奈良公園の東側、北から若草山、そして春日大社の鎮座する御蓋山(三笠山)の南に、高円山(たかまとやま)という山があります。標高400メートルの穏やかな山です。この高円山の西麓にあるのが白毫寺です。
春日大社本殿から南へ、通称ささやきの小道と呼ばれる森の中の道を抜けると、光明皇后ゆかりの新薬師寺。ここから南東へ1キロほど歩きます。人家の並ぶ坂道を登りきったところに石段が見えてきます。
石段の両側は萩が生い茂っています。9月の花の季節には、さぞ見事だろうと思われます。そして、石段を登りきったところが白毫寺境内。
白毫寺本殿。真言律宗のお寺で、本尊は阿弥陀如来。建物は江戸時代に再建されたもの。白毫寺は715年、志貴皇子の死を悼み、父の天智天皇の勅願で、元の志貴皇子の山荘を寺にしたと言われています。
桔梗の花咲く中庭を抜けて、宝物殿に入ります。見所は、正面の須弥壇中央の平安末期~鎌倉期、定朝様式の阿弥陀如来、その右に、伝文殊菩薩、左に地蔵菩薩。何れも木像ですが、穏やかな表情に気品が感じられます。一方、左手の台には閻魔像、こちらはたいへん表情豊か。右手の台上には、鎌倉時代に白毫寺を中興した、西大寺の叡尊の老年の像が安置されています。
白毫寺境内から、奈良盆地を見下ろします。遠くの山並みは左手が葛城山、中央が二上山、右手は信貴山から生駒山。ここは奈良盆地の東の端を縫って走る山辺の道の北端に当たります。
近鉄奈良駅から、春日大社、新薬師寺と通って白毫寺まで。約5キロのコースです。
次回は是非秋の萩の花が見頃の時期に来たいものです。万葉集、笠金村の詩、
高円の野辺の秋萩いたづらに
咲きか散るらむ見る人なしに
朝早く、人気の無い時間に訪れれば、この詩の雰囲気に浸れるのではないかと思います。