日無坂 著者 安住 洋子
《内容》
跡継ぎになることを期待されながら父利兵衛に近づけず、反発し、離れていった。あの日から十年、長男の伊佐次はすっかり変わり果てた父とすれ違う。父は万能薬という触れ込みの妙薬をめぐって、大店の暖簾を守ろうとしていたのか、それとも…。親と子の、わだかまりと情を描き尽くす市井小説の名品。
(紹介文より)

―――いずれ、江戸を離れるので、なおさら、帰らぬ幼い日々が懐かしくなるのかもしれない。自分にとっていい思いでは、いつも身近に引き寄せておきたいと思うのかもしれない。
―――「俺から見りゃあ、そっくりよ。ふたりとも、真面目すぎるんだ。自分を曲げないから、取り返しのつかないことになっちまう。相手を思っているのに離れてしまう。意地を張るのはやめにしな。他人の意見もたまには聞くもんだぜ。」
「・・・・・・へい」
「俺も偉そうなことは言えねぇんだ。いや、自分のことじゃねぇから、言えるのかもしれねぇ。しくじった者でないとわかんねぇものさ」
―――
冬枯れの木々が、雪を含んだ厚い雲に手を伸ばしていた。
その枝は小さく芽吹き始めていた。





《内容》
跡継ぎになることを期待されながら父利兵衛に近づけず、反発し、離れていった。あの日から十年、長男の伊佐次はすっかり変わり果てた父とすれ違う。父は万能薬という触れ込みの妙薬をめぐって、大店の暖簾を守ろうとしていたのか、それとも…。親と子の、わだかまりと情を描き尽くす市井小説の名品。
(紹介文より)

―――いずれ、江戸を離れるので、なおさら、帰らぬ幼い日々が懐かしくなるのかもしれない。自分にとっていい思いでは、いつも身近に引き寄せておきたいと思うのかもしれない。
―――「俺から見りゃあ、そっくりよ。ふたりとも、真面目すぎるんだ。自分を曲げないから、取り返しのつかないことになっちまう。相手を思っているのに離れてしまう。意地を張るのはやめにしな。他人の意見もたまには聞くもんだぜ。」
「・・・・・・へい」
「俺も偉そうなことは言えねぇんだ。いや、自分のことじゃねぇから、言えるのかもしれねぇ。しくじった者でないとわかんねぇものさ」
―――
冬枯れの木々が、雪を含んだ厚い雲に手を伸ばしていた。
その枝は小さく芽吹き始めていた。




