クワガタ~スズメバチ等の覚書

   Photo & Text by こよみ

PC版テンプレート画像は
朽木屑を運ぶオレゴンルリクワガタ♂

ゲンシミヤマ・4-産卵

2021-06-02 23:35:49 | ゲンシミヤマ

デンティクルスゲンシミヤマクワガタが産卵しました(以下ゲンシミヤマ)

2021年1月(メス)と2月(オス)に羽化した新成虫が

5月中ころからマットより這い出し

徘徊するようになったので産卵セットを組んでいました。

そして、6月1日にオスの死亡を確認したため

本日(6月2日)、掘り出しを行いました。

 

↓ オスは赤みのある個体

↓ メスは黒い個体

↓ 2021年5月15日 活動開始

 

↓ オスの交尾欲は強い

 

セットを組むと成虫はマットに潜り

底部付近には坑道のようなものができていました。

また、坑道には成虫の姿もたまに見受けられました。

 

↓ 昆虫ゼリーを舐めたような形跡はある

 

6月1日、容器底部側壁で2日ほど全く動いていない個体が気になり

マットを掘ってみると出てきたのは息絶えたオスでした。

活動開始から2週間ほどのことでした。

 

↓ オスは6月1日に死亡確認

 

掘り出し

トレイにマットを移し用心深くほぐしていくと

底付近のやや硬詰めした部分から黄色みがかった卵が出てきました。

「お~!産んどる!」

オスが早く死んでしまったので半分あきらめかけていたのですが

思いのほかすんなりと産んでくれました。

 

↓ 母虫と卵

↓ 黄色いので成長していると思われる

↓ 白いので産卵後あまり時間経過していない

 

今日の掘り出しでは卵が5個出てきました。

欲張ってもう一度数えましたが5個でした。

継続して産んでくれることを祈りながら

産卵セットに母虫を再び投入しました。

 

産卵までのまとめ

管理温度:幼虫期21度前後・産卵セット時は22~24度くらい

幼虫期間:15か月前後

蛹期間:オス35日・メス31日

マット:黒くなるまで発酵したマット約80%:黒土約20%

    水分はやや多め(軽く握って団子が潰れない程度、全ステージ共通)    

休眠期間:オス約3か月・メス約4か月(約4か月半で産卵)

寿 命:オスは羽化から3か月半・メスは存命のため不明 

 

↓ 腹部は収まらないまま

 

↓ 5個の卵をプリンカップで保管

 

飼育当初は、ゲンシミヤマの飼育は低温で

羽化から活動するまでにもっと時間がかかると思っていましたが

実際はそこまでたいそうな虫ではなく

羽化まで22度前後、成虫は24度くらいで管理しても産卵しました。

この辺りについてはドウイロクワガタと同じことが言えます。

個人的な考えとして

「ほとんどのクワガタは25度くらいまでなら適応の範囲」と考えますので

現在の温度で飼育を続けてみます。

 


ゲンシミヤマ・3-長い蛹室のわけ

2021-02-27 15:33:07 | ゲンシミヤマ

ディンティクルスゲンシミヤマ(以下ゲンシミヤマ)の羽化(脱皮)を観察しました。

 

 管理温度:19〜22度くらい

 幼虫期間:14ヶ月前後

 幼虫の餌:よく発酵した黒いマット約70%と黒土約30%

通常、クワガタムシの羽化は蛹がうつ伏せ状態になり

背中(前胸)あたりから腹部・頭部へと殻が縦に割けて脱皮をはじめます。

その様子を例えるなら

背中にファスナーが付いた「着ぐるみ」を四つん這いになって脱ぐような感じです。

↓ 背中の殻が割けて羽化が始まる(クルビデンスオオクワガタ オス)

↓ ジャワパリーオオクワガタの羽化(オス)

↓ ネパールコクワガタの羽化(オス)

また、飼育の場合、蛹室の大きさはマットや菌床の詰まり具合・水分・劣化等の

外部環境に影響されることは珍しくありませんが

物理的には成虫時の体長に加え、後翅が後ろに伸ばせる大きさであれば事は足ります。

↓ マルバネの蛹室は成虫より大きい程度(オキナワマルバネ メス)

↓ ドウイロクワガタの蛹室(オス)

↓ シェンクリングの蛹室

↓ マットが緩いため広くなった蛹室(パリーオオクワガタ オス) 

ゲンシミヤマは比較的硬く詰まったマットであっても

成虫体長の倍以上あるような長い蛹室を作りました。

↓ ゲンシミヤマ オスの蛹室

飼育ではありがちなことなので最初は気に留めませんでしたが

残りの個体も同様に長い蛹室を作るため羽化のタイミングを見計らい

その様子を覗いてみることにしました。

↓ 別固体の蛹室 →  約80mm ← (2021年2月26日現在前蛹) 

 

長い蛹室のわけ

今回飼育したゲンシミヤマの羽化は

先述のクワガタムシの一般的な脱皮スタイルとは少し異なり

頭部と胸部の境あたりから殻が割け、そのまま前進して抜けて出るような方法をとりました。

そのため脱皮直後は前胸以下の殻と生体が縦一列に並ぶので

ゲンシミヤマが飼育下で作った長い蛹室は

外部環境云々というよりも、必要な長さだったようです。

↓ 前胸部がほぼそのまま残る

↓ 殻と生体が縦一列に並ぶ(2021年2月14日 0:11撮影)

↓ 2021年1月17日 羽化当日のメス

⇩ 羽化後は殻を前方に移動させる

⇩ 羽化24時間ほどで上翅は黒くなった(メス)

↑ 腹部の膨らみはものすごい!

⇩ 羽化後19日経過、腹部は収まらない(メス)2021年2月5日

↓ 2021年2月5日 オスの蛹

↕ オスの交尾器

↓ 羽化当日 オス 2021年2月13日

↓ 殻を抜けて出る感じ

↓ 羽化後は殻を前方に引き寄せ羽の邪魔にならないようにする

↓ オス 胸部の横筋がはっきり見える

↓ 羽化から約10時間後 上翅の色付きは早い

↓ 羽化から約16時間後

ゲンシミヤマは羽化から1ヶ月以上経過しても腹部が上翅内に収まりません。

テネラルを終えて活動を始めるには時間がかかるようです。

また、体色は黒色〜赤みがかったものまで存在するそうで

今回羽化したメスは数日で黒色に安定しましたが

オスは羽化から2週間過ぎても赤みがあります。

↓ 羽化から41日経過のメス 腹部はまだ収まらない

↓ オス 羽化から2週間経過、赤みがある

☆画像追加(これより14枚):2021年4月18日 メスの羽化(深夜)

↓ 蛹室は中央付近が少し盛り上がる

↑ 羽化は頭部前方に空間を保って始まる

↓ 背中が割けてきた

↓ 胸部あたりから殻が割ける

↓ 中・後脚は既に脱皮済  後脚は殻を脱ぐのに重要な役割を果たす

↓ 後翅が出るころに蛹室の前方へ移動する

↓ 蛹殻がうまく剥がれないため生体についてきてしまった

↓ 羽化までの時間は約1時間・菌嚢が露出

↓ 菌嚢は、時間の経過とともに体内に格納されるはず?

 

人工蛹室について

最近は「人口蛹室」というのがよく使われ

観察や羽化不全防止等に一役買うこともありますが

ゲンシミヤマを人口蛹室で羽化させる場合

脱皮殻と生体が一時期縦並びするかもしれないことを意識するのもよいかもしれません。

また、これまで幾度か記事に書いてきましたが

メスの「共生酵母類取り込み」について

羽化後のある一定時間帯に行われる菌嚢(メスの体内にある器官)への

*共生酵母類取り込みを考慮するなら

ほとんどの種のメスは自然蛹室で羽化させるのが良いと思います。

 (*共生酵母菌類を蛹化時に排出して蛹室内壁に付着させ

 羽化後に露出した菌嚢を蛹室内壁にこすりつけて

 再び共生酵母菌類を体内に取り込み、それを菌嚢で育成する。

 そして、産卵時には菌嚢を露出させて

 卵にそれらの菌類を付着させることで母虫由来の菌類を子孫に伝搬する)

 

参考文献:

 棚橋薫彦, クワガタムシの菌嚢と共生酵母.

 「生物の科学 遺伝vol.72  2018  No.4 [特集Ⅰ]クワガタムシ研究最前線」

  発行: 株式会社エヌ・ティー・エス(2018年7月1日).

参考URL:

 クワガタムシ・コガネムシ類における昆虫-菌類の

 共生関係の解明と保全生物学的応用

 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J09621/2016/

 


ゲンシミヤマ・2-形態と生態について

2020-11-23 00:33:51 | ゲンシミヤマ

ゲンシミヤマの形態と生態について

デンティクルスゲンシミヤマ(以下ゲンシミヤマ)の

幼虫飼育に失敗して数か月。

あの奇妙な成虫の形態の秘密が知りたく

初夏に、産卵済み成虫ペアを入手しました。

このペアは前飼育者のもとで二桁の産卵を済ませていたので

更なる産卵は期待できませんでしたがある程度の生態観察なら可能と思い

容器にマットを詰め、飼育を開始しました。

 

↓赤みのある系統 左:オス 右:メス  ミャンマーカチン州産

↓ オス

 

奇妙な性差

ゲンシミヤマといえば他種には見られないオスの頭・胸部にある横筋があまりにも強烈で

ついついそこに気をとられてしまいそうになりますが

よく見るとこのクワガタには奇妙な性差が認められます。

 

↓  左:オス              右:メス

↓  左:オス              右:メス

↑ やや毛深いので涼しく湿度のあるところを好むのか?

↓ オスには頭部と胸部に明瞭な横筋  ↓ メス

 

上画像の通り、これだけ性差があるので直感的には左がオス、右がメスと思えるのですが

細部を見ていくとその形態に少し違和感を感じます。

 

↓ 間違いなく上がオス

 

クワガタムシのメスの大アゴや前脚脛節(注1)の形状は

その種の産卵場所・形態と深い関係があります。

例えば、オオクワガタなどのように朽ち木を削って産卵するタイプなら

大アゴはシャープに見える傾向にあります。

そして、前脚脛節の幅はさほど広くはありません。

一方、マルバネやミヤマクワガタなどのように腐食の進んだ木質や土中(フレーク)に潜り

比較的柔らかい場所に産卵するタイプなら、大アゴは太めで丸みを帯びる傾向にあります。

そして、前脚脛節は先端にかけて幅が広くなる傾向にもあり

土中で活動しやすい形状をしています。

 (注1)前脚の腕に当たる部分

 

↓ミヤマクワガタの前脚脛節の幅 オス=狭い  メス=広い

↓ノコギリクワガタの前脚脛節の幅 オス=狭い メス=広い

↓ヤエヤママルバネの前脚脛節の幅 オス=広い メス=広い

↑ メスの前脚脛節の幅は一回り以上大きなオスに匹敵する

 

上画像のようにミヤマ・ノコギリともにオスの前脚脛節の幅は狭く

メスは産卵のために土中等に潜りそこで活動しやすいよう先端にかけて広くなっています。

このように雌雄行動の違いは形に現れ

これが一般的なクワガタムシの性差の一つでもあります。

 

ゲンシミヤマの場合、オスは大あごが太く、頭・胸部には横筋があり

前脚脛節の幅は、メスのそれより広いのです。

一方、メスにはオスのような横筋はなく、前脚脛節の幅はオスより狭くなっています。

つまり、一般的なクワガタの雌雄前脚脛節形状の違いが

ゲンシミヤマでは逆になっているのです。

 

↓ オスの大アゴと前脚脛節  ↓メスの大アゴと前脚脛節

 

このことからゲンシミヤマオスの前脚脛節形状は「潜る」ということを推察させます。

それは、メスより顕著に表れておりこのおもしろい性差について

飼育すると何かわかるのではないかと考えました。

 

↓ 雌雄ともに体に厚みがあり、飛翔能力は低いと思われる

 

飼育下での観察

飼育下での管理温度は他種との兼ね合いで21度前後です。

容器に詰めたマットはミクラミヤマの幼虫用を流用しました。

 

↓ 底部から8cmほどは、やや硬詰め

 

観察ではオスはあまり地上に出てこず、メスは潜ったり出てきたりを繰り返していました。

それ以外はこれといった変化を感じなかったため

観察途中でマットをかき出し内部の様子を何度か確かめると

底部付近にいくつもの坑道が認められました。

オスは、坑道内で頭を出口側に向けた状態で発見でき

メスは、マット内のどこからともなく出てきました。

 

↓ 底部で坑道がいくつも見つかる

↓ 坑道から出てきたオス

 

やはり、オスの前脚脛節形状は潜るために不利でない形のようです。

今回の観察からゲンシミヤマの暮らしぶりを勝手に考察すると

オスは、土中や腐食した樹木の堆積部等に坑道を掘ってメスがやってくるのを待ち

メスは、オスが作った坑道を利用して土中等に入り込み、産卵しているのかもしれない。

そう考えると、ゲンシミヤマの前脚脛節形状の雌雄の違いが

自然に思えるようになりました。

また、オスの頭・胸部にある横筋も一連の行動と関係があるものと思いますが

にわかに答えなど出るはずもなく観察は終了しました。

 

↑ ↓ 坑道から取り出しても体表はあまり汚れていない(オス)

↓ プリンカップに移すと徘徊を続けるオス

 

最後に

観察した成虫は2020年1月上旬に羽化し、同年6月上旬に活動を開始。

メスは、前飼育者のもとで二桁の産卵をした後

私のところで12日間生存しました(産卵はなし)。

オスは、約1か月生存しました。

 

↓ 8月中旬 メス死亡

 

今回は短い期間の観察でしたがゲンシミヤマの形態と生態について

少し知ることができたように思います。

私の手元にはもう成虫はいませんがゲンシミヤマの奇妙な姿に飽きることができず

新たに幼虫飼育を始めています。

 

↓ ゲンシミヤマ終齢幼虫


ゲンシミヤマ

2019-03-20 00:34:57 | ゲンシミヤマ

デンティクルスゲンシミヤマクワガタ

Noseolucanus denticulus(Boucher,1995)

*成虫の画像はありません

分布:♂19.2~27.3mm

体長:♀21.0~25.9mm

分布:ミャンマー北部・中国(雲南省)




藤田宏著「世界のクワガタムシ大図鑑・6」によると

デンティクルスゲンシミヤマは(以下ゲンシミヤマ)

Lucanus属とは異なる綴りで

ミャンマーからいくつもの新種をもたらした

野瀬幸信さんにちなみ 

Noseolucanus属となっています。

また、現地での記録として

標高1500~2000mの山地沢沿いで

歩行中の個体が採集されています。


今回の記事には残念ながら成虫の画像はありませんが

この種の特徴は、なんといっても他に類のない容姿

オスの前胸背板と頭部には横筋があり

メスにはありません。

また、メスも少し発達した大あごを有します。


この面白い特徴を持ったクワガタが

近年、ミャンマーから僅かながら輸入され

幼虫なども時折販売されています。

そこでゲンシミヤマの情報を得ようと検索すると

いくつかヒットしましたが

ほぼ飼育一辺倒、学術一辺倒で

知りたかった成虫の生態観察などに関する

記事は見つかりませんでした。

せっかく飼育できるのだから

特徴的な容姿の秘密を探らねば・・・





今年1月のこと

ゲンシミヤマの2齢幼虫が4頭届きました。

幼虫は、昨年の9月に孵化したもので

それらを引き続き19度前後で管理すると

孵化から半年ほどで終齢に加齢し始めました。





2019年3月16日

終齢幼虫には狭すぎる90ccPカップから

500ccカップへと移し替えました。


↓ 2齢幼虫 2019年3月16日



新たに使用したマットは

エノキの黒く腐食したマットです。


↓ 実色は黒系で、エノキのマット


↓ 2019年3月、終齢へと加齢



ゲンシミヤマは原始的な種=ゲンシのようですが

幼虫はコルリクワガタやツヤハダクワガタなどのように

一見して感覚的に古さを感じることはありませんでした。

ただ、腹部末端あたりがやや長く見えるような気もしました。

*実見:同腹4頭




仮に、和名に惑わされない見方をしたら

高地で小型化したグループ

それほど古くはない

という思いも出てきます。


↓ 頭部(2齢)大あご先端はさほど鋭敏でない


↓ 腹部末端から2節目腹面には微毛が密生

↑ クワガタは腹部末端微毛で大あごや体を掃除する



↓ 見た目での種同定は困難




↓ 終齢でも小さい




↓ 500ccへ




↓ 他種との兼ね合いで管理温度は20度ほど



これらの幼虫が羽化するのは

いつのことかわかりませんが

無事に育ったら繁殖だけでなく

生態観察もしてみたいと思います。


参考文献;

 藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑6.むし社.