スウェーデンにいたとき、夏休みに家族で北欧旅行をしました。その時訪れたノルウェー人の印象は、素朴で暖かいスウェーデン人よりも、もっと素朴で暖かいということです。道で見ず知らずの外人観光客に、向こうから話しかけてきて案内してくれたりすることがよくありました。国によっては、このような場合、何か下心があるのではないかなどと身構えなければならないのですが、ノルウェーでは、そんな心配は一切なしでした。
そのノルウェーで恐ろしい事件が起きてしまいました。7月23日、オスロの街中で爆弾で何人もの人が亡くなり、さらに郊外の美しい島で、10代、20代の若い人たちが何十人も、射殺されてしまったのです。犯人は極右、ないしはキリスト教原理主義者だと、伝えられています。
北欧は、スウェーデンもそうですが、ヨーロッパの東北のようなところです。けしてヨーロッパの中心ではありませんし、南欧の人々のような開放的な親しみやすさもないのですが、冬の厳しい寒さに耐えながら、静かに力強く生きていく姿は、東北の方たちとイメージが重なります。私にとっては、今回の事件は、東北の大震災に続いて、ショックでした。しかも、相手は自然災害でなく、ひとりの人間の犯行です。
北欧諸国は、ヨーロッパの中では小国ですが、外交でしばしばその存在感を示します。他国の紛争の仲介役を買って出ることもしばしばあります。亡命や移民も積極的に受け入れてきました。そのために紛争の当事国から逆恨みをされたり、自国民の一部に批判者が出ることもあります。一方で、もともと平和で治安もよい国なので、テロに対する備えが薄いところが見られます。
スウェーデンでも、1986年、パルメ首相が、夫人と二人で映画を見た帰りに、路上で暗殺されました。プライベートの時間ということで、護衛はいませんでした。2003年には、アンナ・リンド外相が、デパートで買い物中に暗殺されています。
第2次世界大戦中、スウェーデンは中立国と言いながら、ノルウェーに攻撃に向かうナチスドイツ軍を自国領を黙って通過させました。ノルウェーは、最後までナチスドイツと戦いました。その様子は、オスロのレジスタンス博物館に行くと、窺い知ることができます。ノーベル賞も、平和賞だけはスウェーデンでなくノルウェーで選考が行われます。ノルウェーの政治姿勢は、昨年のノーベル平和賞が、獄中の中国の人権、民主化活動家、劉暁波氏に与えられたことからも分かります。
今回も、ノルウェー首相が事件の直後、我々は爆弾や銃を前に決して屈しない、と語っていました。
夏休みに20年ぶりに北欧を旅行します。オスロは、もともとツアーの予定に入っておらず訪れませんが、心の中で犠牲者に献花する気持ちで行ってきます。