パプアキンイロクワガタ
Lamprima adolphinae
分布:ニューギニア 標高900~1700m
体長:オス23.7~50.0mm .メス18.9~26.0mm
はじめに
パプアキンイロクワガタ(以下パプキン)は、オスが前脚脛節先端にある扇形の付属物で
植物の茎などを切断することが知られています。
↓ メスには扇形付属物がない
また、羽化の時にはそれを使って大あごを伸ばし整え、交尾時にも付属物を使うそうです。
(鈴木知之著「熱帯雨林のクワガタムシ(2000.9)」)
この興味深い生態を知った時、ぜひ一度飼育下で観察をしてみたいと思っていました。
実際にはそういった観察は既に行われており
飼育下でも野外同様の行動が認められることは知られていますので
今回の観察が決して新しい試みということではありません。
4月のはじめ、ある昆虫店の棚でパプキンを見つけ
思いついたかのように2オス1メスを購入し、遅ればせながらも観察を始めました。
尚、観察の目的は切断の方法ではなく、その様子が見たかったという単純な思いからです。
*切断の方法や生息地の環境・生態等については
鈴木知之著「熱帯雨林のクワガタムシ」に詳しく書かれています。
観察
観察は、草本を植えた容器の中にオス2頭を放ちその行動をみました。
メスは、小さなプリンカップに入れフタをして同容器内に置きました。
観察期間:2017年4月9日~
対象個体:オス2頭・メス1頭(2016年11月羽化)全て飼育個体・後食あり・未交尾
容 器:プラケース高さ16㎝ 横35cm 奥行23㎝
稙 草(画像①~⑪参照):
庭にあった草本で、容器に納まるサイズ9種(10本)
側面に針で穴をあけた昆虫ゼリー1個(未開封)
↓①観賞用サクランボ(本当のサクランボではない)
↓②不明樹
↓③タンポポ
↓④雑草類(ペンペン草?)
↓⑤葵(あおい)
↓⑥雑草類
↓⑦ホームセンターでよく見かける品種(白)
↓⑧ホームセンターでよく見かける品種(同上パープル系)
↓⑨菊
↓⑩不明種
↓⑪側面針穴あり未開封ゼリー(匂い放散)
↓ 9種計10本植樹の全景
温 度 :室内常温
観察時間:朝夕10~30分程度・時間があれば日中も実施
結果
稙草切断は、観察開始(夕刻)の翌日から見ることができました。
観察では、室温が20度を切るような時は
日中でも茎に掴まったり、その根元等でほとんど動きません。
しかしながら、夜間でも室温が20度を超え、明るい場合は(室内灯)不活発ながらも活動し
植えた草本の茎や葉を大あごと扇形付属部で切り落とす様子が観察できました。
↓ 大あごで挟んで扇形付属物にて⑨菊の葉を切断中
↓ ⑨菊
↑↓ 一時的にメスも放つ
↓ ①観賞用さくらんぼ葉
↓ 端面から滲む汁を吸汁⑨菊
室温の高い日は特に活発になり容器内は葉や茎が散乱するので
そのたびに”あとかたずけ”をしています。
↑↓ 葉っぱを大あごでちぎる①観賞用さくらんぼ葉
↓ ⑨菊
↓ ⑦ホームセンタで見かける品種
↓ ①観賞用さくらんぼ葉
↓ 切り口が乾燥したらまた切断①観賞用さくらんぼ葉
↓ 4月15日 切断された草本の一部
↓ 切り口端面はきれい⑨菊
茎等の切断時間は、~数秒でもたもたしているとピントを合わせている間に切断されてしまいます。
また、切断した端面から滲み出す汁を吸汁する姿もよく観察できます。
樹種の好み
1週間の観察では樹種の好みまではわかりませんが
ある程度の太さがある茎は登り、切断する。
細すぎて登れない茎や地表面にある葉も、切断する。
粗っぽい言い方をすれば手当たり次第です。
↑↓ 4月16日 切断された草本の一部
↓ 大あごに付く白っぽい異物は、スライスした⑩不明種の茎
恐らく気に入った味(?)が見つかればそれに執着するものと推察はするのですが・・・
⑪の側面針穴有りゼリーに関しては、扇形付属物の切れ味テストが出来るのではないかと思い
投入したのですが4月17日現在、変化はありません。
また吸汁中、口元や大アゴ、大アゴ密生毛等を
扇形付属物で清掃しているのではないか思われる様子も度々観察することが出来ました。
紫外線照射
パプキンの綺麗な色は昼行性が強いことを意味します。
太陽光は紫外線を降り注いでいます。
紫外線領域でパプキンはどう見えるのか?
紫外線照射機器:MANASLUーLIGHT(LONG WAVE 3650Å)で
紫外線を照射してみました。
↓ 照射前
↓ 照射時
結果は画像の通り機器による紫外線照射ではパプキンは黒く見え、非常に地味なものでした。
しかしながら、自然下では綺麗な構造色で情報発信し、仲間が集まりますので
紫外線が関係していることは間違いありません。
パプキンからの警鐘
パプアキンイロクワガタをはじめとするラトレイユ・アウラタ・ミカルド・バリアンス
インスラリス・アエネアなどキンイロクワガタ属のオスは前足に扇形の付属物を持っており
大方似たような生態の持ち主と思われます。
西山保典著「世界のクワガタG」p-9には
③ラトレイユキンイロクワガタが止まる茎に切断された部分が映し出されています。
パプキンは、その棲息環境や生態等からすると
奄美~沖縄方面などの亜熱帯をはじめとする
日本の温暖な地域では生存できる可能性があります。
↓ キャベツも刻む
こういった習性を持つ種が意図的、非意図的にかかわらず人由来で野外に出てしまい
農作物や植え込みなどの茎を切断してしまうような事例が仮に1件でも報告されれば
規制をすり抜けてきたパプキンの今後の行方を大きく変えることになりかねます。
以上
「パプアキンイロクワガタからの警鐘」でした。
参考文献:
西山保典,2000.世界のクワガタG.木曜社.
鈴木知之,2000.熱帯雨林のクワガタムシ.むし社.
藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑6.むし社.