放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

ポリープ8

2024年10月13日 01時41分16秒 | Weblog
 静寂がやってきた。
 時刻は14:00を過ぎたくらい。つまり昼下がり。
 普段であれば、食後のゆるーい睡魔に耐えながら仕事をしている時間。
 まあ、今もそれなりの疲労を感じていることに違いはないが。
 なにしろ、まだ黄色い下痢が止まっていないのだから。
 もう手術とっくに終わってるのに。どう考えても今回ばかりは下剤が多かった。
 
 それでもトイレからベッドに戻れば、やはり日常にはない静寂があった。
 安静・歩くなと言われたから、やることといえば排便と睡眠くらい。
 手術直後で絶食中だから食事もしないし、入浴もしない。何もしない。
 普段なら何もしないでいると後で後悔することになるんだけど、今はそれがない。
 これはむしろ贅沢なことなんじゃなかろうか・・・。

 何もしなくていい時間を「有意義」に過ごす方法はただひとつ。何もしないこと。
 テレビ観ない。
 ラジオ聴かない。
 スマホも家族との連絡と最小限の情報収集くらい(ドジャースの勝敗とか)。
 友は持参してきた本一冊。
 ここは病院にミサイルも飛んでこないし、深刻な感染状況下でもない。そして入院が長期的なわけでもない。ご同室の方も静かに過ごすのがお好きみたい。ならばお付き合いします。このありがたさを当たり前と思わずに噛み締めて過ごそう。
 
 とか言いつつ、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
 看護師の慌ただしい足音で目が覚めた。
 点滴パックの交換に来たのだが、すっかり空になっていたようだ。腕を見ると、血液が点滴針を遡上してチューブ内まで上がってきているのがわかる。
 「あー、固まっちゃいましたね」
 寝ていたから点滴パックが空になっているのに気が付かなかった。
 点滴液の尽きたチューブ内を血液が逆流し、そこで空気に触れて凝固してしまったらしい。
 血液が凝固すれば血栓のもとになる。針を抜いて別の場所で点滴を再開するしかない。

 外は薄暗くなっていた。時間を見ると18時すぎ。周囲の病室からは話し声やテレビの音が聞こえてくる。 
 もう夕食の時刻らしい。配膳している声も聞こえる。でも絶食中だから関係なし。
 寝落ちしていたということは、下痢がおさまったのかも。

 さっきは手術の関係で右腕に点滴をしていた。今度は左腕。  
 針がなかなか刺さらない。3回目でやっと成功。
 トイレはもう尿だけになった。やっとお腹落ち着いようだ。針刺した腕がすこし疼く。
 また少し本を開いて静寂を愉しむ。このまましばらく寝っ転がっていた。
  
 消灯時間が来て、寝る前にトイレに立った。そのとき、点滴チューブ内に気泡が入っているのを発見。じわりじわりと左腕に迫っている。こりゃ困る。けっこうな量だぞ。こんなの血管に入ったら・・・。
 トイレを出てそのままナースステーションに向かう。ステーションに看護師の姿は見当たらず。チューブ内では気泡がゆっくり進行中。どうしよう・・・。
 「どうかされましたか」
 背後から声がかかる。
 振り向いて、看護師に気泡を見せる。看護師は「あー」と言ってその場でチューブ接続部を分解。気泡をうまく抜いて、元通りにしてくれた。
 「今日手術なさった方ですよね」
 「はい、そうです」
 「安静との指示が出ていますのでここまで来ちゃダメですよ。何かあったらナースコールで呼んでください」
 そうだった!歩いちゃいけないんだった。すごすごと病室へ戻った。

 夜中になって、さっきの看護師が点滴チューブを取り外しに来た。これで点滴は終了とのこと。でも針は抜かない。
 なにか容態に変化があった時に、ここから必要な薬剤等を供給するためだそうだ。でもチューブと点滴スタンドから開放されたことには違いない。少し左腕がチクチク(実は両腕)するが、これも終わりへの一段階。

 翌日、体温と血圧を測定。
 なぜか下の血圧が高い。入院して下の血圧が高くなる人は案外多いという。看護師はその原因について明言をしなかったが、運動不足に陥るからではないかと個人的には思う。
 体温、血圧ともに異常ではないということで、やっと点滴針も抜いてもらえた。抜いたところもチクチクする。これは退院後も数日続いた。

 それから朝食。久しぶりに温かい食事をいただけてうれしかった。
 そのまま退院許可が下りた。BELAちゃんが迎えに来てくれた。
 はあ、自由の身。
 とにかく、手術より下剤がしんどい。
 もうやりたくない。これからもどうか悪いことしませんから下剤だけは勘弁してください。

 後日、ポリープの生育状況を伺う。
 良性とのこと。

 了
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ポリープ7

2024年10月09日 00時21分27秒 | Weblog
 ポリペクトミーという手術は、内視鏡を巧みに操る技術を要する作業だと思うが、所要時間はかなり少ない。
 だいたい手術台に横になって15分くらいだろうか。
 大腸の中で患部を焼いて切除するのだから、多少は痛いとか熱いとか感じるんだろうなと思っていたら全くそんなことはなかった。
 まるで他人の手術をモニターで見ているみたい。
 いや確かにモニターに映されているのは自分の内部に違いないのだが、ポリープ自体には神経が通っていないようで、突っついたりつまんだりしても何も感じない。当然、焼き切っても傷口をニッパーで挟んでもなんでもない。
 ただ、ときおり腸内に分泌物が湧くたびに内視鏡についている吸引器で吸い取っている。機器をガサガサ揺すったり回したりするので、お腹の中がボコボコゆれる。
 また大腸内をよく見えるように空気を送り込んで管内を膨らませる。この時、不気味な張り感を感じる。
 こういうのが何とも怖い。

 実際、こういうことは腸内で同時多発的に起きていた。
 ポリープを発見したと思ったら分泌物(やっぱり黄色い)で視界が何も見えなくなる。そこで手早く(手荒に?)分泌物を吸引し、さらによく見えるように管内を膨らませる。高周波スネア(輪っか状のワイヤーで患部を焼き切る器具)をだんだん近づけて、ポリープに引っ掛けようと試みる。また黄色い分泌物が流れ込んできた。急いでガバガバ吸引する。
 てな感じで、医師の集中力と技術力、忍耐力などいろいろ必要なんだなと思った。

 手術終了後、車椅子に乗せられた。さすがに終わったばかりで歩くのは危険なのだろう。
 そのまま病室へ連れられてゆく。

 明日の朝まで安静。歩いても隣のトイレまで、それ以上は歩かないように、と指示を受けた。
 看護師さんはそこでふと飲み残した下剤に気がついたらしい。
 「全部飲めませんでしたか」
 「はい。吐きそうになって。」いや吐いたけど。
 でももういいですね、と言って看護師は飲み残した下剤を持っていった。
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ポリープ6

2024年10月07日 02時16分51秒 | Weblog
  入院の日が近づいてきた。
 なるべく消化の良いものを食べるように心がける。
 繊維質のものもなるべく細かく刻んで調理するようにした。

 そして入院前日。
 この日はまる一日、病院から渡されたもの以外食べられない。

 病院から渡された朝食は、
 朝・お粥(レトルト)、
 昼・中華粥(レトルト)、
 間食・ビスケット2個、無果汁ジュース(粉末)
 夜・スープ(粉末)。
 
 大の大人がこれでエネルギー足りる訳がない。
 朝食べてから間もなくお腹が鳴り出した。昼が待ち遠しい。
 で、昼、食べ終わると間もなくお腹が鳴り出す。

 ちなみに、ガッツリFulltime勤務中。
 
 夜、帰宅。
 血糖が明らかに下がっている。少し力が入らないような、むしろ力が漏れてゆくような感覚。
 でもたぶん肝臓グリコーゲンの取り崩しにより、最低限度の血糖値は確保されているんじゃなかろうか。
 でなきゃ今頃もっとモーロウとしているはず。
 
 20:00
 最後のスープを飲んで、ちょっと落ち着いた頃に今度は下剤の登場。
 粉末の薬をコップで200mlの水で溶かす。味はスポーツ飲料を少し濃くしたみたい。
 少しだけ泡が出る(炭酸)。
 少しだけトロっとしている。

 21:00
 また下剤(今度は錠剤2錠)。
 このあたりからすでに数回トイレに行っている。
 22:00すぎたらもう完全に水便。
 このまま寝て大丈夫かなぁと思ったら案の定、寝具を汚した。

 夜中に起きて風呂場で寝具のつまみ洗い。その後ハイターに晒して、それから洗濯機へ入れた。
 まったく、なんでこんなことに・・・。
 
 洗濯機が止まるのを待っていても仕方がないので、そのまま寝ることに。
 これ以上寝具を汚したくないので、新聞紙を厚めに敷いてその上に横になった。ガサガサうるさい。

 明け方起きて、洗濯機の中身を確認。洗濯物を出して広げてみた。汚れは落ちたみたい。

 トイレに行くと相変わらず蛇口をひねったような水便。
 しかしそのうち、エアが混ざるようになってきて、最後にはついに何も出なくなった。

 尿だけはしっかり出る。しかし消化器内に固形物は全く無いようだ。
 これから病院へ移動することを考えれば、ここらへんで下痢が止まっていてくれたのは有り難いことなんだろう。でも水分足りているかな、歩いているうちに脱水症で倒れたりしないだろうか。
 
 9:15
 無事に病院到着。
 入院手続きをして病棟へ案内された。

 病室に案内されて間もなく、看護師が2リットルの下剤を持ってきた。

 来たよ2リットル!もう飲んだって何も出ないぞ。
 おー、まるで清涼飲料水のようによく冷えている。こんな冷たいの飲んだだけでお腹壊しちゃう。

 アホなこと言って気ぃ紛らわしていたのに看護師は大真面目で、全部飲むように、と言う。飲みきったら便の状態を見るからナースコールしてくれ、と。
 2時間以内で飲み切るペースで進めてほしい、といって看護師さんは病室を出ていった。

 眼の前にはよく冷えた2リットルの下剤。そして進捗状況を記録する表が残された。
 ため息しか出ない。

 10:00下剤を飲み始めた。コップ1杯ずつ。
 表をよく見ると、はじめはコップ1杯(約200cc)を15分かけて飲むように指示されているが、後半は10分ペースに変わる。
 ところが実際には逆で、ペースが保てない。
 1.2リットル飲んだあたりでコップに手が伸びなくなってきた。
 前回の検査のときもそうだった。胃に溜まるようになってきて1.2リットルが限界だった。
 しかも便は一切出てこなくて、ひたすら尿ばかり出る。それもやけに黄色い。下剤は飲む前は透明色なので、胆汁液でも混ざってしまうのだろうか。

 途中から点滴開始。
 栄養補給と水分摂取という。

 様子を見に来た看護師に「下剤が飲めなくなってきた」と訴えると、「飲めなきゃ浣腸ですよ」。ぐさっと刺してきた。

 浣腸イヤー!そんなに追い込まないでー!! てコントかい。 
 
 トイレに行った時、ついに吐いた。
 すっかり吐いた。これも液体ばかり。そして黄色い。
 
 それからやっと2回ほど通便があり、看護師に便を見せた。
 「はいOKです」
 患者の腸内洗浄が完遂していることさえ確認できれば、これ以上下剤も浣腸も不要なはず。
 こっそりコップに飲み残した下剤を洗面台の流しに捨てた。
 
 まもなく内視鏡室からお呼び出しがあった。
 点滴スタンドを手で引きながら内視鏡室へ移動する。帰りは車椅子に乗ることになるとのこと。

 いよいよ始まるか。
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