五輪(地水火風空)とは物質の構成元素とエネルギーおよび総括に対する名称で五大とも呼ばれていました。
実は、ものごとを五つのカテゴリへ分類する思考形態は古代のインドや中国に限ったものではないようです。
例えば北米のネイティブアメリカンであるアルゴンキン族やウィンネバゴ族は地・水・水中・低空・高空の五つ、またメノミニ族は陸地面の四足獣・湿地に住む四足獣・地鳥・水鳥・地中動物の五つのカテゴリで分類するようです。またスー族では地上動物・天空動物・至高空動物・水中動物・水底動物の五つのカテゴリで分類するようです。もちろんこれらのカテゴリの名前は部族(クラン)などを分類するもので動物の分類に限ったものではありません。カテゴリの名前は一種の記号として使用されています。
古代ギリシャのエンペドクレス(BC490-430年頃)は火・水・土・空気からなる四元素説を唱えましたし、またヒポクラテスは人体は血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁から構成されているとする四体液説を唱えました。分類する数というものは恣意的なものなので特にこだわらなくても良いようです。
ここに何故これらの民族はものごとを五つに分類したのかという疑問が生まれます。
人はあるものの測量を試みる時に単位を創り出します。例えば長さですが星と星の距離をあらわすには「光年」という光の速さで一年という単位を使用します。また原子と原子の距離をあらわすには「Å(オングストローム)」という1/(10×10)mという単位を使用します。ある大きさのものを測量する場合はその大きさのものと近いスケールの単位を使用すると便利です。
人と同じスケールのものだと古代から中東や西洋で使われていた「キュビット」という肘から中指の先までの長さの単位があります。「ヤード」はそれから派生した単位のようですね。古代中国では例えば指一本分の幅の「寸」や拇指と中指を広げた長さの「尺」などがあります。周王朝の時代には既に長さの単位は人体が基本だったようです。
さてそう考えると五つという数字は人体から出てきたようですね。基本は片手で数えられる数でしょうか。そのうち手足頭の「五体」とか感覚の「五感」などという共通する数に意識が向けられると、その数が特別な存在になるようです。(ちなみに感覚を五つに分類するのは古代中国も古代ギリシャのアリストテレスも同じだったようです。)
その片手で数えられる数字を選び取ったのはどういう訳でしょうか。そこにはその民族が関心を向けるものが存在していたのかもしれません。それはハイデガー(註1)のいう「ゾルゲ」が関係しているのでしょうか。
では五行とは何なのでしょうか。続きは次回にしようと思います。
(註1)マルティン・ハイデガー(1889-1976年):ドイツの哲学者であり、フッサールに師事しました。『存在と時間』の著作で有名です。
(ムガク)