への次郎が行く

カメラと地図を片手に気ままに出かけます。

寅さんのロケ地 見つけました(第44作)③―乙姫岩

2021年05月05日 | 寅さん

第44作『寅次郎の告白』では冒頭、清流が流れ、電車が鉄橋を走り抜けると、再び場面が変わります。レンズがやや引かれ、S字に流れる川が映し出されます。

 

川の中に岩がある場面

 ▼映像 (『男はつらいよ 寅次郎の告白』より)

この場面にも、場所を特定するうえで、いくつかのヒントがあります。

まず川の真ん中に、かなり大きな岩があるということです。岩には松が生えています。

つぎに川幅です。阿寺川のような支流より広いということ。ここから木曽川の本流と思われます。かといって、寅さんとポンシュウが小舟に乗った奥恵那峡ほど広くはないし、水量も多くはありません。そこから奥恵那峡より上流の木曽川ではないかと推測しました。

そこでグーグルマップを使って、奥恵那峡より上流の空撮を見ました。すると川の中に大きな岩がある場所が、一か所ありました。そこは岐阜県中津川市山口です。さっそく行って、撮った写真がこれです。

 

現在 (2021/4/30 撮影)

ロケ当時と大きく変わっているところがあります。向こうに見える大きな橋です。調べてみると、この橋はロケの数年後に完成した橋で、乙姫大橋といいます。川の中の岩は乙姫岩です。

撮影場所は、国道19号を中津川市街から北上すると、乙姫という交差点があって、そこから200mくらいもどった歩道です。

 

その歩道から見た光景です。木曽川に向かって、下り斜面になっています。ぽつぽつ家は建っていますが、斜面の多くは棚田になっていて、ちょうど田植えの準備中でした。

 

こうして、第44作『寅次郎の告白』冒頭の3場面のロケ現場は、解明されました。ところが

 


撮影場所は明らかになりましたが、何か気持ちがすっきりしません。じつはブログを書いていて、新たな疑問がわいてきたのです。

木曽川にある岩を「乙姫岩」といいます。その近くに架かっている橋は「乙姫大橋」。乙姫大橋に入る交差点を「乙姫」といいます。その交差点の北には、「浦島」という交差点があります。おとぎ話の名称が、いくつもついているのです。不思議に思って調べてみると、中津川地域には浦島太郎伝説があったのです。それによると、

もともと乙姫は、ここにある乙姫岩の竜宮に住んでいました。そこに、上流の寝覚の床から浦島が流されてきて、二人はいい仲になり一緒に暮らすようになったそうです。やがて浦島は寝覚の床に帰ることになり、乙姫は土産に玉手箱をわたしました。帰った浦島は、開けてはいけないと言われていた玉手箱を開けて、白煙とともに老人になったと。

 

ところで、電車が鉄橋を走り抜けた上松の寝覚の床、そこにも浦島伝説があるのです。それによると、

竜宮から帰った浦島は、故郷の様子があまりにも変わっていたため、故郷を離れて諸国をめぐる旅に出ました。やがて風景の美しい上松にやってきて、美しい竜宮のことを思い出してここで玉手箱を開け、一瞬にして老人になったと。つまり上松で、浦島が長い“眠り”から覚め、我に返ったということで、ここを「寝覚の床」というのだと。

 

山田洋次監督は、このことを知っていたのでしょうか?知っていて、寝覚の床と乙姫岩を関連づけてロケをしたのでしょうか?撮影場所は解明されましたが、への次郎を悩ませる新たな疑問がわいてきました。う~ん

 

 

 

 

 

 


寅さんのロケ地 見つけました(第44作)②―寝覚の床

2021年05月03日 | 寅さん

第44作『寅次郎の告白』では、映画が始まると寅さんの語りとともに、透き通った清流の映像が流れます。やがて場面は変わり、山の斜面が映し出され、電車が走り抜けます。

 

山の斜面を電車が走る場面

 ▼映像 (『男はつらいよ 寅次郎の告白』より)

この場面には、撮影場所を特定するうえで、いくつかのヒントがあります。

この路線は、第44作のロケ地、中津川を走っている中央本線と推測されます。中央本線は複線であったり、単線であったり、複線でも上りと下りで別のところを走っていたり、区間によって走り方が異なります。この映像を見ると、ここは明らかに複線です。

つぎに架線を支えている柱に特徴があります。コンクリート柱は右から2番目の奥の1本だけで、あとは鉄柱です。鉄柱は鉄橋部分によく使われます。そう思い、線路のあたりをよく見ると、やはり鉄橋でした。それも長そうです。

さらに鉄柱とコンクリート柱の上を見ると、細い棒が真上に向かって立っていて、電線が架けられています。これも、ここの特徴です。

このような特徴を頭に入れて、youtubeに投稿された中央本線の前面展望の映像を繰り返し見た結果、ありました。このような特徴をもつ鉄橋が。それは、中津川から45㎞離れた上松(あげまつ)駅近くの寝覚の床鉄橋です。

つぎにネットで、寝覚の床の画像を検索したら、カメラの角度は異なりますが、ヒントになる写真がありました。

さっそく出かけて行って、写真を撮りました。それが、これです。

 

▼現在 (2021/4/30 撮影)

もう若葉が芽吹いていて、見通しが悪くなっていました。またロケから30年も経っていますから、周りの木々の様子も少し違っていました。左奥の山の形は映画と一致しますが、もう少し左によって撮った方が、よかったのかもしれません。

撮影場所は、寝覚の床の近くに美術公園があって、そこにある日時計のモニュメントの近くです。

 

寝覚の床を上から撮った写真です。

写真の右上に、鉄橋に立っているコンクリート柱があります。写真の左下に、赤葉のノムラモミジがあります。映ってはいませんが、ノムラモミジの後ろにモニュメントがあります。だからロケでは、写真左下から右上を撮影したものと思われます。

また、山の斜面を撮影したと思っていましたが、誤りでした。写真のように崖に沿って鉄橋があります。その右側は、じつは市街地になっていて、山はさらにその右側にありました。鉄道が走っている崖と、背後の山は別のところにあったのです。撮った写真を見ると、確かに崖と山の緑の色が異なっており、別々のところだと分かります。

                                   つづく

 

 

 

 

 

 

 


寅さんのロケ地 見つけました(第44作)①―阿寺川

2021年05月01日 | 寅さん

4月初旬、第44作『寅次郎の告白』のロケ地、中津川を回ってきました。

そのとき、冒頭の清流が流れる場面、山の斜面を電車が走る場面、川の真ん中に岩がある場面、この3場面はどこで撮影されたのか分かりませんでした。そこで、場所がはっきりしている落合川駅周辺から回りました。「寅さんのロケ地を行く(中津川)」で書いた通りです。

その後、この3場面について、撮影場所が見つかりました。

 

清流の場面

 ▼映像 (『男はつらいよ 寅次郎の告白』より)

映画が始まると、寅さんの語りが流れるなか、川の流れを追うようにカメラが上流から下流に振られます。上の特徴のある岩と清流の写真は、そのなかの1コマです。

第44作のオープニングのロケは、中津川の木曽川流域で行われました。しかしこの清流は、川幅からして明らかに木曽川ではありません。木曽川の支流ではないかと推測しました。

つぎは川の色です。じつはこの色に近い木曽川の支流に一度、行ったことがあります。長野県大桑村を流れている阿寺川です。この川は渓谷をなしており、奇岩と「死ぬまでに一度は見たい」といわれている透き通るような清流で有名です。

そこでまずネットで、阿寺川の岩の画像を片っぱしから検索し、似た形をしている岩を見つけ出し、おおよその見当をつけて現地に向かいました。

場所は、阿寺川の河口から、3.5㎞入ったところ。島木赤彦の歌碑が建っている駐車場があって、そこに架かっている吊り橋のところです。その川岸で撮った写真が、これです。

 

 ▼現在 (2021/4/27 撮影)

 

ロケから30年経っていますが、独特の形の岩と清流は今も変わっていませんでした。では、回りがどうなっているかというと、こんな感じです。

 

そういえば、第22作『噂の寅次郎』は、大桑村の旅館庭田屋でロケが行われました。博の父親と寅さんが木曽路を旅し、庭田屋で寅さんが今昔物語を聞かされるという場面です。

もしかしたら、第22作のロケの際に阿寺川も撮っていて、それを第44作で使ったのかもしれません。あるいは第44作のロケのときに、土地勘がある大桑村に足を延ばし、阿寺渓谷の撮影に行ったのかもしれません。

                                  つづく