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追想・安倍晋三内閣総理大臣〈「言葉を交わせるかもしれない」淡い期待を抱き、私は奈良の病院に向かった〉

2022-08-10 17:40:44 | 日記
追想・安倍晋三内閣総理大臣〈「言葉を交わせるかもしれない」淡い期待を抱き、私は奈良の病院に向かった〉

/北村滋――文藝春秋特選記事

【全文公開】

記事提供終了日:2023/8/5(土)

8/10(水) 6:00配信


「文藝春秋」9月号の特選記事を公開します。文/北村滋(前国家安全保障局長)

 ◆ ◆ ◆ 

2022年7月8日「悲報」―奈良県橿原市  それは普段よりはむしろゆったりとした昼時であった。眼下に芝・虎ノ門の街並みを見下ろす赤坂一丁目、高層ビルの最上階、船橋洋一氏との昼食を待つ最中、その知らせは前触れもなく飛び込んできた。 

「NHK速報 安倍元首相 奈良市で演説中に倒れる 出血している模様 銃声のような音」(一一時四四分)  目を覆いたくなるような不吉な知らせだった。

さらに、「背後から散弾銃のようなもので撃たれた模様」「心臓マッサージ中 ヘリで搬送の予定」「銃器は押収済み」「被疑者を確保」といった断片的ではあるが、衝撃的な情報が次々ともたらされる。 

 正午前に船橋氏が現れると、着席する間もなくこの事態を告げた。

平素は、冷静で論理的な彼には珍しく、「国家にこれ程大きな損失はない。日本は何時(いつ)からこんな恥ずかしい国になってしまったんだ」と一言。

怒気を含んだ声だった。

  一二時三七分、盟友、ロバート・オブライエン前米国国家安全保障担当大統領補佐官より電話が入る。

心のこもった見舞いの発言の後、この事態をトランプ前大統領に直接面会して伝えると話していた。

「安倍総理の回復を心から祈っている。

彼は、日本のみならず全インド太平洋地域において屹立(towering)した指導者であり、米国の真の友人だ。神のご加護が彼の回復をもたらしますように」とメッセージにあった。 

 人づての情報に右往左往し、遠くで為す術を知らない自分が正直言ってもどかしかった。

安倍晋三元内閣総理大臣(「安倍総理」という)の危急存亡の事態に一メートルでも、一センチでも物理的に近づくことが長年お仕えした自らの務めだと悟った。

搬送先の情報を求めたが、なかなか要領をえない。

ようやく橿原(かしはら)市所在の奈良県立医科大学附属病院であることが判明する。

失礼ではあったが、食事もそこそこに「これから病院に行って来ます」と船橋氏に告げた。

「君なら当然そうすべきだ」と背中を押してくれた。

  品川駅に向かうタクシーの中で安倍総理の安否を気遣うプロデューサーの残間里江子氏からの電話。

「これから奈良に向かう」
「あなたならそうしなきゃね」。
船橋氏と全く同じ反応だった。  

一三時一七分発の「のぞみ35号」に乗り込むと、気持ちが少し落ち着いた。

「この『のぞみ』が安倍総理の強力な磁場に引き寄せられている」。

そんな錯覚のなせる業だった。「ひょっとしたら総理と言葉を交わすことができるかもしれない」などと淡い期待を抱いたこともあったが、そんな期待は現地到着後に裏切られることになる。

新大阪駅から橿原まで車でどの位かかるか見当もつかなかったが、行程は順調だった。

車中、今井尚哉内閣官房参与から連絡が入る。

橿原市に向かっていると告げると、昭恵夫人と菅義偉前総理もまた此方に向かっていることを教えてくれた。

彼は、これから生ずるであろう安倍事務所としての仕事を中核となって引き受ける覚悟でいた。

奈良の病院における事務は、私に委せたということなのであろう。

官邸で勤務していたときから、何時もそうだった。長く話し合わなくとも事態に応じて二人が安倍総理のためにそれぞれ何をすべきかは自ずと分かっていた。それは、今回も同様だ。 

 一六時三〇分過ぎに橿原市の病院に着くと、既に清和政策研究会(安倍派)から派遣された塩谷立会長代理、西村康稔事務総長は到着して昭恵夫人の到着を迎える態勢にあった。

私も、その列に加わり、夫人が到着すると、安倍総理との対面。そして一七時〇三分、奈良県立医科大学附属病院の総力を挙げた、医師らの懸命の施術にも関わらず死亡が確認された。

安倍総理は、さぞかし無念ではあったであろうが、予想以上に安らかなお顔で、それが唯一の救いだった。

 GDP、財政規模、防衛力、こうした「有形資産」では換算できない国の価値を二一世紀を通じて安倍総理は政治家として積み上げてこられた。

その国家が蓄積した莫大な無形資産の多くが卑劣な兇弾とともに消滅した瞬間でもあった。

安倍氏の国葬にオバマ氏ら出席へ マクロン氏、メルケル氏も検討 

2022-08-10 15:36:12 | 日記
安倍氏の国葬にオバマ氏ら出席へ マクロン氏、メルケル氏も検討 プーチン大統領は欠席の見通し


2022.8/10 15:30


オバマ氏(AP)


9月27日に東京・北の丸公園の日本武道館で営まれる安倍晋三元首相の国葬に、米国のバラク・オバマ元大統領が参列する方向で調整していることが、分かった。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領や、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相も出席を検討する一方で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は欠席する見通しだ。

オバマ氏は2016年、当時首相だった安倍氏とともに、被爆地・広島を現職米大統領として初訪問した。

民主党のオバマ氏は、ジョー・バイデン米大統領の事実上の名代として参列するとみられる。

オバマ氏(AP)

各国からは、安倍氏への弔意や業績への称賛が寄せられており、日本政府は海外要人の弔問を積極的に受け入れる方針だ。政府は今週中にも、海外要人の出席を取りまとめる。


そんなエマニュエル大使は今、覇権主義的な傾向を強める中国に厳しい目を注いでいる。

2022-08-10 12:14:06 | 日記
 今年1月に着任したラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使(62)は、アメリカの政界では剛腕として名を馳せ、「ランボー」の異名を持つ。


大学在学中から政治活動に没頭。民主党陣営での選挙活動と資金集めで驚異的な実績をあげ、若くして頭角をあらわした。


 1993年、ビル・クリントン政権で大統領上級顧問に就任し、ホワイトハウス入りを果たす。


当時の上院司法委員長ジョー・バイデン(現大統領)とはそこで知り合った。


そして2021年、バイデン政権の発足に伴い、駐日大使に任命された。
 
そんなエマニュエル大使は今、覇権主義的な傾向を強める中国に厳しい目を注いでいる。


 中国の何が問題なのか、そして日米同盟は中国とどう対峙すべきなのか?――米民主党きってのタフネゴシエイターが「文藝春秋」のインタビューに答えた。


© 文春オンライン ラーム・エマニュエル大使 ©文藝春秋
中国は最大の国際ルール侵害者


 まずは、覇権主義的な傾向を強める中国について、率直な意見を聞いた。するとエマニュエル大使はニヤリと笑みを浮かべて「その質問に答え終わるのには来週火曜日までかかるから、覚悟して下さい」と前置きしつつ、こう答えた。


エマニュエル大使:中国については多くの人の理解が追いついていない部分が多いと思うので、アメリカとしては率直に話をすべきだと思います。


 過去20年間、国際ルールに基づくシステムにおいて、最も恩恵を享受してきたのは中国です。


それと同時に、国際ルールに対して最も多くの侵害を行ってきたのも中国にほかなりません。


 中国は正しい決断、投資をしたおかげで、何百万人という中国の人々が貧困から脱することができました。


 ただその過程の中で、ルールを侵害し、他国の知的財産などを盗み、他国をいじめ、抑圧するような行為を繰り返しています。


ですから中国の国民が恩恵を享受できた一方で、別の面ではこのシステムを壊す行為を繰り返してきたのです。


――スリランカがデフォルトに陥りました。やはり中国の「一帯一路」政策の犠牲者でしょうか?


大使:スリランカだけでなく、パキスタン、ラオス、エチオピア、ザンビアなど巨額の債務に苦しむ国々をみると、ひとつのパターンが浮かび上がってきます。


いずれの国も、中国から押しつけられた巨額の負債によって押しつぶされそうになっています。


結果として、これらの国々は経済的成長やポテンシャルの芽を摘まれてしまっているのです。どの国でも状況は似通っています。


 なぜこんなことになってしまったのか。最大の理由は、これらの国々の政府が悪い決断を下したことです。


また中国は透明性と説明責任において、国際的な基準で行動していない。これが問題の本質です。


中国に「一度騙されたら次はない」


 では、中国が世界の貿易市場の枠組みに参加するには、どのような条件をクリアする必要があるのか? これについても、エマニュエル大使の答えはきわめて辛辣だった。


大使:アメリカでは「一度騙されたら次はない」といったような意味合いの表現を使うことがあります。


 中国がWTOに加盟して我々はどのような教訓を得たでしょうか。


中国は守るべきルールを全て破りました。中国のような経済的スパイ活動を行う国は他に存在しません。


中国のような知的財産の窃盗を行う国もありません。


市場原理に逆らう形でルールを変え、自分達だけがトクをするようなことは、中国以外の国はしていません。


 これらを踏まえれば、世界の貿易市場の枠組みに中国を迎え入れることや、また中国がそれらのルールを守ると期待することは現実的ではないと思います。


 でも、これは中国自身が下した決断です。他国はルールを守り、中国を迎え入れようとしましたが、中国はその信頼を裏切るという決断を自ら下したのです。


 私が議員だった頃、大工用の脚立を製造している企業が選挙区にありました。しかし、中国はその企業の特許を盗み、中国政府の補助金を使ってコピー商品を格安に大量生産して販売したのです。


私はその企業を助けようとしていたのですが……。


このように中国は知的財産、テクノロジー、ビジネスモデルを盗むのです。そんなことをしておきながら、なぜ友好国がいないのかわからないといったことを言っているようですが、それは幾度も信頼を裏切ってきたからにほかなりません。


世界を中国の思い通りにすることは許さない


 そんな中国に対抗する安全保障および経済の枠組みとして、QUAD(日米豪印戦略対話)の役割が期待されている。


だが、ロシアによるウクライナ侵攻について、インドと他の加盟国の間ではロシアに対する温度差が指摘されている。


この点について、エマニュエル大使はどう受け止めているのか? 


すると、「その質問、冗談でしょう?!」といたずらっぽく笑い、QUADの協調に絶対の自信を見せた。


大使:QUADは確立された枠組みであって、考えが似通った国々によって構成されています。根幹の目的、そしてベースになっているのが、「自由で開かれたインド太平洋」の維持です。


 中国はQUADを警戒しています。


なぜならQUADは、中国に同盟国が無いことや中国が孤立していることを際立たせ、さらに世界のあり方を中国の思い通りにすることを許さないからです。


軍事的・経済的な理由だけではありません。アメリカ、日本、オーストラリア、インドが一体となった「政治力」が中国にとって脅威なのです。


脅威と見られることはQUADの意図するところではないのですが、中国は脅威とみなしています。その理由は、世界のあり方について、QUADによって中国の主導権が奪われると見ているからです。


――では、インドとの温度差は克服できると?


大使:ずばりYESです。


安倍元首相のレガシー


 インタビューの中でエマニュエル大使が繰り返し言及したのは、「自由で開かれたインド太平洋」という言葉だった。


大使:「自由で開かれたインド太平洋」……この哲学・戦略の名付け親は、まさに安倍元首相でした。


この言葉は、いまや誰もが口にする言葉です。オーストラリアや日本のリーダー、インドの政府関係者、欧州の人々に至るまで、皆が口にしています。


今では我々は何の疑問も持たず日常的にこのフレーズを使っていますが、これこそ安倍元首相のレガシーと言えると思います。


 私たちは「自由で開かれたインド太平洋」やQUADなど、安倍元首相が作り我々に残してくれた枠組みの中で、様々なことを実行に移していきます。安倍元首相は素晴らしいレガシーを残しました。


――では、「自由で開かれたインド太平洋」のために、日米同盟はどのように進化するべきなのか?
――エマニュエル大使が忌憚なく語ったインタビュー「中国は信頼を裏切った」は、8月10日発売の「文藝春秋」9月号に全9ページにわたって掲載されている。


(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年9月号)