遺伝屋ブログ

酒とカメラとアウトドアの好きな大学研究者です。遺伝学で飯食ってます(最近ちょっと生化学教えてます)。

山廃の味

2008-03-11 23:17:55 | 
お酒は麹(こうじ)と『もと』(『もと』は酉へんに元)で醸します。麹は分かりますね?『もと』は『酒母』ともいいます。単純に前者は麹カビで後者は酵母と考えてもらえばいいんですが、まあ菌学の知識のない時代からの技術ですからそんな厳密でもないんです。麹の中には麹カビだけで酵母がいないかというとそうでもないんですな。でも、今はちゃんと区別して仕込んでるはずですよ。
蒸してグジュグジュにした米を麹で糖化して酵母をぶち込めば醗酵の準備は済みそうなもんですが、昔はそうは行きません。米を蒸して水と麹を混ぜてすりつぶして粥状にするとでんぷんが糖化されて酵母が増えます。こうして『もと』が出来ます。その前段階では乳酸菌がpHを酸性にして雑菌の増殖を抑えてくれてます。このように、いろんな微生物を上手く使い分けて醗酵を行う『並行複醗酵』が日本の醸造技術のすごいとこなんですよ。ビールもワインも酵母しか使ってないでしょ?!
さて、上記の米を粥状にすりつぶす工程を『山卸(やまおろし)』といいます。精米技術が発達するとこの工程が要らなくなるので、山卸を廃止した『もと』が造られるようになりました。これが『山廃』。Wikipediaによると明治時代に確立した技術とのことですが、僕は江戸時代に出来たと大学の講義で学びました。技術の原形はその頃にあったということなんでしょう。とにかく、清酒醸造の中で山廃というのは別に古い技術ではないんです。だから「古来から伝統の山廃仕込み」なんてことが日本酒のラベルに書かれていたら、せせら笑ってやってください。
さて、山廃の酒なんですが、僕はあまり好きではありませんでした。まろやかさがないというか乱暴なのが多い。代表的なのが天狗舞の山廃吟醸。いや、悪い造りじゃないんですよ。美味しいんですが、僕の欲しいものがない。天狗舞は『美味しんぼ』という漫画で主人公が絶賛していた酒ですが、醗酵工学科の酒好き学生の間では全く受け入れられてませんでした。そもそもあの漫画ではお酒の知識に関して「?」な点が多い。
先日買ってきて飲んでる菊姫の山廃吟醸は僕の山廃に対する認識を一新してくれました。これは深い!確かに山廃特有のきつい味をさせているんですが、芳香がなんというか豊かですべて許してしまえるんですなぁ・・・って、長々と書いたわりに結局「菊姫は美味かった」というだけの結論でした。


本日のお酒:菊姫 山廃吟醸原酒
コメント
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