このブログを書き始めたのは、私が精神科医療の臨床の現場で働いていて、いくつか疑問を持っていたからです。
それは「正常とは一体何だろう?」という一点でした。
精神科救急や急性期病棟で働いていると、精神科医学や精神科看護学でいうような症状のある人が入院してくることは滅多にありません。
「滅多にない」というと語弊がありますが、教科書的な症状の人は「アルコール依存症や薬物依存」の人ぐらいなのです。
ですから、人間はほおっておいていきなりおかしなことを言い始める人はいないと分かっていました。
では、どんな人が入院してくるのかというと、圧倒的に多かったのが
「同居中の家族と揉め事を起こした人」
でした。
精神の正常とは?異常とは?一度考えてみてもらいたいと思います。
価値観の正常、異常とは?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以下精神病院入院事例)
「Aさん、高校入試を失敗し16歳から登校拒否になり、現在20歳、成人男性。
仕事もしないで、家でゴロゴロしている。
部屋から出てこず、1日中ゲームやネットをしており、
時々深夜に笑い声や誰かと喋っている様子だ。
夜中になるとコンビニに買い物に行くため金をよこせと無性してくる
ネットで買い物ばかりし部屋がダンボールだらけになっている
あまりに買い物するためカードを止めると、家の中でバットを振り回す。
先日、父親に注意してもらったら逆上して父親をバットで殴打して骨折させた」
ありがちじゃないですか?
さて、このような人が「脳機能に問題ある」と思いますか?
親のすねかじりしている、放蕩息子です。
しかし、精神科医はこの放蕩息子を
「引きこもっているのは、統合失調症の陰性症状かもしれませんね」
「妄想の世界で起こることを笑っていたり、幻聴と対話しているため独り言に聞こえるのかもしれません」
と診断し、統合失調症破瓜型疑いと診断し、
「息子さん、入院同意いただけますか?退院請求された場合、親御さんに再度ご来院してもらい書類手続きしてもらう必要があるため、今回は医療保護入院という形をとり、しっかりと治療してもらってはいかがですか?」
と提案し同意をとります。
そこで、どこかに精神科医は連絡し、もう一人の精神科医がやってきてAさんにいくつか質問をする。
指定医(精神保健指定医のXです。Aさん、どうして学校や働きにいかず毎日家で過ごしているんですか?)
A「はぁ?あんたには関係ないでしょ?親が悪いんですよ。
親が言った通りやってきてやったのに、この様です。」
指定医(何があったんですか?)
A「親が言う通りに高校受験したけど、第一志望高校に行けず、滑り止めの学校に入学したけど
学校に行っても楽しくない。結局、引きこもりになってこの様です。」
(やりとり続く)
指定医(…親御さん、Aさんはこのように話していますけど、いかがでしょうか?)
母「確かにそのようなことはありましたが、登校拒否になり引きこもりになってから、何か言うとすぐにかっとなって暴れるので、正直手が付けられず、滑り止めの高校でもいいじゃないか?とは伝えていたのですが…」
A「はぁ?無責任なこと言うなよ。
それがストレスだって言ってるんだろ?いい加減にしろよ、家帰ったら殺すぞ?」
指定医(まぁまぁAさん、お気持ちはわかりました。単刀直入に言うと、今Aさんの状態はあまり良くない。ですから、3か月程度入院して心を休める必要があると思います。いかがお考えですか?)
A「え、俺の頭がおかしいって言っているんですか?」
指定医(いえいえ、もし何らかの病気によるものだとしたら、早めに治療した方が良いと思いますので検査を含めて入院を提案しただけです。病気でなければ退院していただいて構わないので)
A「嫌です。俺はどこも悪くない」
指定医「そうですか、親御さん、どうされますか?お父様のご意見はどうお考えでしょうか?」
母「夫は仕事が忙しいため、Aの事にはあまり触れておらず。
ただ、できれば入院してしっかりと治療して、、、穏便に済ませて欲しいと言われてます」
指定医「Aさん、親御さんのお気持ちもありますので、少し入院して休みましょう
できればAさんから入院の同意をいただきたかったのですが、気持ちは変わりませんよね?」
A「当たり前じゃないですか?初対面のあなたに”病気かもしれない”って言われ納得できませんよ」
指定医「わかりました …では少しお待ちくださいね。(どこかへ電話している)
(初回のエス、医保です。念のため保護室スタートで。)
では、Aさんは診察室でお待ちください。
親御さんは、別室で入院書類の手続きと入院の説明をしますので職員が来次第、案内に従ってください」
(屈強な男性NS3名、女性NS1名が到着)
指定医「医保です。入院のご案内してください」
NS「こんにちはAさん、入院のご案内しますので一緒に行きましょう」
A「…」
NS「さぁ行きましょうか?」
A(診察室を飛び出して、玄関出口に向かって急に走り出す)
「嫌だ!!!」
NS「おい、ちょっと待て!」(全員で追いかけ、Aさんを取り押さえる)
「先生、どうしますか?」
指定医「とりあえず、診察室のベッドまで運んで、セレネース1A、生食10mlで希釈してIVしてください。睫毛反射なくなったらストレッチャーで搬送しましょう」
NS「セレネース1Aですね~」
「Aさん、お部屋に戻りましょう」
Aさんは、男性NS達に両脇を抱えられ診察室ベッド横になる。
抵抗しようとすると体幹と腕を抑えられ、静脈注射され、意識が遠のいていく
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(事例ここまで)
この後、Aさんは隔離室に運ばれ、医療保護入院という強制入院をさせられます。
薬物療法が始まりますが最初は拒否。
しかし「薬が内服できるようになったら退院しましょう」と主治医と約束し
「退院するため」というつもりで抗精神病薬を服薬開始します。
(その後、Aさんの精神機能にどのような変化が起こってくるのか?については、このブログの読者の方ならご想像できると思います)
※詳しくはこちらをご覧ください
「薬物療法で使われる『抗精神病薬』とは一体何なのだろうか?」2020年07月19日
「精神科医療は幻覚妄想はによって無意識のうちにあの世や霊界と繋がっていることを隠蔽している」2020年06月27日
【精神科医療とRAPT理論シリーズ】精神病、精神疾患、統合失調症は薬物療法・隔離収容によって作られる 2020年03月21日
Aさんはどこが悪かった、どこが病気だったのでしょうか?
これだけのやりとりを見ると「受験失敗したのを親のせいにして、引きこもりになってしまったこと」
だと想像がつくと思います。
しかし、Aさんばかりが悪いわけではありません。
明らかに「子育てに参加しないAさんの父親」
世間一般的な考え方通り「良い高校、大学に進学して大企業に就職させることが親の使命、子育ての正解」という価値観を持つ母親
という家庭環境の中で、受験失敗というイベントにより家庭が壊れてしまったことが問題なのではないでしょうか?
これを「Aさん一人、精神病とレッテル貼りして強制入院させて社会から隔離すること」で問題解決するでしょうか?
さて、このやりとりの後、Aさんにどのような診断が下されるのか?を「入院診療計画書」的に見ていきましょう。
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診断名:統合失調症
主症状:陽性症状 妄想、興奮、衝動的行動
陰性症状 自閉(長期間の引きこもり)
治療方針:入院見込み期間3か月
静かな環境での安静と、薬物療法、症状が落ち着いたら作業療法をしていきましょう。
処方:APZ10mg 朝、夕
ベンザリン VDS
不穏時:RIS 2mg 1日2回まで2H開けて
不眠時:RIS 1mg 2回まで
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そして、Aさんは本当に「脳機能に異常を来して病気になっていた、病気疑いがある」のでしょうか?
病気や障害は、家族や社会が生み出すのです。
(※詳しくは以下の記事をご覧ください)
「精神病→しつけ不十分症候群」 2019年07月07日 | 精神科看護
「教育に必要なものは”厳しさ”であり、”躾”されていなければ社会の荒波に飲まれてしまう」 2019年07月20日
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