すこしくぐもったような汽笛がどこからともなく聞こえてくる。
たちまち辺りは旅路を急ぐ人々の足音や咳払い、物売りやら発車のお鈴を鳴らす音に包まれたような錯覚に陥る。
中央花巻駅に纏いつくように集まるレールから、それぞれ目的地へと軌道は伸びている。そのうちの一つのレールが、ジオラマボードを突き抜けてまっすぐ伸びている。レールはその向こうで左に折れていて先が見えない。
くぐもった汽笛はこの向こうからなっているようだ。やがて車両が姿を現した。軽便鉄道だ。
この軽便鉄道は機関車の向きが面白い。通常とは逆向きに連結されているのだ。
よくWEBで「岩手 軽便鉄道」と検索するとこの逆向きに連結された機関車の写真を見ることができる。
逆向き連結について少し調べたが、なかなか「これ」という情報が出てこない。おそらく急峻でカーブの多い峠道を登るための連結方法なのだろうけれど、詳しくはわからない。現在では立派なSLがJR花巻駅から出ているが、やはり軽便鉄道とは違うよな・・・と少し旅愁に駆られた。
ジオラマの軽便鉄道はすうっと駅舎に寄り添うと、しばらくして、また軌道を戻っていった。これが本日最後の運行だった。ジオラマは再び凍りついたように静かになる。
時間を見るともう夕方5時近い。お宿に行かなきゃ。エントランスに戻ると、そこから雨に濡れた連絡道が見えた。宮沢賢治童話村へと向かう道だ。明日、また来ようか。次男に尋ねると、じっと道の先を見つめながら小さく頷いた。
みんなで雨のなか小走りに飛び出す。駐車場までけっこうあるよ。ってそっち行っちゃだめっ。スズメバチっ。しかしみんなお構いなし。木の下をくぐり藪を蹴って最短距離を走る。野生児かっ。
結構濡れながら車に到着。
本降りになっちゃったねぇ。ここからお宿までどのくらい?
タオルで髪の毛を拭きながらシートベルトをする。暗くなる前に宿に着きたい。
スマホのナビを頼る。とりあえず北に進むらしい。国道456号線を北上。東北道と並走しつつ、まずは県道214号との交差点を目指す。
交差点につくまでにちょこっとウンチク。
花巻の温泉エリアは花巻温泉郷エリアと南花巻温泉郷エリアの2つに区別される。本当はもっとたくさんあるけれど、花巻電鉄が2つのエリアにそれぞれ軌道を敷いていたので、この2つに大別していいんだろう。
どちらも市街地から西に見える北上山地にあり、それぞれのエリアが複数の源泉を持っている。掘って探した源泉なのか、断層の裂け目から源泉が湧いたのか、よくわからないが、一つの温泉地に一つのお宿というのが意外に多い。とくに南花巻温泉郷に多い。有名な大沢温泉も代表的な一温泉一宿。
交差点についた。ここで左折。今度は県道224号線との交差点を目指す。その先には花巻空港があるはずだ。
このあたりは見通しのよい田園風景が広がっている。あいにくの雨で、見渡す限り田んぼはぎんどろ色の鈍い光を放つ。猛暑なのでこの雨は天佑というべきか。
で、ウンチクの続き。
2つに大別される温泉郷のうち、花巻温泉郷の最も奥にあるのが本日お目当ての台温泉。
おそらく山深く分け入れば、もっと源泉がいっぱいあるのだろう。しかしここが車で行ける限界であり、お宿もここまでしかない。ここは「台焼」と呼ばれる陶磁器の産地でもある。台焼にお目にかかれるかはわからないが、宮大工の粋を集めた旅館を満喫する楽しみが待っている。
県道はいつの間にか花巻空港に近づいていた。
ん、「羅須地人協会」?
あ、花巻農学校だ。
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