宮本武蔵は『五輪書』という兵法書を残しました。それは地之巻、水之巻、火之巻、風之巻、空之巻の五つに分かれています。この地水火風空とは一体なんなのでしょうか。この五輪は仏教の用語で、オリンピックのことではありません。専門書で調べると難しいのですが、宮沢賢治(1896-1933年)はやさしく説明してくれました。
五輪は地水火風空
むかしの印度の科学だな
空といふのは総括だとさ
いまの真空だらうかな
つまり真空そのものが
エネルギーともあらはれる
火といふ方はエネルギー
アレニウスの解釈だ
残り三つは古い原素の分類だらう
世界も人もこれだといふ
心といふのもこれだといふ
いまだつて変らないさな
雲もやつぱりさうかと云えば
それは元来一つの真空だけであり
所感となつては
気相は風 液相は水
固相は核の塵とする
そして運動エネルギーと
熱と電気は火に入れる
それからわたくしもそれだ
この楢の木を引き裂けるといつてゐる
村のこどももそれで
わたくしであり彼であり
雲であり岩であるのはたゞ因縁であるといふ
そこで畢竟世界はたゞ因縁であるだけといふ
雲の一つぶ一つぶの
質も形も進度も位置も時間も
みな因縁が自体であるとそう考へると
なんだか心がぼおとなる
(『春と修羅』二より、旧字体は改めました)
どうも五輪には五行と異なる印象があります。
(ムガク)