JOEは来ず・・・ (旧Mr.Bation)

なんの役にも立たない事を只管シコシコと

「倫敦から来た男」

2010-02-25 | 映画(DVD)
「倫敦から来た男」2007年 ハンガリー/ドイツ/フランス 監督:タル・ベーラ

とある港町、毎晩ガラスの檻のような制御室から漆黒の港と駅を見下ろしている鉄道員のマロワン(ミロスラヴ・クロボット)。ある夜、彼はロンドンから来たブラウン(デルジ・ヤーノシュ)が殺人を犯した現場を目撃してしまう。そして、殺された男が持っていたトランクをマロワンが海中から見つけ出すと、中には大量の札束が入っていた……。

この作品はかなり体調が良い時でないと辛いのではないかという事で鑑賞が延び延びになっていましたが、イメージフォーラムのロングラン上映もそろそろ終わると言うので、体調にやや危惧がある(この日は軽い頭痛ね)のを押して見てきました。

思った通り、始まる早々これは睡魔との厳しい戦いになるであろうと身構える。

モノクロ、ノイズ付き、信じがたい長回し。
特に、通常ならカットとなる場面転換のシーンで景色や人物の姿をずーっと映し出している。これがイケナイ、眠くなる。
登場人物の心の内面を観客にイマジネーションさせる時間を与えるかのように長く長く映し続ける。これを眠さ堪えて眺めていると幻覚が見えてくる。港の景色が人物に変貌してきたり、初老の後姿の中に数匹の妖精が現われたり・・・

モノクロの光と影の使い方がとても素晴らしく、流石にジム・ジャームッシュあたりが影響を受けたと絶賛するだけの事はある映像作家タル・ベーラ。



睡魔を我慢して見ていると、この作品が単なる糞ゲージュツ映画ではない事がすぐに判明してくる。

ユーモアという一言では片付けにくい絶妙の可笑しみが良いのです。
娘を職場から強引に連れ去ろうとする時の女店主との格闘・・・。衣服を乱し呆然と立ち尽くす女店主・・・。その後ろで何やら叩いて料理仕事を始める使用人。

娘の毛皮を買いに行く店での凸凹店員のしゃべくり。

港の酒場で中年女を口説く男・・・。ビリヤード台の脇でシュールに踊る客・・・・。

そして、ふと油断していると忘れてしまうのですが、この映画、真面目に生きてきた男が偶然の目撃から道を踏み外してしまうサスペンスなんですよね。登場人物の心理を描くため数々の計算がなされているためとても質の高いサスペンスになり得ているようです。小屋の扉のみ写して中の様子は観客の想像に委ねる。この手法がラストの結末に絶大な効果を発揮する。

役者さんも渋め揃いで良いです。
ブラウンの奥さんの表情と老刑事(レーナールト・イシュトヴァーン) の台詞回しが印象的。

これはジョルジュ・シムノンの原作にも俄然興味が沸いてきます。
見た後に読む場合、大抵は良い結果をもたらさないものですが、この作品だけは見た後に読んでも期待を裏切らない・・・、何故かそんな予感がするんですね。

渋谷 シアター・イメージ・フォーラム

タル・ベーラのもう1本。「ヴェルグマイスター・ハーモニー」の方はスケジュール付きそうにもありません。今回は諦めます。

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