昨年の8月には幼虫が確認できていたミヤマツヤハダでしたが
先月に割り出しをしてみたところ食痕らしきものは見つかるものの
幼虫はまったく出てきませんでした。
↓ 昨年の親虫・ミヤマツヤハダ成虫
↓ 2017年5月撮影
↓ 2017年8月には幼虫を確認
夏場の高温がよくなかったのでしょうか?
本当のことは、わかりません。
かねてからツヤハダクワガタの累代継続飼育は難しく
国産最難関種と聞いていましたが
その通り、あっさり絶えてしまいました。
が、こういうのにあたると更に興味は湧いてきます。
今度はある程度まとまった数で挑まねば。
ツヤハダクワガタ振り出し
ということで、届きました。
ミヤマツヤハダ野外終齢幼虫。
↓ ツヤハダの頭は角ばった感じ
今回届いたのは昨年と同じ関東の山でミヤマツヤハダに分類される群です。
採集された標高は前回より100m高い1400mになります。
↓ 容器から移すとかなりの数だった!
↓ 古い系統独特の形
↓ あれ? 1頭だけ変なものが・・・
送られてきた幼虫は全て終齢でしたが多少成長に違いが見られ
もしかしたら混生するマダラクワガタの幼虫も
含まれているかもしれません。
また、後期幼虫の中には体内に食べた物が見える個体と見えない個体がおり
後者は蛹化に備えた状態かもしれません。
↓ 成長に差がある終齢幼虫
↓ 右は体内に食べ物が見えない・・・他種かな?
一旦トレイに移した今年羽化するであろう大群を二つに分け
ステージの進んでみえる個体6頭をミニケースに投入し
室内での観察用としました。
残りの幼虫はクリアーケースに投入し
屋外物置で自然温で管理することにしました。
↓ ステージ最後期にあると思われる個体を観察用に
容器に投入した幼虫は間もなく潜っていきましたが
寒の戻りで、そばに置いた温度計は約10度です。
やはり高山で暮す本種の活動零点は低いようです。
↓ 投入して間もなく潜っていく
野外ではツヤハダクワガタとマダラクワガタは混生します。
マダラクワガタは、それなりの環境を与えれば
放置に近い状態でもある程度代が進みます。
↓ ツヤハダと混生するマダラクワガタ(飼育下)
ゆえにツヤハダクワガタもそれなりの飼育環境下であれば
代が進むのではないか? と思いたいのですが
成虫飼育ではオスが非常によく飛翔しました。
こういう種は思いのほか遺伝子交流が行なわれているのかもしれません。
↓ 飛翔直前のツヤハダ♂ 2017年5月撮影
昨年の春から飼い始めたツヤハダクワガタ
8月には幼虫も確認できたましたが
1年たたずして、振り出しに戻ってしまいました。
はじめに
2017年8月14日、当ログ開設から今日で3年になります。
その間たくさんの方にご訪問頂き、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いいたします。
ツヤハダクワガタ
ツヤハダクワガタは、体長12~20mm前後の高山性クワガタムシで
現在3つの亜種に整理されています(以下ツヤハダ)
ツヤハダクワガタ(名義亜種)(北海道・東北以北個体群)
Ceruchus lignarius lignarius
*画像なし
ミヤマツヤハダ(本州中部~紀伊半島個体群)
Ceruchus lignarius monticola
静岡県産 オス・メス
ミナミツヤハダ(四国・九州個体群)
Ceruchus lignarius nodai
熊本県産 オス・メス
熊本県産(1998.11)
↓ 左:ミヤマツヤハダ・右:ミナミツヤハダ
⇓ ⇓
↓ 左:ミナミツヤハダ・右:ミヤマツヤハダ
⇓ ⇓
ツヤハダの空白地帯
ツヤハダの分布は北海道から九州にまで及びますが
私の知る限りでは近畿西部~中国地方での確たる記録がありません。
文献や詳しい方のお話では兵庫県には幾つかの不明瞭な記録があり
1.県立豊岡高校にツヤハダの標本が1体あるが、ラベルはない
2.同県氷ノ山でツヤハダではないかと思われる幼虫が採集されたが、羽化せず死亡した
3.播州地方での記録もあるが、同定の参考とした図鑑そのものにに間違いがあり
それからするとチビクワガタの可能性がある
1.2.3どれも悲しい落ちがあります。
2016年、県北部の山地帯でマダラクワガタ採集時に
Tさんがひときわ大きな終齢幼虫1頭を発見しました。
もしかして・・・持ち帰り飼育したところ
↓ 採集した幼虫
↓ 蛹化近し
↓ 蛹化
残念ながらマダラクワガタであることが判明しました。
このように県内のクワガタムシに興味を持って以来
山地帯に出かけるたびツヤハダを意識してきましたが、発見するに至っておりません。
ミヤマツヤハダの飼育
今年は、ツヤハダのことをもう少し知って山地帯に望もうと考え
静岡県産野外生体を購入しました。
形は、ミヤマツヤハダにあたると思います。
生きたツヤハダを手に載せて見るのは初めてです。
知らなければゴミムシ系かと思ってしまいそうな上翅に翅脈の痕跡(点刻・列)がよく残る
見るからに原始的なクワガタです。
これらの生体は、今年4月に標高1300mの赤枯れから採集された新成虫で
昨年羽化した個体と思われます。
観察
2017年4月22日
飼育セットを作り、ミヤマツヤハダ2ペアを投入して観察~繁殖を試みました。
管理温度:自然温~26度以内
↓シイの赤枯れ片を敷く
↓同赤枯れ材を乗せる
観察ではツヤハダは昼間でも現れましたが特に夜行性が強く
夕方から深夜にかけてよく活動しました。
↓ 夕方から動き始める
また、オスのほうが早い時間帯から現れることが多くよく飛翔しました。
観察を開始して数日経過したころ、赤枯れ材に穿孔痕が見られるようになりました。
穴の中を覗いてみるとツヤハダのお尻が見えます。
↓ 赤矢印は穿孔穴、いくつか見られるようになった
↓ 穿孔口に木屑 2017年5月4日
興味本位でその穴にオスを入れてみるとすぐさま出てきます。
あれっ? ・・・早速、坑道内の確認です。
↓ 坑道内の様子 2017年5月13日
坑道は、朽ち木サイズに合わせてか意外と短く先端にかけて広くなっていました。
そして、広場にはメスが、坑道部にはオスが頭から入っており
それを塞ぐような状態になっていました。
既知の生態ではありますが、実際に見ると大変興味深いものでした。
この時、産卵した形跡は確認できませんでした。
↓ 穴奥にメス、手前にオス
ツヤハダは大あごを除きオスメスともに大方似たような形をしています。
↓ ミヤマツヤハダ側面
頭部から後方にかけて膨らむ独特の形態は雌雄共通なため
”頭部にかけて細くなる”と言うほうがよいのかもしれません。
この形は朽ち木に穿孔しやすく、坑道を塞ぐのにも都合がよさそうです。
↓ 交尾の頻度は多かった
↓ オスはよく飛ぶ(夜間)
↓ 飛翔直前、腹部を後方に伸ばす
オスの戦い
ツヤハダは毎夜朽ち木上を歩き回り、オス同士出くわすと他のクワガタ同様に
大あごを使い、相手を挟んだり、投げ飛ばしたりしていました。
↓ この後、投げ飛ばされる(2017年5月24日)
産卵
セットから4ヶ月が過ぎ、飼育していた2ペアは既に死亡しているため
8月13日に割り出しを行ないました。
↓ カビの生えた死骸 メス
一般に、ツヤハダの採卵は低温が好ましいといわれているため
エアコン26度設定では期待できないと思っていましたが
350缶ほどのシイ赤枯れ材の穿孔口を崩していくと、とても小さな幼虫が1頭出てきました。
↑↓ 穿孔場所にメスの死骸 近くに幼虫
産んでいました!
他にもいそうな気配ですが出てきた幼虫があまりにも小さかったため
これ以上崩すことにおじけずき当分の間そっとしておくことにしました。
↓ かなり小さいので初齢と思われる
初めて飼育したツヤハダの管理温度は4月の自然温度~26度の範囲です。
いつごろ産卵したのかは不明ですが、比較的高温帯で幼虫の存在が確認できたと考えています。
最後に
今回の観察ではメスは赤枯れ材に穿孔し、産卵する。
オスはメイトガード・侵入者阻止のため穿孔口に頭部から入り坑道を塞ぐなど
ツヤハダの既知の生態を見ることができ、少しはツヤハダのことを知ったように思います。
飼育下での寿命は3か月ほどで
その間、摂食する(昆虫ゼリー)姿も見ることはありませんでした。
巻頭にも書きましたが、ツヤハダは北海道~本州~四国~九州にまで分布します。
西日本にも1000mを超える山はあります。
これまでは他種の都合で最高標高800~1000m付近を中心に探していましたが
今年はもう少し標高を上げて探しはじめています。
↓ 静岡県産メス
参考文献:
山口進,1988.検索入門 クワガタムシ.株式会社保育社.
吉田賢治,1996.日本産クワガタムシ大図鑑.虫研.
高橋寿郎,2000.きべりはむし(28-1・2).兵庫昆虫同好会.
藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑6.むし社.
岡島秀二・荒谷邦雄 監修,2012.日本産コガネムシ上科標準図鑑.株式会社学研教育出版.