横浜から北海道の山村に移り住んだ、我が家のつぶやき

北海道追分に移り住み5年。今度は追分から恵庭へ。毎日が新鮮で愉しい事だらけ。そんな生活を気まぐれにおしゃべりしています。

詩人 成沢薫 “喪失”

2011年05月04日 17時12分36秒 | まちこつぶやき

疎外

始まりは徐々にであったかもしれない。

 

気付いたのは些細のことだった。

腹が空いて、お昼はまだかた尋ねたら、

「さっき食べたでしょ。」と言われた。

 

腹は空いている。

さっき何か食べただろうか。

思い出せない。

腹は空いている。

やはり食べていない。

 

医者に行って変なことを聞かれた。

「お年はいくつですか?」

八十も過ぎれば自分の年なんて覚えていない。

「今年は何年の何月ですか?」

 

今年が何月何日であろうとどうでもいい。

正月でないことは確かだ。

 

続けられる問いに、

いちいち答えるのは面倒くさい。

 

孫が尋ねてきた。

大学生だと思っていたら、

小さい子供を連れている。

「忘れたの? 私の子供よ。」

 

いつのまに結婚したのだろう。

私に黙っていたに違いない。

 

「こんなに散らかして!」

人の部屋に入るなり、やぶからぼうに言う。

確かに散らかっているが、

片付ける気がしない。

 

誰が来るわけでもない。

私の部屋だ。

文句を言われる筋合いはない。

 

「ボケたんじゃないの?」

私はボケたのだろうか。

 

まだらに途切れる記憶。

残された記憶とかみあわない現実。

無気力と無関心。

 

誰にもわかってもらえない私が

ここにいる。

 

ば~ちゃんも同じだった。

始まりは、

「お金がない」「砂糖がない」だった。

病院に行って、「お年はおいくつですか?」「今年は何年の何月ですか?」と聞かれ、

「私は馬鹿になっちゃったんだ、」 「頭がおかしくなっちゃった」

初めの頃は泣いていた。

心が揺れ動き、落ち着かなかった。

じ~ちゃんが死んだ時も、

「なんで私に黙ってたの!」

色々あったけど、今はすっかり落ち着いている。

じ~ちゃんが作った、築55年のボロ家に一人で住んでいるけど、

そこがば~ちゃんの一番落ち着くところ。

 

ずっと付き合うよ。

 



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