手術から約2週間が過ぎた。
今回は食道と気管の大きな手術だったので、とにかく、命をつなぐことが最優先。
息ができること。栄養が補給できること。
それさえできるなら、なりふり構わないという感じだった。
おかげ様で、声が出ないことは勿論だけど、飲食は一切なし。
腸からと喉からの栄養補給ルートを確保し、そこからひたすら栄養を補給し続けてきた。
しかし、ここまできて、
「どうも炎症は起きていないようだし、移植縫合部分に異常も見られないから、透視検査してみますね。」
という話。
透視検査というのは、実際にものを飲み込んでもらい、それが途中でもれ出したりせずにきちんと胃腸まで届くかどうかを像映剤で確かめるものらしい。
で、レントゲン室に入って変な味のする薬を飲み込まされた。
しばらくすると、
「大丈夫ですね。順調に来ているようです!」
お医者さん、とても嬉しそう。
こちらも笑顔で答える。
「じゃあ、今夜から液体で、明日からはゼリーを使って食事のリハビリを始めていきましょうか。」
ええ? 食事にリハビリなんているの?? こんな当たり前のことに、と思った。
まあ、何はともあれ、食事ができるというのは、超嬉しい改善だ。
言いつけに従って、そのリハビリとやらをやってみましょう。
ここまで、まともに書いてこなかったけれど、今回(2回目)の入院では、手術後、一切の飲食が禁止されてきた。
ちょっと想像していただければ分かると思うのだが、これって、かなり厳しい仕打ちなんです。
24時間、一切飲み食いすることなくひたすら時を過ごす日々の何と空しいことか。
そこから解放されるんだったら、どんな言いつけにでも従います!
そういう心境にさせられます。
そうして、その日の夜、出されたのが、
大嫌いな液体栄養ドリンク
でも構いませんよ。
いままで封印してきた『飲む』という人間の根源的な生命活動ができるんですから。
そうして一口、口に含む。
!!!
あああ、何という快感! なんという美味しさ!
飲むって、こんなに素晴らしいことなんでしたっけか。
今まで、超不味いと思い込んでいた経口補水液が、魔法の薬のように口からのどを潤していくのが分かる。
喜んで二口め。
ちょっと力を入れて飲み込んだら、違和感とともに、液体が鼻から噴き出してきた。
なんじゃこれは!!
なんで素直に胃に送られないの?
慎重に3口目。
なんとなく、胃に向かうルートと鼻に向かうルートがあることは感じられるが、その先がよく分からない。
間違いないのは、何も考えずにグビッと飲むと、鼻からドバっと出てくること。
こりゃあ、一筋縄ではいきませんがな。
結局、かなりの量を鼻から噴き出しつつ、久しぶりに『飲む』快感に浸ることができた。
そうして翌朝。
個体を出すというから、何が出てくるのかと思っていたら、
小さなゼリーが1パック
たったこれだけなんだけど、液体よりも更に飲み込むのが厄介。
なるほど、これは確かに『食事のリハビリ』だ。
これまで当たり前だったことのはずなのに、2週間休んだだけで、こんなに退行してしまうんだ。
でも、これは乗り越えるしかないよね。
早く乗り越えて、『食べる楽しみ』を取り戻さなければと心に誓うマタギなのでした。
窓の外におらほの山(月山)
この山が見えるようになったということは、冬型が緩んだということ。
ああ、もう一つの春が待ち遠しいマタギです。