クワガタ~スズメバチ等の覚書

   Photo & Text by こよみ

アスタコイデス済州島・5-ルーツを探る

2024-08-17 20:12:16 | アスタコイデス(済州島)

はじめに

*この記事で見る済州島産の生体時の体色はすべて次画像のような明るい褐色で

 標本画像は生体時の体色を反映していません。

*台湾産は野外個体、済州島産は飼育個体です。

↓ 済州島産:明るい褐色61㎜

↓ 済州島産:26㎜・29㎜・37㎜・49㎜・54㎜・58㎜・61㎜

↓ 済州島産:サクエチを吸って変色したが、生体時は右端のような体色

 

済州島のアスタコイデスはどこから来たのか?

2013. Stag Beetles of China Ⅱ中華鍬甲. 及び 2021.BE・KUWA No.79.によると

アスタコイデスノコギリクワガタ Prosopocoilus astacoides  blanchardiは

モンゴル,中国東部,韓国(済州島),台湾に分布していますが

韓国での分布は、大陸と繋がっている本土では確認されず

最南端に位置する島(済州島)にのみポツンと分布します。

済州島は、180万年前に始まった火山活動により現在の島に形成されました。

その島に分布するアスタコイデスノコギリクワガタは

「在来種ではない」という私的な考えのもと

移入のルーツを推察してみました(以下アスタコイデス)。

まず、飛翔による移入ですが

他の分布地から済州島に飛んで行くにはあまりにも遠く、それは考えにくいです。

人由来については、木材輸入(歴史や実際はわかりませんでした)や

実個体の持ちこみなども含め、可能性は否定できませんが

それより強いと思えたのは、やはり「海流」です。

↓ 済州島の位置(オレンジ〇)と、近海の大まかな海流図

済州島あたりは黒潮由来の対馬暖流が流れており

黒潮により「マメクワガタやルイスツノヒョウタンクワガタ」が分布を広げるように

済州島のアスタコイデスも海流によって移入したと思えます。

では「どこからやってきたのか?」

直感的な想像では、南方に位置する台湾からでしたが

調べていくと、中国から流れ着いたゴミが散らばる済州の海岸-Chosun online 朝鮮日報

のように、済州島の海岸には中国からの漂着物が多いことがわかりました。

また、手持ちのクワガタ関連書籍に図示された範囲で見る限りでは

済州島産アスタコイデス(オス)の大アゴの一番大きな内歯の出現位置は

中国東部に分布するアスタコイデスと似ており

台湾の大型個体で見られるような出現位置は今のところ確認できません。

よって済州島に分布するアスタコイデスは

「中国東部から海流により移入したのではないか」と思われます。

例えば、洪水によりホスト木が海に運ばれ、漂着するといった感じです。

ただし、中国の実個体は見たことがなく、これは個人の勝手な考察とご理解ください。

↓ 済州島産:61㎜・61㎜・58㎜ 一番大きな内歯の位置は基部寄り

↓ 台湾産60・59㎜、一番大きな内歯は大アゴ基部にない

↓ 左2個体済州島産:右2個体台湾産 

↓ 済州島産

↓ 済州島産:30㎜・23㎜ 

アスタコイデスノコギリの仲間は

「世界のクワガタムシ大図鑑」(1994)や「世界のクワガタムシ大図鑑」(2010)で

独立種とされていた種が亜種降格したり、亜種名の復活や新亜種が追加されるなど

グループが再編されましたが、暫定的で、終結したわけではなさそうです。

↓ 台湾産(右)のほうが頭・胸部の光沢が弱く見える

↓ 台湾産・済州島産 

↓ 済州島産・台湾産

 

ブリード

繁殖は、メスが餌を食べることから始まります、蔵卵です。

たくさん餌を食べ、容器内を徘徊するようになってから産卵セットに投入します。

セットから9日目には底部で卵が確認できました。

逆算すると、母虫は羽化から4ヶ月が過ぎたくらいで産卵をはじめたようです。

↓ セットから40日以上経過(7.21)

↓ 底部マットから卵(左は腐敗した)

↓ マットより、材からのほうが多く出てきた

割り出し結果は、マット=卵2ケ・初齢幼虫4頭

材=卵2ケ・初2齢幼虫16頭で、合計24頭出てきました。

↓ 450㎜ほどのpカップでマット飼育(MDマット)

 

最後に

「済州島のアスタコイデスはどこから来たのか?」一応の考察結果は出ましたが

もう少し踏み込んでみたい部分があり、今年も幼虫を採りました。

それでも私の手元ではいずれ絶えるので

昨年(2023)は幼虫を、今年(2024)は新成虫のいくつかを手放しました。

本種を取り巻く現在の現地事情からすると「血の入れ替え」などということは到底困難で

事実上、どれと組み合わせてもインラインの域を超えることはありません。

参考URL:

済州島 - Wikipedia

中国から流れ着いたゴミが散らばる済州の海岸-Chosun online 朝鮮日報

参考文献:

水沼哲郎・永井信二,1994.世界のクワガタムシ大図鑑・6.むし社.

2004.BE・KUWA No.10.むし社.

李恵永著,2004.湾鍬形蟲(自然観察図鑑4).新親文化事業有限公司,.

藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑・6.むし社.

2013.BE・KUWA No.46.むし社.

Huang Hao & Chen Chang Chin, 2013. Stag Beetles of China Ⅱ中華鍬甲.

 Formosa Ecological Company.

2021.BE KUWA No.79.むし社.


アスタコイデス済州島・4-「2齢で羽化?」と「済州島の顔」

2024-05-24 23:18:11 | アスタコイデス(済州島)

この記事は二つのタイトルから成り、画像主体で構成しています。

 

2齢で羽化?

済州島のアスタコイデスがすべて羽化を終えたのですが

プリンカップ側面から経過観察していた限りでは

2齢で羽化したのではないかと思われるオスが2頭出ました。

もしかしたら気づかないうちに終齢へと加齢していたのかもしれませんので

念のため「?」は付けておきます。

↓ 全てのオスが羽化 撮影:2024年5月8日

↓ 2024年3月2日 2齢と思っていた幼虫が前蛹に・・・

↓ 蛹化二日後(3月9日)

↓ 2齢で羽化したと思われる2個体

↓ 1頭は、羽化後3日で死亡

↓ メスは30㎜

↓ 約29㎜と26㎜

↓ 体長29㎜

↓ 最小26㎜と最大61㎜

↓ 両サイド61㎜台

 

済州島の顔

はじめに

大アゴの「第一内歯」とは、大アゴ基部に一番近い内歯のことを言い、大きさは関係ありません。

下図でいうと黒点で記した小さな内歯が「第一内歯」にあたります。

したがって赤点部の大きな内歯は「第二内歯」になり

ここではそれを「一番大きな内歯」と表現します(下画像は台湾産野外個体)

↓ 第一内歯は黒点部、赤点部は第二内歯(一番大きな内歯)

↑ 台湾産野外個体

ここで「済州島の顔」とするサンプルは

十分な範囲でランダムな交配が行われなかった飼育個体です。

飼育個体は、地域差より差が出ることがあります。

この辺りの事情を踏まえてご覧ください。

また、台湾産野外個体との比較はしましたが、気の利いた細かな説明文はありません。

↓ 済州島産飼育個体61㎜の顔

済州島産は、61㎜クラスになっても一番大きな内歯の位置が大アゴ基部寄りで

頭部にある一対の突起の角度がちょっと違うのかと感じます。

↓ 左:台湾産(野外個体)60㎜ 右:済州島産61㎜

↓ 済州島産:26・29・37・49・54・58・61㎜(26・29はおそらく2齢羽化)

↓ 両端が台湾産(野外個体)59㎜・60㎜:一番大きな内歯の位置がちがう

↓ 左:済州島産61㎜ 右:台湾産(野外個体)60㎜

↓ 済州島産61㎜クラス

↓ 済州島産メス30㎜・23㎜

↓ 済州島産31㎜側面

以上「2齢で羽化?」と「済州島の顔」でした。


アスタコイデス済州島・3-メスの羽化

2024-02-25 17:56:02 | アスタコイデス(済州島)

手元に残した済州島のアスタコイデスノコギリのオス1頭と

全てのメスが羽化しました(以下、アスタコイデス)。

*「カテゴリー」から入ると飼育過程等に繋がります。

 

メスの羽化

早い個体は卵から4〜5ヶ月、遅い個体はそれより2ヶ月ほどかかりました。

幼虫の飼育方法は、500ccほどのプリンカップに「ヒラタ・ノコ1番」を硬く詰め

管理温度15〜26度の範囲で、餌交換はなしです。

↓ もっとも早く羽化したメス(撮影:2023年10月14日)

↓ 500ccプリンカップで個別飼育〜2024年2月25日全掘出し

↓ すべて自然蛹室羽化

↓ メスは全部で15頭(?)でした(羽化:2023年10月14日〜2024年2月中旬)

↓ すべて休眠中

↓ もっとも小さかった個体

メスとして管理していたグループで最後に羽化した個体は

蛹化時に頭部がうまく脱げなかったようで

幼虫時の頭が残ったまま羽化していました。

↓ 一見メスのように見えるが、前脚脛節が細すぎないか?

↓ 摂食不可能:こういうのは飼育の世界でも自然に淘汰されてしまう

↓ 頭部は癒着しており剥がせない

追記:2024年2月27日 おそらくオスとして生まれた

 

オスの羽化

オスは1頭のみ羽化しました。

残りの15頭(生存していたら)は、現在幼虫〜蛹の状態です。

おそらくすべてのオスが羽化するのは4〜5月あたりになりそうです。

↓ 撮影:2024年2月18日(羽化:2上旬)

↓ 早い羽化にしてはまあまあの52㎜前後

↓ 頭部の一対の突起は親譲りでやや上向き

↓ オスは個別飼育と、まとめ飼い

メスの休眠が終わるころには残りのオスも羽化していると思います。

生体・標本共に実物を見る機会がほぼない地域のアスタコイデス。

いくつかを残し、初夏には繁殖を開始します。

 


アスタコイデス済州島・2-幼虫の数

2023-07-02 19:15:16 | アスタコイデス(済州島)

アスタコイデスノコギリ(韓国済州島産)の幼虫を確認しました。

カテゴリーから入ると飼育過程等に繋がります。

↓ 前記事 :済州島個体群

 

アスタコイデスノコギリ・済州島個体群 - クワガタ~スズメバチ等の覚書き

はじめにここでいうアスタコイデスとは台湾・韓国済州島・中国等に分布するProsopocoilusastacoidesblanchardiとして整理されている個体群を指します。所謂「フタテンアカ」...

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母虫2頭のうち、今日は1頭分1セットだけ掘り出してみました。

親虫の羽化から産卵に至るまでの時系列は以下の通りです。

羽化:2022年11月〜休眠〜(1オス2メス)

活動開始(後食):2023年4月上旬(休眠期間約5ヶ月)

交尾:2023年5月19日〜産卵セット:5月28日

産卵確認:6月4日(容器底部に卵)

 

↓ 卵確認から約1か月経過(母虫は次セットに投入中)

↓ 底部に幼虫 マットは「ヒラタ・ノコ1番」

 

トレイに移した産卵セット、マットをほぐすとポロポロと幼虫が出てきます。

材も齧ってはいますが、想像していたほど派手な痕跡ではありません。

この母虫はマットに多く産んでいるようです。

マットから出てきた幼虫の数は24頭でした。

掘出した幼虫は初齢初期が多かったのでマットに戻し、材も崩さずそのまま埋めました。

 

↓ 1セットでマットから出てきたのは初齢幼虫24頭

↓ 材も齧っているのでこの中にも幼虫がいると思われる

↓ 材表面に初齢幼虫

↓ 体内内容物色からすると、マットから材に潜り込む途中

↓ もう片方の母虫も健在

 

今日はひとまず1セットだけ掘り出しましたが、とてもよく産んでいました◎

滑り出しは上々です!

母虫は2頭いるので貴重な幼虫がもう少し採れると思います。

 

↓ 種オスは半月前に死亡 サクエチ漬で生体時より濃い色になった 

 


アスタコイデスノコギリ・済州島個体群

2022-12-04 01:03:14 | アスタコイデス(済州島)

はじめに

ここでいうアスタコイデスとは台湾・韓国済州島・中国等に分布する

Prosopocoilus astacoides  blanchardi として整理されている個体群を指します。

所謂「フタテンアカ」というやつです。

↓ 済州島産飼育個体50㎜

済州島のアスタコイデスについては

日本国内において飼育個体が僅かに流通しているものの

現地の情報等はほとんどありません。

また、BE・KUWA No.10には済州島産の図示はありますが、特に解説されているわけでもなく

今一つつかみどころのない個体群というイメージがありました。

今回は、アスタコイデス済州島個体群について

韓国の友人(熱心な愛好家)に問い合わせ、教えて頂いたことを大筋でまとめてみました。

 

分布:韓国済州島(火山島)分布の理由は不明

体長:韓国国内においてもよくわかっていないが、友人が確認した最大個体は64㎜

個体数:以前は韓国の絶滅危惧種Ⅰに指定されていたが

 済州島都心部の明かりにもたびたび飛来するため

 指定当時の認識ほど少なくはないとして、現在は絶滅危惧種Ⅱに降格されている

その他:以前は飼育禁止であったが、現在は許可が得られればオスに限って飼育が可能

 済州島個体群の体色は、台湾個体群と比べ明るい黄褐色の傾向にあり

 頭部前方にある一対の突起は、台湾個体群より上向きになるとされている

↓ 済州島は火山の噴火によって誕生した島  出典:Google

                        

私にとってフタテンアカ(アスタコイデス)といえば台湾のイメージが強く

過去2回の台湾採集では、毎夜毎夜街灯にたくさんの個体が飛んできていました。

↓ 胸部側縁に一対の点がある赤いクワガタ「フタテンアカ」台湾桃園県復興郷産

↓ 頭部にある一対の突起(済州島産)

下に、済州島と台湾の blanchardiオスの気になる部分を載せますが

飼育個体(生体)と野外個体(標本)の比較であること

体長が異なるということをご理解ください。

*比較に用いたオスは、済州島産飼育個体50㎜と台湾桃園県復興郷産野外個体59㎜・60㎜

↓ 済州島産50㎜・台湾産59㎜

↓ 済州島産・台湾産

↓ 済州島産50㎜・台湾産60㎜

↓ 頭部周辺 済州島産・台湾産59㎜ 

↓ 頭部前方の突起 済州島産・台湾産

↓ 済州島産

↓ 休眠後に繁殖開始

blanchardiの体色は、部分的・全体的含め、暗いものから明るいものまで存在するようですが

韓国の友人の話によると、画像(飼育個体)のような鮮やかな色彩の個体は野外でも珍しくなく

頭部の突起形状も含め、済州島には済州島の顔があるそうです。

最後になりましたが

済州島のアスタコイデスについてご教授頂いた韓国の友人にお礼申し上げます。

ありがとうございました。