第44作『寅次郎の告白』では、映画が始まると寅さんの語りとともに、透き通った清流の映像が流れます。やがて場面は変わり、山の斜面が映し出され、電車が走り抜けます。
●山の斜面を電車が走る場面
▼映像 (『男はつらいよ 寅次郎の告白』より)
この場面には、撮影場所を特定するうえで、いくつかのヒントがあります。
この路線は、第44作のロケ地、中津川を走っている中央本線と推測されます。中央本線は複線であったり、単線であったり、複線でも上りと下りで別のところを走っていたり、区間によって走り方が異なります。この映像を見ると、ここは明らかに複線です。
つぎに架線を支えている柱に特徴があります。コンクリート柱は右から2番目の奥の1本だけで、あとは鉄柱です。鉄柱は鉄橋部分によく使われます。そう思い、線路のあたりをよく見ると、やはり鉄橋でした。それも長そうです。
さらに鉄柱とコンクリート柱の上を見ると、細い棒が真上に向かって立っていて、電線が架けられています。これも、ここの特徴です。
このような特徴を頭に入れて、youtubeに投稿された中央本線の前面展望の映像を繰り返し見た結果、ありました。このような特徴をもつ鉄橋が。それは、中津川から45㎞離れた上松(あげまつ)駅近くの寝覚の床の鉄橋です。
つぎにネットで、寝覚の床の画像を検索したら、カメラの角度は異なりますが、ヒントになる写真がありました。
さっそく出かけて行って、写真を撮りました。それが、これです。
▼現在 (2021/4/30 撮影)
もう若葉が芽吹いていて、見通しが悪くなっていました。またロケから30年も経っていますから、周りの木々の様子も少し違っていました。左奥の山の形は映画と一致しますが、もう少し左によって撮った方が、よかったのかもしれません。
撮影場所は、寝覚の床の近くに美術公園があって、そこにある日時計のモニュメントの近くです。
寝覚の床を上から撮った写真です。
写真の右上に、鉄橋に立っているコンクリート柱があります。写真の左下に、赤葉のノムラモミジがあります。映ってはいませんが、ノムラモミジの後ろにモニュメントがあります。だからロケでは、写真左下から右上を撮影したものと思われます。
また、山の斜面を撮影したと思っていましたが、誤りでした。写真のように崖に沿って鉄橋があります。その右側は、じつは市街地になっていて、山はさらにその右側にありました。鉄道が走っている崖と、背後の山は別のところにあったのです。撮った写真を見ると、確かに崖と山の緑の色が異なっており、別々のところだと分かります。
つづく