第44作『寅次郎の告白』では冒頭、清流が流れ、電車が鉄橋を走り抜けると、再び場面が変わります。レンズがやや引かれ、S字に流れる川が映し出されます。
●川の中に岩がある場面
▼映像 (『男はつらいよ 寅次郎の告白』より)
この場面にも、場所を特定するうえで、いくつかのヒントがあります。
まず川の真ん中に、かなり大きな岩があるということです。岩には松が生えています。
つぎに川幅です。阿寺川のような支流より広いということ。ここから木曽川の本流と思われます。かといって、寅さんとポンシュウが小舟に乗った奥恵那峡ほど広くはないし、水量も多くはありません。そこから奥恵那峡より上流の木曽川ではないかと推測しました。
そこでグーグルマップを使って、奥恵那峡より上流の空撮を見ました。すると川の中に大きな岩がある場所が、一か所ありました。そこは岐阜県中津川市山口です。さっそく行って、撮った写真がこれです。
▼現在 (2021/4/30 撮影)
ロケ当時と大きく変わっているところがあります。向こうに見える大きな橋です。調べてみると、この橋はロケの数年後に完成した橋で、乙姫大橋といいます。川の中の岩は乙姫岩です。
撮影場所は、国道19号を中津川市街から北上すると、乙姫という交差点があって、そこから200mくらいもどった歩道です。
その歩道から見た光景です。木曽川に向かって、下り斜面になっています。ぽつぽつ家は建っていますが、斜面の多くは棚田になっていて、ちょうど田植えの準備中でした。
こうして、第44作『寅次郎の告白』冒頭の3場面のロケ現場は、解明されました。ところが…
撮影場所は明らかになりましたが、何か気持ちがすっきりしません。じつはブログを書いていて、新たな疑問がわいてきたのです。
木曽川にある岩を「乙姫岩」といいます。その近くに架かっている橋は「乙姫大橋」。乙姫大橋に入る交差点を「乙姫」といいます。その交差点の北には、「浦島」という交差点があります。おとぎ話の名称が、いくつもついているのです。不思議に思って調べてみると、中津川地域には浦島太郎伝説があったのです。それによると、
もともと乙姫は、ここにある乙姫岩の竜宮に住んでいました。そこに、上流の寝覚の床から浦島が流されてきて、二人はいい仲になり一緒に暮らすようになったそうです。やがて浦島は寝覚の床に帰ることになり、乙姫は土産に玉手箱をわたしました。帰った浦島は、開けてはいけないと言われていた玉手箱を開けて、白煙とともに老人になったと。
ところで、電車が鉄橋を走り抜けた上松の寝覚の床、そこにも浦島伝説があるのです。それによると、
竜宮から帰った浦島は、故郷の様子があまりにも変わっていたため、故郷を離れて諸国をめぐる旅に出ました。やがて風景の美しい上松にやってきて、美しい竜宮のことを思い出してここで玉手箱を開け、一瞬にして老人になったと。つまり上松で、浦島が長い“眠り”から覚め、我に返ったということで、ここを「寝覚の床」というのだと。
山田洋次監督は、このことを知っていたのでしょうか?知っていて、寝覚の床と乙姫岩を関連づけてロケをしたのでしょうか?撮影場所は解明されましたが、への次郎を悩ませる新たな疑問がわいてきました。う~ん…