「結婚しない」、「南北統一は望まない」…、韓国の若者が文在寅の「反日」に付き合えなくなった決定的なワケ
韓国の20代、30代の若者の意識の変化は劇的だ。出生率は右肩下がり、出生数は10年前の半分まで減った。高騰を続けるマンションに子供の教育費への多額の負担…。厳しすぎる社会環境が、若者の「南北統一」や「反日」から遠ざけている。前編『マンション平均価格「1億円超え」の韓国・ソウルで、若者たちが文在寅の「反日」に付き合えなくなった当然すぎるワケ』に続き、元駐韓国特命全権大使の武藤正敏氏がレポートする。
「南北統一は必要ない」
ソウル大学統一平和研究院が7月に行った調査では、「南北統一は必要」という回答が46.0%と過去2番目の低さとなり、「統一は不可能」とする回答は31.6%と過去最高となった。
同研究院の金範洙(キム・ハンス)教授によると、若年層を中心とする統一の必要性に対する否定的認識がここ数年一貫して現れている由であり、それは統一に関する無関心と現在の分断体制の維持を望む認識につながっている、という。
若者にとっては、すでに韓国社会の中で過酷な生存競争を闘っており、経済が崩壊した北朝鮮の住民の生活の面倒まで見るのはごめんだとの意識である。
北朝鮮との統一が必要との問いに対する回答が否定的だったのは従北主義を貫いた文政権の頃からであり、その当時でも国民の求める北朝鮮政策の目標は「平和的共存と平和政策」であった。
しかし、最近の調査では、北朝鮮の核放棄は不可能とする回答が92.5%と2007年の調査開始後最も高く、北朝鮮が武力挑発を行う可能性があるとの回答も60.9%であった。
韓国では、北朝鮮の核は韓国に向けたのではないと主張する左派に同調し、北朝鮮に対する警戒心が希薄であったが、北朝鮮の現実に直面し、若者から北朝鮮に向けた視線が変わってきているのが実感させられる。
もはや北朝鮮を同胞と見るよりも敵と見る見方が支配的になっているのではないか。
若者は左派を支持しない
各国の思想傾向として、若者は政府の政策に不満を持ち、革新系を支持する傾向が強い。
しかし、韓国では保革という政治的理念よりも、「自分たちの生活をどうしてくれるのか」という現実的な要求が強い。
大企業の平均給与が中小企業の2倍を越え、激しい受験戦争や就職難を経験している韓国の若者は「機会の公正」に敏感だ。当初は革新系の文在寅氏に期待したが、相次ぐ政策の失敗、政権や与党幹部の不祥事に失望した。そして不動産価格の高騰が失望に拍車をかけた。
22年の大統領選挙では20代、30代の浮動票の動向がカギだと言われており、与野の候補は共に若者の就職や不動産高騰対策に焦点を絞った選挙運動を行った。選挙の出口調査では、20代、30代の投票先は保革がほぼ拮抗していたが、この時点では若者の政治性向は中立的であった。
しかし、若者の革新離れは続いているようである。それは北朝鮮が韓国に対する挑発行動を高めており、文政権幹部や民主党の不正が次々と摘発されていることが響いているように思われる。
尹錫悦大統領は、民主労総など過激な労組の不正や北朝鮮との関係を暴いているが、MZ世代と呼ばれる若者は、巨大労組とは袂を分かち、MZ労組という若者世代を中心として労組を結成する動きを示している。
この「新たに見直す労働者協議会」で、これに参加する労組は、ソウル交通公社の「正しい労組」、LG電子の「人中心事務職労組」など8か所である。
MZ労組の動きが注目されるのは、イデオロギーの偏りを避け、組合員の権益向上など労組本来の機能に集中していることである。MZ労組は、外部勢力と連携した政治ストライキなどの過激な闘争に反対し、労働者の実利を得る方向に進化している。
MZ労組の組合員数は全体でも5000人程度で、巨大労組の1%にも満たないが、政治的な偏向のない新しい労組の形を追求している。
尹錫悦政権は既存の労働組合改革の一環として、これまで支援してきた労組への国庫補助金を大幅に減額し、MZ労組などの新しい労働団体に回す方針を示している。今後政治的に偏向しない労組の動きが広がってくるかも知れない。
「反日」という偏見を捨てた若者
前回の寄稿でも若者世代の対日認識の変化を特集した。それを示すのが日本のアニメ「The First Slum Dunk」 の興行成績が好調である反面、不振なのが反日映画なのだということである。
伊藤博文朝鮮総監を暗殺した安重根は韓国で義士・英雄と敬われており、その安重根の最期の1年を描いた映画「英雄」=原題=でさえ、公開されてから2か月近くになっても損益分岐点を未だに越えられずにいるという。
今の韓国の人々は日本製品に親しみ、訪日を楽しんでいる。文在寅政権時代にそれを無理やり抑えられ、生活の自由を抑えられた不便さを感じてきたのであろう。特に若者世代は、反日教育を叩きこまれた50代の親世代の人々のように、韓国人であれば日本に好感を持たないと答えるべきと考える世代とは違う。
若者は、自分の考えを偏見にとらわれず率直に表現できる世代である。
変わりゆく韓国
これまで若者世代の認識の変化について述べてきた。ただ、若者世代は既存の世代と比べ人口が少なく、その考えかたがいつ社会の主流に躍り上がるかは今後の課題だということである。
しかし、若者世代の人々が韓国社会を客観的に見つめることで、既存世代の固定観念が取り払われえ、認識の変化に結び付いてくれれば、韓国人のものの見方が変わるきっかけとなるであろう。
それが韓国政治の左傾化防止、経済の再生、外交の現実化、そして対日関係の改善につながるだろう。