一遍行ってみたかった「志波城」。まさかこんな突然に出会えるとは思っていなかった。ノーマークだっただけに本当に嬉しい。資料館で情報収集してから城壁へ向かう。なんだか中国の城塞都市みたい。要するに築地塀なんだけど、重厚かつ高い。雨のせいか、土肌が濡れて黒い。それがまるで実戦の兵煙に耐えたかのような凄みを醸している。
正門前に小川が流れている。防御としてあった堀川を復元したものだ。木の橋をわたり、城門に近づく。楼門造りなので圧迫感がある。きっと戦のときは楼門の高層部から矢が雨のようにふり注ぐのだろう。
しかしここはいわゆる砦城ではない。官衙である。
おそらく当時この地に住んでいた人々は刃物・飛び道具を人に向けるという概念はなく、あくまでも狩猟に用いるために山刀を持ち歩く程度だったのだろう。人に刀を向けて乗り込んできた朝廷軍は、大した争乱もなく鉱物資源を獲り、食料を取った。もちろん、アテルイのような戦士もあらわれて朝廷軍を大いに悩ませたが、やがてエミシの英雄は討たれた。志波城はアテルイの死後に造られたものだ。
それにしても古代城塞遺構をここまで空想できる施設はなかなか無い。ここが志波城と確認されるまでは「方八丁」と呼ばれる遺跡の一つと考えられてきた。「方八丁」遺跡は地方官衙の遺跡のこと。丹念に調べれば、それぞれが重要な朝廷の拠点だったのだろうが、残念だけど今解明できることは限られている。
雨がひどくなってきた。
再び車上の人となる。時刻はもう正午を回っていた。
この道はどうやら東北道と並走して南へ向かうらしい。県道13号線かな。信号も少ないし、往来もそんなに多くない。時々スコールのような雨がさあっと降るが、大粒になることもない。マイルドな時間の中を車は滑るように駆けてゆく。
さて、
花巻で何見る?
しばらく沈黙。やがて、マルカンビル、童話村、羅須地人協会との声が挙がった。花巻市内に分散しているぞ。廻れっぺが?
マルカンビルへ行くのは巡礼のようなもの。
実は旧マルカンデパートが閉館する直前に名残を惜しんで来た以来である。
改装・補強されて、どのくらい変化があったのかと思いつつ市街地へ入る。
マルカンビルは、そのまんまだった。
花巻の風雪に耐え続けている外壁。
決してぴかぴかとは言えない、けれどもランドマーク的な建物。
中に入るとところどころに写真が貼ってある。よく見ると閉館するまでの様子を撮ったものばかり。そうそう。あの時レストランで並んだっけ。長蛇の列すぎて、階段と上階のフロアにぎっしり並んだ。人の重みで倒壊するのではないかと心配するくらい密集していたっけ。
さてレストラン階(大食堂)。再開してから初の来店。うわぁ変わってない。お店の照明も、テーブルも椅子も、仕切りも。がやがやした雰囲気。そして窓の向こうに花巻市街地が広がっている。
食券を買い求める。結構並んだ。お目当ては名物ナポリカツ、オムライス、サイコロステーキ、そしてソフトクリーム!
ん-洋食レストランへのあこがれそのまんま。
昭和レトロな大衆レストランの特徴って、ナイフ・フォークそして「お箸」という違和感を無理やり通用させていることではないだろうか。そして壁紙までもが調理中の香りを吸いまくった独特の油臭さ。オレンジの照明だったであろう傘がだんだん茶色になってゆく独特の劣化美。タイプこそ分かれるが、老若男女あらゆる人々に喜ばれるお店って、やっぱり共通点がある。さらに老若男女だれでも楽しめるメニューということになると、必ずカレー、ラーメンが登場してくる。あとカツ丼か。洋食の王道ナポリタンと中華の重鎮ラーメン、そして和食のあこがれカツ丼。こういったメニューを無理矢理一同に揃えるのが大衆レストラン・・・っって小難しい御託を並べたけど、要するに隣に座った爺ちゃんがうまそうにマルカンラーメンを食べていて、こっちまで食べたくなっただけのこと。
でもナポリカツは評判に違わずボリュームすごいし、サイコロステーキは肉が柔らかいらしい。オムレツもソフトクリームも期待通り。まあ、隣のラーメンに目がちらちら行っちゃうけど。
どうもまた花巻に来なくちゃらいけないらしい。今度はラーメン食いに。