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映画『東京家族』について

映画 『東京家族』  優しいひかりに満たされました!(その5)  『北の国から』

2013年03月24日 | 映画『東京家族』

 “ 走る列車内


     ゆられている五郎の顔。
     
     ―しばらく。

  螢の声 「川!」

     五郎、ぼんやり螢を見る。

     窓外を見る。

     流れている川。

  五郎 「(ボソリ)空知川だよ」

  語り 「恵子ちゃん。お見送りありがとうございました」

     じっと窓外を見つめている純。

     列車の走行音。

  語り 「北海道に。―今日、着きました」

     音楽―テーマ曲。イン。

     タイトル流れて。 ”      『北の国から』 倉本聰




 中嶋朋子といえば、やはり、どうしても、螢ちゃんである。
 彼女は山田監督作品には、初めての出演であるが、「純くん」である吉岡秀隆は、『男はつらいよ』の満男役の他、いくつもの映画に出ている。私にとっては、後期の『寅さん』で、徳永英明の歌とともに展開される、所謂「満男シリーズ」や、『学校Ⅱ』が、とくに印象深い。

 さて、『東京家族』において、『北の国から』を、さりげなく暗示させる箇所がある。それを確認する為にも、もういちど劇場へ観に行きたかったのだが、近くの映画館での上映は終了してしまっていたので、DVDを待つしかないが、たしか、映画の背景に、「五郎」という名前の店の看板が映るはずである。
「五郎」はもちろん、純と螢の父、田中邦衛。

 ここまで想起すると、私には、『学校』のいくつものイメージが押しよせて来る。田中邦衛の「イノさん」!
この名前は、本多猪四朗(ほんだいしろう)監督の、愛称も思い出されるが、私の仮説としては、英語の「innocent」に関係するのではないかと考えている。


 「innocent」 形容詞 1、清浄な、無垢の、純潔な、/ 罪のない、潔白な、無責任の、/ 無辜の、/ 公認の、合法的な
            2a、無邪気な、あどけない、/ 無邪気(あどけなさ)を装った
            b、お人よしの、/ 無知な、/ ~に気づいていない
            3 無害な、/ <病気などで> 悪性でない、無害(性)の

        名詞  1、潔白な人、/ 無邪気な子供、お人よし、/ ばか、/ 新参、新前
            2、【植物】 トキワナズナ                       『リーダーズ英和辞典』


 それと、今日(2013.3.24)の『東京新聞』に、来週から、中江有里が、「読書欄」に執筆すると予告が出た。彼女の『学校』においてのラストシーンは、とくに、忘れられない。

 このように記述していくと、永遠に終わらないので(笑)、今日のブログの主文は、田中邦衛を想起した所までとしたい。

 次回は、横浜のホテルのシーンを、違う角度から、考察する。 

                                 

 

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映画 『東京家族』  優しいひかりに満たされました!(その4)  『第三の男 THE Third Man』 (3)

2013年03月20日 | 映画『東京家族』
 観覧車の場面を続ける。このブログの“その2”で、シナリオの一部を引用した。実際の映画を観た方は気付かれたと思うが、シナリオとは少し違っている。台本と、完成した作品のあいだにあるものこそ、俳優と各技術者たちが情熱を注ぎ込んだ、映画を映画たらしめている魂の、核心部分である。この場面のオーソン・ウェルズは、まさに映画演技のお手本のようだ!
 
 先に引用した本、『和英対訳 映画文庫 第三の男』(小林庸浩 訳注)には、シナリオの他、巻末に、完成した映画の対話も掲載されている。それで観覧車の場面を追ってみよう。

 「ハリー・ライムのテーマ」が流れるなか、マーティンズ(以下MA)が待つ観覧車乗り場に、ハリー(以下HA)がやって来る。

HA: Hallow, old man. How are you?

MA: Hallow, Harry.

HA: Well, well, they seem to 've been giving you quite some busy time.

MA: Listen…

HA: Yes.

MA: I want to talk to you.

HA: Talk to me…? Of course… Come on… (ハリーは観覧車の係の女性にお金をつかませ、前後の箱を開けて、ふたりで話せる環境を作るこつを心得ている。)

HA: Kids used to ride this thing a lot in the old days. They haven't got the money now, poor devils.

係の女性: Zwei Stück. (ドイツ語)

HA: Geht in Ordung? (〃)

係の女性: O! Vielen danke.(〃)

MA: Listen, Harry―I didn't believe it… (音楽 out)

HA: It's good to see you, Holly.

MA: I was at your funeral.

HA: It was pretty smart, wasn't it? Oh, the same old indigestion,Holly… these are the only things that help―these tablets. These are the last.
Can't get them anywhere in Europe anymore.

MA: Do you know what's happened to your girl?

HA: Hmm.

MA: She's been arrested.

HA: Tough… tough… Don't worry, old man. They won't hurt her.

MA: They are handing her over to the Russians.

HA: What can I do, old man? I'm dead, aren't I?

MA: You can help her.

HA: Holly, exactly who did you tell about me? Hmm?

MA: I told the Police…

HA: Unwise, Holly.

MA: And―Anna…

HA: Unwise… Did the police believe you?

MA: You don't care anything at all about Anna, do you?

HA: Ah, ha, ha. I've got quite a lot on my mind.

MA: You wouldn't do anything.

HA: What do you want me to do?

MA: You can get somebody else…

HA: Do you expect me to give myself up?

MA: Why not?

HA: It's a far far better thing that I do with the old limelight… the fall of the curtain of… oh, Holly, you and I aren't heroes. The world doesn't make any heroes…


 この後、緊迫した場面に続き、前出のシナリオの部分になるが、今回は、『ライムライト』が、チャップリンの後期作品でもあることだけを想起しておく。
 シナリオとの異同も含め、『第三の男』にも、もういちど回帰して論じるが、次の視点に進む。 






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『東京家族』 優しいひかりに満たされました!! (その1)

2013年03月17日 | 映画『東京家族』
 順序が逆になってしまったが、「映画.com」のレビュー欄に投稿した、2月3日付けの文章を、再録しておく。


“「事実」はそのままの形では単なる日常経験の範囲を出ない一時的な現象であり、普遍性もなく、従つて形而下的な経験たるにすぎないものだが、「真実」は普遍的であり、現実の圏内を越えた形而上の真理の世界に属するものである。簡単に云えば「事実」は経験するものであり、「真実」は直観するものだとも云えよう。(中略)従つてその印象性においては「事実」の方が強く、その浸透性においては「真実」の方が強いと云えるかも知れない。” 『シナリオ構造論』 野田高梧

 映画館へ行くと、本編が始まる前に、いろいろな映画の予告編や、携帯電話の電源を切るようになどと注意する映像が流れる。これらの映像のあとの『東京家族』の最初の風景、東京郊外の住宅地の坂道が、なんとやわらかく優しいことか!この場所は確かに、2012年5月の「東京」であるけれど、「虚構の真実」に包まれ、満たされる思いがするのは、この映画がfilmで撮られたことに、はっきり関係するのだろう。

 『東京家族』は、小津安二郎監督に捧げられた映画だが、ここでひとつ想起されるのは、2003年に「小津安二郎生誕100年記念」として制作された、侯孝賢監督の『珈琲時光』である。『珈琲時光』は、台湾の侯監督が、小津監督を敬愛する幾人もの日本の監督の作品を引用する事によって、間接的に「小津安二郎」を照射するという構造をもった作品だったが、その日本人監督たちの筆頭にくるのが、山田洋次監督である。
 今回、山田監督は、あの時の侯監督の映画に呼応して、更に、真正面から小津安二郎監督に向かい合ったのが、この『東京家族』だと、私は思っている。

 “兄妹”の配役で、驚いたのは、中嶋朋子が杉村春子だったことだ(笑)。
 そして、現代の「原節子」の山田監督の答えが、蒼井優。おふたりとも、ほんとうに、素敵だった!

 横尾忠則氏の原色が輝かしい鳥と男のポスターを、いつか私も部屋に貼っていた事を思い出したように、山田監督の映画には、細部にたくさんの想いや物語が織り込まれているので、私も今回、そのいくつかに気付いたし、たくさんの他の細部には、気付けなかった。なぜなら、涙でスクリーンが見えない場面も多かったから。
 それは、もういちどこの映画を観に行ってから、別の場所に書くとして、最後に、『東京家族』に関わったすべてのみなさま、すばらしい映画を、ほんとうにありがとう!!

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映画 『東京家族』  優しいひかりに満たされました!(その3)  『第三の男 THE Third Man』 (2)

2013年03月17日 | 映画『東京家族』
映画『第三の男』、観覧車の場面。
ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)が発する言葉、「limelight」も、もうひとつのキーワードだと思う。

これについては、稿を改めて論じるが、読者のみなさんの中には、私たちの映画の見方が、あまりにも、深読みのしすぎだと思われる方もいるかもしれない。それへの反証として、『東京家族 パンフレット』から、この映画の美術を担当された、出川三男(でがわみつお)氏のインタビューの一部を、再録したい。

―『東京家族』を観て、劇中の家屋などほぼ全てがセットであることに気付く観客はそうそういないことでしょう。山田組の美術スタッフの実力に改めて感服いたします。

「監督の意図に沿う画を撮るためには、やはりロケではなくセットを組んだほうがいい。私たちにとっては当たり前のことですね。」

―横浜のホテルの部屋も、板橋の居酒屋もセットです。

「私たちは常に台本を読んで芝居をどう撮るかということを考慮しながら、セットを建てる。今の日本映画界でそれができるというのは、ありがたいことだと思います。ホテルの部屋の窓から見える景色はCG合成ですが、あのシーンにしてもセットで撮らないとああいう自然なアングルにはならない。また居酒屋のシーンは山田さんが訴えたいところだし、これもまた狭苦しい空間の居酒屋にしています。」

ほんもののプロフェッショナルは、さらりと「当たり前」という言葉を使う。
こうして、たくさんの人たちが、画面の隅々に至るまで、心を配ってつくられた一本の映画は、いくら読んでも、読みつくせない世界が宿っている。出川氏は、小津監督の『お早よう』(1959)にも、美術助手として、参加された方である。

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映画 『東京家族』  優しいひかりに満たされました!(その2)  『第三の男 THE Third Man』 (1)

2013年03月12日 | 映画『東京家族』
 横浜へ行った(行かされた)夫婦(橋爪功、吉行和子)が、窓から大きな観覧車が見える、高級なホテルの高層階で、いつか、ふたりで観た映画『第三の男』を思い出す。

 山田洋次監督が、ここで、なぜ『第三の男』を引用したのか、まず、その理由をこの稿では考えてみたい。

 『第三の男 THE Third Man』。1949年度、キャロル・リード監督作品。この年の小津安二郎監督は、『晩春』を撮っている。それから毎年、『宗方姉妹』(1950)、『麦秋』(1951)、『お茶漬けの味』(1952)と撮り続け、『東京物語』(1953)に至る。

 では、『第三の男』の舞台、オーストリア、ウィーンの、1949年前後は、どういう状況だったのでしょうか?

 “1938年以来ドイツに吸収されていたオーストリアは、(敗戦後、)ドイツと切り離されて4連合軍(米・英・仏・ソ)の共同管理下におかれたが、ウィーンの中央政府に大はばな自治権が与えられていた点でドイツとはことなる。冷戦下の困難な状況にあって、オーストリア政府はソ連圏へ吸収されることも東西に分裂することもなく、4占領国とのねばり強い交渉の結果、1955年5月の国家条約で独立を回復した。さらに同年10月、オーストリア議会はソ連の不安をのぞくために、いかなる軍事同盟にも加わらない永世中立を宣言し、これを憲法的条項とした。”『詳説 世界史研究』木下康彦、木村靖二、吉田寅編

 この状況を、1949年度の作品『第三の男』は、映画の冒頭で活写し、そのスピードで、物語に引き込む。原作・脚本のグレアム・グリーンによるシナリオを、和英対訳で冒頭部を追ってみよう。なお、主要キャストは、ホリー〔ロロ〕・マーティンズ→ジョセフ・コットン アンナ→アリダ・ヴァリ そしてハリー・ライム→オーソン・ウェルズ。 

 開巻、鐘の音のクレジットに続き、映画音楽史上、最も愛された曲のひとつ、アントン・カラスの、ツィター、ハリーの性格を予感させるような諧謔を、アンナの秘めた憂愁の美しさを、こめてうたう弦の音楽―
 
“VOICE over: I never knew the old Vienna before the war,
 声(かぶさる)私は戦前のウィーンをまったく知らない。

 with its Strauss music, its glamour and easy charm―
 あのシュトラウスの音楽も、華やかさも、気やすい魅力も知らない―

Constantinople suited me better.
私には、コンスタンチノーブルの方が肌に合う。

 I really got to know it in the classic period of the Black Market―
 私が本当にウィーンを知るようになったのは、闇市の全盛時代だ―

 shot of boots and stockings changing hands―
 (長靴と長靴下とを物々交換している場面の実写)―

 we'd run anything, if people wanted it enough and had the money to pay.
もし市民に十分買う気があり、支払う金さえあれば、どんな商売だってやれただろう。

 Of course, a situation like that does tend to amateurs―
 もち論、そんな状況も素人に資することがあるにはある―

 Shot of a body floating in an icy river―
 (冷たい川面に死体が浮かんでいる場面の映写)―

 but you know they can't stay the course like a professional.
まあ、しかし、玄人のようには商売を続けていけないもんです。

 Shot of a poster: YOU ARE NOW ENTERING AMERICAN ZONE.
(もうここはアメリカ地区です と書かれているポスターの映写)

 Now the city is divided into four zones,each occupied by a power―
 さて、市は現在4地区に分割され、その各地区は―

 Shots of British,Russian and French posters―
 (英語、ロシヤ語、フランス語のポスターの映写)―

 the Americans, the British, the Russians and French.
 アメリカ、イギリス、ロシヤ、フランスの軍隊に占領されている。

 But the centre of the city―
 しかし、市の中心部は―

 that's international, policed by an International Patrol.
 国際的で、国際パトロール隊が取り締まっている。

 Shot of guard duty being changed.
 (警備勤務交替の場面の映写)

 One member of each of the four powers.
 それは上記の各4ヵ国軍から1名ずつの人員で構成されているのだが。

 What a hope they had, all strangers to the place and none of them could speak the same language, except for a sort of smattering of German.
 いったい何を見込んでのことだろう。皆、ここでは外国人で、まあ、片言のドイツ語を喋る以外は、別の言語を話している。

 Shot of jeep-load of mixed guards, all silent.
 (皆、押し黙ったままジープに相乗りさせられている混成隊の映写)

 Good fellows on the whole, even if it doesn't look any worse than a lot of other European citys, bombed about a bit…
 でも結構よろしくまとまっている。ウィーンの姿は、他のヨーロッパ諸都市に比べてさして変わりはない、少々爆撃されてはいるが…

 Oh wait, I was going to tell you―
 あ、そうそう、私がいおうとしたのは―

 Shots of bomb-sites―
 (爆撃で破壊された建物の残骸の映写)―

 I was going to tell you about Holly Martins from America―
 アメリカからやってきたホリー(ロロ)・マーティンズのことだったんです― ”『和英対訳映画文庫 第三の男』小林庸浩 訳


 ここから物語は始まっていくが、先に私は、「グレアム・グリーンのシナリオ」と書いたが、グリーンのシナリオは、この少し先に、マーティンズがパスポートの提示を求められる場面が「シーン1」になっているので、この導入部は、キャロル・リードが、当時の現実のウィーンの状況を映し出し、物語の生まれる土壌としたのかもしれない。いずれにしても、音楽とともに、忘れられない、映画のファーストシーンだ。


 さて、ここまでで、『第三の男』の時代背景が、やや解ってきた。『東京家族』は、2013年度の作品だが、物語は2012年の5月。つまり、時代の状況は、2011年3月の大震災と、1Fの原子力事故の1年あまり後。
 ここで、『第三の男』の観覧車の場面を引用した理由は、以下のシナリオを読むと明らかになって来る。特に、私には、原子力事故とその後の日本社会の動きが強く、連関して想起される。


 (シーン)114. GREAT WHEEL

MARTINS: Have you ever seen any of your victims?
(HARRY takes a look at the toy landscape below and comes away from the door.)

HARRY: I never feel quite safe in these things.(He feels the door with his hands.)
Victims? Don't be melodramatic. Look down there.

 115.TOP SHOT FROM GREAT WHEEL:

(He points through the window at the people moving like black flies at the base of the Wheel.)

116.GREAT WHEEL

HARRY: Would you really feel any pity if one of those dots stopped moving for ever?
If I said you can have twenty thousand pounds for every dot that stops,would you really, old man,tell me to keep my money―
    or would you calculate how many dots you could afford to spare?

  
 
 

 
 
 

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