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谷口智彦のこの一冊|小野圭司『日本 戦争経済史~戦費、通貨金融政策、国際比較』

2021-11-30 13:16:30 | 日記
2021年11月28日 公開

谷口智彦(6) 日本(6) 戦争(2)


谷口智彦のこの一冊|小野圭司『日本 戦争経済史~戦費、通貨金融政策、国際比較』
安倍晋三前総理のスピーチライターを務めた慶応義塾大学大学院教授の谷口智彦氏が選ぶ珠玉の一冊!

2016年の5月1日、麻生太郎副総理兼財務大臣は、ロスアンゼルスのザ・ビバリー・ヒルトンにいた。同ホテルを会場に大物投資家たちが集まる会議に出て、英語で一席ぶった麻生氏は、目を丸くさせるエピソードを紹介した。  

日本は信義を守る国だと説くため麻生氏がもちだしたのは、日露戦争の戦費を得ようと高橋是清が英米投資家に売りさばいた外貨建て日本国債を、英米相手の戦争になっても日本はチャラにしなかった、どころか、戦後だいぶ経つまで営々と償還(支払い)したという話だ。「どうです、安全確実ですからひとつ日本に投資を」というワケだった。  

京都大学で経済学を修め、住友銀行(当時)で8年働いたのち1997年以来防衛省防衛研究所に務める小野圭司氏が、このたび『日本 戦争経済史』という本を出した。これを読むと、麻生氏の話は正真正銘ホントだったのだとつくづくわかる。  

日露戦争の戦費に調達した外債を返し終えたのは、1970年。日清戦争の外債償還にはもっとかかって、完済したのは1985年だと書いてある。「プラザ合意」で日本が世界最大の債権国に躍り出たその同じ年に、ニッシンセンソウ(!)の借金返済がやっと終っていたとは。  

本書を労作と呼ばずして、何をそう呼べようかという出来栄えは、たくさん出てくる表のひとつひとつを見れば明らかだ。  

戊辰戦争、西南戦争から日清・日露を経て日華事変・太平洋戦争まで。兵隊をどう養い、食わせ、着させたか(ただ歩かせるだけでも兵隊にはカネがかかる)。軍艦をどうやって買ったか。数字に正確を期したうえ、それを当時の日本経済・財政の規模や、諸外国のそれと比較しながら論じるために、骨惜しみをしない著者はいくつもの表をつくった。  

たゆまぬ努力の賜物というべき表を眺めつつ思うのは、戦争というもの、軍刀を吊るし参謀肩章をさげた将校たちすべてが鬼籍に入ったあとも、まぁ長く続くものだということだ。借財の後始末は、世代を越え、大蔵省(当時)理財局の吏員が背負った。謳われざるそんな戦士の誰彼は、本書の出現をもって瞑すべしだ。  

麻生氏が言うとおり、ごく一部帳簿上の名目的な債務を例外として、日本は、外国から借りたカネも、日本国内でつくった借金も律儀に返した。勝ち戦にも、負け戦にもきちんとけりをつけている。誰をほめたらいいのかわからないが、エライ。  

138ページに、衝撃的な数字がある。日露戦争で東郷平八郎が乗った、かの戦艦「三笠」。その値段は、竣工年の一般会計歳出に対し4・4パーセントに達した。この比率を今日の予算に当てはめると、三笠1隻で、最新鋭イージス艦28隻が買える計算になる。日露戦争へ向けつくったほかの戦艦、装甲巡洋艦の調達額合計を同じように今日の財政で比較すると、わが国は「イージス護衛艦三百隻超を対露戦に向けて整備したことになる」のだと。  

中国を舞台に日本が演じた通貨の信用をめぐる戦いを、当該分野の先駆者・多田井喜生という人の業績に依りつつ論じたあたり、もうひとつの読みどころ。比較対象として米国の南北戦争を詳しくみているところも、戦争の「台所事情」は各戸それぞれ苦労だったことを偲ばせ、意外な共感を抱かせる。  

戦争をカネから眺めると、見える景色はかくも違うものか。(初出:月刊『Hanada』2021年9月号)



特集高学歴でも就職できない 厳しさ増す韓国就活事情

2021-11-30 13:02:41 | 日記
特集高学歴でも就職できない 厳しさ増す韓国就活事情

2021年3月15日 17時14分

「韓国での就職は考えませんでした。努力したわりに得られるものが少ないから」
こう話すのは、韓国の名門大学を卒業した男性です。TOEFLのスコアは世界のトップクラスの大学にも進学できる100点を超え、京都大学に留学した経験もあります。その彼が就職したのは韓国ではなく日本の企業でした。その理由を取材すると、韓国社会の厳しい就活事情がありました。(国際部記者 金知英)

すべては大企業に就職するため
「名門大学に行けば、成功すると言われてきました」

こう話すのは、26歳の韓国人男性です。

韓国は「名門大学に入って大企業に入ることが成功」と言われるほどの学歴社会。男性も子どものころから、こうしたことばを周囲から聞いて育ち、受験競争を勝ち抜くために勉強漬けの生活だったといいます。中学時代は3つの塾を掛け持ちしながらほぼ毎日、塾通い。特に英語は猛勉強し、中学3年生の時には、TOEFLで世界トップレベルの大学に進学できる104点のスコアを獲得。志望校にも合格しました。

高校に入ってからも遊びや友人づきあいなどは我慢し、勉強、勉強の毎日だったといいます。そして、念願の志望大学に合格。

男性が合格したのは、韓国で「SKY(スカイ)」と呼ばれるソウル、コリョ(高麗)、ヨンセ(延世)の3つの有名大学のひとつ、コリョ大学です。
まさに子どものころから親が期待し、自身も目標にしてきた名門と呼ばれる大学でした。卒業式での男性(右)しかし喜びもつかの間、大学に入っても猛勉強と競争は終わりませんでした。

それどころか、むしろ激しくなるばかり。男性は、大学院への進学を考えた時期もあったといいます。
大学1年生から始まる就職活動
「韓国では死ぬ気で勉強して大学に行けたとしても、そこで終わりではないんです」
男性がこう話す理由は、韓国の過酷とも言える就職活動事情があります。

韓国では、大企業に就職するためには「高学歴」をはじめとする「スペック」と呼ばれる実績が必要だといいます。この「スペック」を積むために、事実上、大学1年生から就職活動が始まるというのです。就職活動で評価される「スペック」には、主に次のようなものがあるといいます。・学歴(どの大学を卒業しているか)
・英語力(TOEICなどで高スコアを持っているか)
・成績(大学での成績は優秀か)
・企業でのインターンシップ
・海外経験(留学などの経験があるか)
・学外での活動(企業の学生向けプログラムの参加経験など)大企業に入るには、各学期の成績は、上位のA以上を維持しなければなりません。実際、男性も試験の時期になると長い時で2週間ちかく、ほぼ寝ないで準備をしたといいます。

加えて男性は在学中、アフリカで子どもたちを支援するNGO活動、ソウル高等裁判所でのインターン、政党傘下の研究所での研究補助、日本の京都大学への留学といった「スペック」を必死に積み上げていきました。
高学歴、“ハイスペック”でも就職できない?
いったい、どれほど「スペック」を積み上げればいいのだろうかー。

高学歴でハイスペックと言われる先輩や友人たちであっても、就職活動がうまくいかず苦しむ姿を数多く目の当たりにし、疑問を感じるようになったといいます。「優秀な成績や課外活動のためにかかる準備や費用が膨大な一方で、大企業に入るのはとても大変。それに、せっかく大企業に入れても40代、50代になると会社から出て行けという圧力があるのを知っていたので、こんな現状なら韓国での大企業の就職を目指すのは難しいと思いました」高学歴であっても、大企業に入るのが難しいというのは、どういうことなのか。

専門家に話を聞くと、背景に「構造的な問題がある」と指摘。そこでデータを分析してみました。

韓国の2020年の現役の大学・短大への進学率は、72.5%(韓国教育省)。単純に比較はできませんが、日本の大学・短大への進学率は58.6%で、韓国は日本を大きく上回っています(文部科学省・学校基本調査)。一方で、韓国で大企業と定義される企業の数は2391社で、割合は全体の0.3%。大企業で働く人の割合は全体の20%にとどまっていました(2019年・韓国統計庁)。

たしかに韓国では大学への進学率が高い一方で大企業の数が限られているため、構造的な難しさがあるようにも思えます。さらに、韓国の大企業と中小企業の1か月の平均賃金を見てみるとー。

大企業515万ウォン(約49万円)中小企業 245万ウォン(約23万円)。※換算レートは3月10日時点(2019年・韓国統計庁)
大企業の賃金は、中小企業の倍以上となっていました。大卒者の多い韓国では日本以上に大企業指向が強い傾向があると専門家は指摘しています。

また、こうしたこともあり、2020年の韓国における15歳から29歳の失業率は9%と、全体の失業率4%を大きく上回り、慢性的な就職難が社会問題となっているようです。(韓国統計庁)
追い打ちかける「常時採用」「即戦力」
ただでさえ厳しい韓国の大学生たちの就職活動に、追い打ちをかける動きが、近年、出てきています。「高学歴」「ハイスペック」に加え、「即戦力」までも求める傾向が強まっているといいます。

「精神的にきついです。いつ就職活動が終わるのかわからず不安です」

こう話すのはソウルのチュンアン(中央)大学のユ・ヘヨンさん(25歳)です。

ユさんが不安に感じているのは「常時採用」を導入する企業が増えてきていることです。これは、日本でも主流の、まとめて採用する「定期採用」に対して、必要な時期に必要な人数だけを採用するというものです。世界の企業との激しい競争の中で、即戦力を欲しがる傾向が強まっているのです。

ユさんは大企業に就職するために卒業を1年延ばし、マーケティングを代行する会社でインターンを経験したほか、TOEICのスコアで940点を獲得するなど「スペック」を積んできました。

それでも「常時採用」が広がれば、より「即戦力」人材が求められるようになるため、新卒には不利になると感じています。ユ・ヘヨンさん「名門大学、大企業に入ることがよいことだという意識を植え付けられているので、今、大企業に入れないと負け組になったような気分になって、生きていけないような気がします」韓国の雇用政策に詳しいニッセイ基礎研究所のキム・ミョンジュン主任研究員は、「常時採用」が広がれば、大企業への就職はより厳しいものになると指摘しています。ニッセイ基礎研究所 キム・ミョンジュン主任研究員「長期で社員を育成する『定期採用』は、途中で辞める人数を見込んで多めに採用しますが、『常時採用』では必要な『即戦力』しか採用しない。採用人数は減ることになり、名門大学を卒業しても、大企業への就職は厳しくなっていきます」
増える日本で就職する韓国の大学生
こうした中、日本で就職先を見つけようとする、高学歴、ハイスペックな学生たちが増えてきています。

韓国政府は就活生が海外で就職しやすいよう支援を進めていて、2013年に支援を受けて日本で就職した韓国の就活生は296人。それが2019年は2469人と8倍あまりに急増しています。日本企業も参加した韓国就活生向け就職面接会冒頭のコリョ大学を卒業した男性も日本で就職した1人です。男性はセミナーに参加したのをきっかけに、結局、大学院進学から日本での就職へ進路を変更。大手メーカーに採用され、現在、日本で働いています。今は、これまでのように勉強に追われるのではなく、精神的に余裕のある生活を送っているといいます。「日本での就職活動は、即戦力ではなく、長い目で見て成長できる人材を見極めてもらっていると感じました。私みたいな新入社員に対する期待値が低いので、初めから結果を残さなければならないというプレッシャーもなく、気持ちが楽です。今は、韓国に帰りたいとは思いません」
「常時採用」じゃないと生き残れない
一方でキム主任研究員は、グローバル化が加速する中、「常時採用」の流れは日本の企業でも避けられず、近い将来、日本の就職活動も変化する可能性があると指摘しています。「いま世界経済のトレンドは短いスパンで変わり、『定期採用』では対応できなくなってきています。特に、海外の企業と競うためには『常時採用』を導入しないと生き残れません。今の日本は『定期採用』をして会社で育成しようという考えですが、海外の企業に比べて業務の進め方が遅くなりかねません。企業が適時、必要な人数を採用できる『常時採用』が段階的に拡大していけば、学生の能力が重視されるようになると思います」
心を病む若者も
今回の取材の中で特に印象に残ったのが、「終わりなき競争」、「生きづらさ」ということばです。韓国では、就職難や格差が深刻化する中、過度のストレスを背景に、若者の間で精神疾患を患う人も増加傾向にあるといいます。

日本や韓国の若者が抱える問題を引き続き取材していきたいと思います。




「すべてカネ」日大理事長、相撲と恐怖人事で君臨

2021-11-30 12:06:33 | 日記
「すべてカネ」日大理事長、相撲と恐怖人事で君臨
11/29(月) 20:44配信


日本大学会館前には報道陣が集まっていた=29日午後、東京都千代田区の日本大学会館(鴨志田拓海撮影)

東京地検特捜部に29日に所得税法違反容疑で逮捕された田中英寿容疑者(74)はアマチュア相撲で名をはせ、その人脈を生かして一介の職員から理事長まで上り詰めた。

徹底した恐怖人事で反対勢力を排除するなどし、トップに君臨。常につきまとってきたカネにまつわる黒い噂に捜査のメスが入った。 

田中英寿容疑者 29日午前。東京都内の病院に入院していた田中容疑者のもとに突然、東京地検特捜部の係官らが現れた。
田中容疑者は病室に一人だったという。
「病院での逮捕は強引すぎる」。突然の逮捕劇に、日大関係者はこう語った。
 田中容疑者の力の源泉は名門として知られる日大相撲部にある。
自身もOBで現役時代は大相撲元横綱の輪島と土俵を共にし、学生横綱として活躍。
職員として日大に就職すると、相撲部の監督や総監督を務め、元大関の琴光喜ら、多くの関取を角界に送り込んだ。
 日本相撲連盟副会長や国際相撲連盟会長なども歴任。
スポーツ人脈を生かし、大学経営の面でも理事長にまで上り詰めた田中容疑者の象徴が、日大スポーツ関係者が多数出入りする関連会社「日本大学事業部」だ。そこで重用したのが、名門の日大アメリカンフットボール部OB、井ノ口忠男被告(64)=背任罪で起訴=だった。
 ■進言したら左遷 田中容疑者の理事長就任後の平成22年に設立された日大事業部は、25年12月期に約7億8千万円だった売り上げが29年12月期には約69億6千万円に膨らんだ。 日大関係者は「理事長は建設などあらゆる事業に事業部をかませようとしていた」と打ち明ける。
井ノ口被告は田中容疑者の意を受けて暗躍。関係者からは「業者から不当なリベートをとっている」といった声が聞かれるようになった。 10年近く前、理事だったある日大OBは、田中容疑者に井ノ口被告の行状を進言したという。
だが、井ノ口被告が事業部取締役、理事と出世の階段を駆け上がる一方、このOBは地方の体育館の管理人に左遷された。「歯向かったら人生が終わる」(事業部関係者) 
■「価値基準はカネ」 大学に求められるコンプライアンス(法令順守)の意識も希薄だった。 田中容疑者は、妻が経営する東京都杉並区のちゃんこ料理店で、大学幹部らと頻繁に会合を開き、そこで、人事から資金決済などの重要事項が決められていたという。 ある事業部関係者は、ちゃんこ料理店で田中容疑者がその場で財布から一万円札の束を出し、事業部に入社予定の内定者に「これでうまいもんでも食っとけ」と渡すのを見た。戸惑う内定者に井ノ口被告が「理事長の金やから、ありがたく受け取っておけ」と押し込めたという。数十万円に上る飲食費の支払いが大学に回されることもあった。 昨年、田中容疑者は自宅を改修した。値段交渉を担ったのは井ノ口被告。工事を担ったのは日大の出入り業者だった。「コンプラ? 俺はそんな揚げ物はまだ食ったことないなあ」。日大関係者がコンプライアンスについて語りかけると、田中容疑者はこうけむに巻いたという。 「理事長らのすべての価値基準はカネ」と日大元幹部。大学の評議員会も理事会もその暴走を止めることはできず、背任事件の発覚後も、田中容疑者の責任を問う声は上がらなかった。 理事長逮捕に学生からも大学イメージの落ち込みを不安視する声が漏れ、法学部3年の男子学生(21)は「理事長は学生に直接教える立場ではないが、独善的な経営は変えないといけない。すぐにでも立て直してほしい」と話した。 検察幹部はいう。「日大はガバナンスが働いていない。これで変わらなかったら自浄作用ゼロだよ」(荒船清太、吉原実、石原颯)

“ウィズコロナ”施行後「ソウルの死者は約4倍増加」…感染者は「約2倍増加」=韓国

2021-11-30 11:57:43 | 日記
“ウィズコロナ”施行後「ソウルの死者は約4倍増加」…感染者は「約2倍増加」=韓国

11/29(月) 16:56配信



韓国ソウルの新型コロナ死者数は、ウィズコロナ施行以前より約4倍も増加していることがわかった(画像提供:wowkorea)
韓国では、今月1日からの「段階的日常回復(ウィズコロナ)」施行以降、ソウル地域の新型コロナウイルス感染症による死者が約4倍も急増していることがわかった。また感染者も約2倍増加している。 きょう(29日)ソウル市によると、10月24~30日に計32人(一日平均4.6人)であった週間新型コロナ死者数は、その後32人から48人、さらには76人と増加し、先週には120人(一日平均17.1人)に急増した。ウィズコロナ施行の直前と比較すると、3.7倍増加したことになる。 一方、ソウル市の一日平均の感染者数は、11月第1週(10月31日~11月6日)の848.3人から896.6人→1237.4人→1605.7人と3週連続で過去最多記録を更新してきた。 また、先週の重症患者数は一日平均222.4人で、2週間前(199.2人)より23.2人増加した。
Copyright(C) herald wowkorea.jp 96

「文在寅大統領の経済政策は間違っていた」ついに財閥系企業の"韓国脱出"が始まった

2021-11-29 17:33:39 | 日記
「文在寅大統領の経済政策は間違っていた」ついに財閥系企業の"韓国脱出"が始まった"総額4兆円"対米投資の本当の狙い

PRESIDENT Online

真壁 昭夫法政大学大学院 教授

「期待以上」成果強調の裏で…

5月に行われた米韓の首脳会談にて、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、サムスン電子をはじめとする財閥系の大手企業が、総額4兆円規模の対米直接投資を行うと表明した。

韓国に対して米国のバイデン政権は、北朝鮮と外交を通して関与していく考えなどを示した。文氏は今回の米韓首脳会談を「期待以上の成果をあげた」と評している。

経済の側面から考えた場合、韓国の財閥系大手企業が大規模な対米直接投資を表明した要因は冷静に考えたほうが良い。

一つの見方として、韓国大手企業による対米直接投資の表明は、韓国国内での事業継続の難しさが増していることの裏返しに映る部分がある。

足許の韓国では、労働組合(労組)と経営陣の対立が深刻化しているようだ。

労使対立は企業の事業運営の効率性を低下させる。

その状況が続けば、企業は事業運営に協力してくれる素直な労働者などを求めて海外に生産拠点などを移さざるを得なくなり、韓国の産業空洞化懸念は高まる可能性がある。

1兆8500億円を投資するサムスンの狙い

米韓首脳会談で韓国側が発表した対米直接投資の内容を見ると、サムスン電子の投資計画が最大だ。

同社は米国に170億ドル(約1兆8500億円)を投資し、半導体の新工場を建設するとみられる。

その狙いの一つは、最先端の半導体生産能力の向上に取り組む台湾積体電路製造(TSMC)を追いかけることだろう。

世界最大のファウンドリーであるTSMCは、最先端の回路線幅5ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体生産をいち早く確立した。

TSMCは次世代の回路線幅2ナノメートルの半導体生産ラインの確立に向けた取り組みも加速させているようだ。

それに加えて、TSMCはわが国の企業との協力によって半導体生産技術の向上を目指している。

世界の半導体産業の盟主の座は米インテルからTSMCにシフトし、世界経済への半導体供給者としてのTSMCの存在感は増しているといえる。

サムスン電子はTSMCとの競争力格差の拡大を食い止めるために、米国に工場を建設し、より多くの生産需要を取り込もうと考えているのだろう。

また、スマートフォンなどに用いられるICチップの設計、開発、生産の力を高めるためにもサムスン電子は米国事業の強化を重視しているとみられる。

バイデン政権の経済政策はチャンス

半導体に加えて、自動車関連の分野でも韓国企業は対米直接投資を発表した。

今後5年間で、現代自動車は74億ドルを投じEV生産能力の増強などに取り組む方針だ。

車載バッテリー分野ではLGグループがGMと、SKグループがフォードと合弁会社を設立してバッテリー生産を行う予定だ。

以上は、半導体、EV、車載バッテリーという世界経済にとって重要性が高まる先端分野で、韓国の財閥系大手企業が事業体制の強化を目指していることを示唆する。

他方で、政権が発足して以来、米国のバイデン大統領は、半導体や高容量バッテリー、医療資材、鉱山資源などに関して自国を中心とした供給網の整備を重視しているようだ。

そのために、バイデン政権が米国に直接投資を行う海外の企業に補助金を出す可能性もある。それは、韓国財閥系大手企業が対米直接投資を表明した要因の一つだろう。

「経済政策は間違っていた」与党からも批判

そのほかにも、韓国の財閥系大手企業が対米直接投資を表明した要因は考えられる。

その一つとして、韓国国内の事業環境がより厳しくなっていることは軽視できない。

左派の政治家として市民団体や労働組合などから支持されてきた文大統領は、過去の政権下で蓄積された経済的な格差などの解消(積弊清算)を重視した。

その具体的な取り組みに、最低賃金の引き上げや労働関連の法律改正などがある。

2018年に韓国では最低賃金が前年から16.4%引き上げられ、2019年も最低賃金は同10.9%上昇した。

また、法律の改正によって、解雇された人や失業者の労組加入も認められる。

文大統領の経済政策は韓国経済にマイナスの影響を与えている。

最低賃金の引き上げによって中小企業などの経営体力が低下し、雇用は減少した。

与党「共に民主党」の宋永吉(ソン・ヨンギル)代表は、「最低賃金引き上げによって経済底上げを目指した文氏の経済政策は間違っていた」と批判している。

サムスングループにもストライキの波が

労組を重視した法律の改正などは、労使の対立を激化させた要因と考えられる。

現代自動車をはじめとする自動車産業では、労組側から経営者への批判が強まり、ストライキも起きている。

これまで深刻な労働争議を回避してきたといわれるサムスングループでも、ここにきて労使の対立が深まっているようだ。

サムスンディスプレイでは賃上げをめぐって労使が対立し、はじめてのストライキ実施の可能性が高まっていると報じられている。

その状況に関して、ソウル在住の韓国経済の専門家は、「韓国の労使対立は1950年から60年代の日本の労働争議を思い起こさせる」と指摘していた。

その状況下、企業の経営者と労働組合が協力関係を目指すことは容易ではないだろう。

韓国の企業(組織)が一つにまとまり、より効率的な事業運営や、新しい、高付加価値の商品の創出を目指すことは難しくなっていると考えられる。

その影響を回避するための手段の一つとして、財閥系大手企業が海外での事業運営をより重視し始めた可能性がある。

足許の景気回復は一時的か

足許、韓国経済は主に外需に支えられて相応に堅調だ。

ワクチン接種や経済対策などによって米国や中国の経済が急速に回復する状況下、半導体や車載バッテリーなどの外需をサムスン電子などの財閥系大手企業が取り込んだ。

それが景気回復を支えている。

その一方で、韓国国内や東南アジア新興国などで新型コロナウイルスの感染が続いているため、非製造業の業況は不安定と考えられる。

韓国経済における製造業と非製造業の二極化は鮮明といえる。

当面、半導体の輸出などに支えられて、製造業を中心に韓国経済は回復基調を維持するだろう。

ただし、中長期的な展開は楽観できない。

やや長めの目線で考えると、韓国経済の停滞感は高まる可能性がある。

そう考える要因は複数ある。最低賃金の引き上げなどによって、韓国の雇用・所得環境は不安定化している。

不動産価格の高騰などによって家計の債務残高も増加した。

それに加えて、韓国では少子化問題も深刻化している。

経済が縮小均衡に向かう可能性が高まる中、労働争議は激化する恐れがある。

米への投資は「産業空洞化」の予兆

そうした展開が想定される中、サムスン電子などのように、自力で新しいモノを生み出すことのできる韓国企業は、海外進出を一段と重視する可能性がある。

その展開が現実のものとなれば、韓国国内から海外に雇用と所得の機会が流出し、経済全体での付加価値創出力は低下するだろう。

文大統領は米韓首脳会談を自画自賛している。

しかし、文政権下での労働争議の激化や中長期的な韓国国内経済の展開予想を加味すると、韓国の財閥系大手企業にとって5月の米韓首脳会談は、海外進出の足場を築く重要な機会となった側面があるように見える。

今後も韓国国内で労働争議が激化するなどすれば、海外進出を重視する企業は増えるだろう。

その展開が現実のものとなった場合、韓国は産業空洞化というかなり厳しい状況を迎える恐れがある。

5月の米韓首脳会談にて財閥系大手企業が対米直接投資を表明したのは、そうした変化の予兆に見える部分がある。