疎外
始まりは徐々にであったかもしれない。
気付いたのは些細のことだった。
腹が空いて、お昼はまだかた尋ねたら、
「さっき食べたでしょ。」と言われた。
腹は空いている。
さっき何か食べただろうか。
思い出せない。
腹は空いている。
やはり食べていない。
医者に行って変なことを聞かれた。
「お年はいくつですか?」
八十も過ぎれば自分の年なんて覚えていない。
「今年は何年の何月ですか?」
今年が何月何日であろうとどうでもいい。
正月でないことは確かだ。
続けられる問いに、
いちいち答えるのは面倒くさい。
孫が尋ねてきた。
大学生だと思っていたら、
小さい子供を連れている。
「忘れたの? 私の子供よ。」
いつのまに結婚したのだろう。
私に黙っていたに違いない。
「こんなに散らかして!」
人の部屋に入るなり、やぶからぼうに言う。
確かに散らかっているが、
片付ける気がしない。
誰が来るわけでもない。
私の部屋だ。
文句を言われる筋合いはない。
「ボケたんじゃないの?」
私はボケたのだろうか。
まだらに途切れる記憶。
残された記憶とかみあわない現実。
無気力と無関心。
誰にもわかってもらえない私が
ここにいる。
ば~ちゃんも同じだった。
始まりは、
「お金がない」「砂糖がない」だった。
病院に行って、「お年はおいくつですか?」「今年は何年の何月ですか?」と聞かれ、
「私は馬鹿になっちゃったんだ、」 「頭がおかしくなっちゃった」
初めの頃は泣いていた。
心が揺れ動き、落ち着かなかった。
じ~ちゃんが死んだ時も、
「なんで私に黙ってたの!」
色々あったけど、今はすっかり落ち着いている。
じ~ちゃんが作った、築55年のボロ家に一人で住んでいるけど、
そこがば~ちゃんの一番落ち着くところ。
ずっと付き合うよ。
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