復讐戦
6分の糸がやっと届いた、待つ間の長かったこと、道具を付け替える間もモドかしく、エサつけもそこそこに今度こそ来たれ、なげこむ。
竿を連隊旗よろしく垂直に立て、それを両腕で抱き込むように抱えたまま座り込むと、途端にアタリが来ていきなりグイッと竿を半円にシメ込んだ。
それからはもう何が何だか分からない、幾度も幾度も根本から腰を垂直に曲げた竿が甲斐性もなく岩にへばりつくのを、必死に耐えて引き起こし、やっと強引にギリギリと巻き上げると、流石は6分、ササラになりながらも水中の怪物を引き上げてきた。
水面に浮かすとバカでかい口白、1貫八百はあろうという代物だった。
ハアーハアーと方で息を切りながら、続いて前と同じ要領で抛り込むとまた来た。
こいつも凄い、後はもうサッパリ意識もなく、夢中になってこの重労働に従事した。
取り込んだのは全部で6枚だったが、その間2寸のハリがアメのように伸びて外れたのが2回折れたのが1回、どうしても竿が立たずワイヤーが切れたのが3回で、計6回
いくら釣ってもバラしても北鮮軍の人海作戦よろしく、後から後から新手、新手と食いついて来る。
そしてこの悪戦苦闘に流石の6分もハエズレの連続で、
しまいには3分か2分の細さに痩せ細る凄まじさ、これはもう釣りを楽しむという段階からほど遠い、重労働であった。
午後2時頃急にアタリが遠のいた、底潮でもかわったのか、朝の8時からアタリずめに当たっていたのが嘘のように、ピタリと食わなくなった。
私は岩の上にひっくり返って、長々と伸びた、疲労カンパイ、もうモノを言う気力もなかった。
考えれば真夏のように照りつける南海の直射日光の下、昼食も摂らずに、6時間余りも格闘
していたのだ、グッタリと精魂尽きるのも無理はない。
あちらの岩の上で、船頭氏が面白い釣り方をしているのが私の視野に入った。
海に突き入れた 竿にその時ちょうどアタリがあつたらしく、彼は矢庭にさっと後ろに引いた
竿を立てて合わせるのではない、そのままの格好で、魚に引くだけ引かせておもむろに
竿を持ったまま、後へあとずさってハエを登る。
そこで竿をたぐり、ワイヤーに手が届くと、後はそれをつかんで引き上げた、簡単ことは
簡単だが、これではワサ釣りの豪快さは味わえない、船頭氏が釣ったのは後にも先にも
この1枚だけだった。
しかし私の戦果も、6枚はとったものの、10枚もバラしているのだから決して褒められたものではない、むしろ私の技術の未熟さを露呈した完敗というべきだろう。