また、英語や中国語などを身につけるなどの防衛策もあります。

シンガポール在住の身からすると、日本の算数教育などは先進諸国と比べても優れていると感じます。

ロジャーズ氏が言うように、得意な分野を伸ばして、思い切って海外に飛び立つことも有効のはずです。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
著者:花輪 陽子