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映画『東京家族』について

柿本人麻呂 「水底の歌」

2016年09月15日 | 映画『東京家族』
(223)鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ 人麻呂

(224)今日今日と我(あ)が待つ君は石川の峡(かひ)に交じりてありといはずやも 依羅娘子(よさみのをとめ)

【峡(かひ)】→ 原文「貝」
http://www.berrys-cafe.jp/pc/book/n684490/31/


(225)直(ただ)の逢ひは逢ひかつましじ石川に雲立ちわたれ見つつ偲はむ 依羅娘子

(226)荒波に寄り来る玉を枕に置き我ここにありと誰(たれ)か告げけむ 丹比真人(たぢひのまひと)

(227)天(あま)ざかる鄙(ひな)の荒野(あらの)に君を置きて思ひつつあれば生けるともなし (作者未詳)


『万葉集(一)』 岩波文庫









【2016.9.18 追記】
(223)Arthur Waley 訳
Perhaps my Sister does not know that I am prostrate on the rock-peaks of Kamo Mountain and may be keeping on waiting for me.


寧楽宮(ならのみや)
(228)妹が名は千代に流れむ姫島の小松がうれに蘿(こけ)生(む)すまでに

(229)難波潟潮干(しほひ)なありそね沈む沈みにし妹が姿を見まく苦しも

(230)梓弓 手に取り持ちて ますらをの さつ矢手挟(たばさ)み 立ち向かふ 高円(たかまと)山に 春野焼く 野火と見るまで 燃ゆる火を 何かと問へば 玉鉾(たまほこ)の 道来る人の 泣く涙 こさめに降れば 白たへの 衣ひづちて 立ち留まり 我に語らく なにしかも もとなとぶらふ 聞けば 音(ね)のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き 天皇(すめろき)の 神の皇子の 出でましの 手光(たひ)の光そ ここだ照りたる

(231)高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに

(232)三笠山野辺行く道はこきだくもしげく荒れたるか久にあらなくに

萬葉集巻第二



【2016.9.19 追記】
(220)玉藻(たまも)よし 讃岐の国は 国からか 見れども飽かぬ 神(かむ)からか ここだ貴(たふと)き 天地(あめつち) 日月(ひつき)と共に 足り行かむ 神の御面(みおも)と 継ぎ来たる 中の湊ゆ船浮(う)けて 我が漕ぎ来れば 時つ風 雲居(くもゐ)に吹くに 沖見れば とゐ波立ち 辺(へ)見れば 白波さわく いさなとり 海を恐(かしこ)み 行く船の 梶(かぢ)引き折りて をちこちの 島は多けど 名ぐはし 狭岑(さみね)の島の 荒磯面(ありそも)に 廬(いほ)りて見れば 波の音の しげき浜辺(はまへ)を しきたへの 枕になして 荒床(あらとこ)に ころ臥す君が 家知らば 行きても告げむ 妻知らば 来(き)も問はましを 玉鉾(たまほこ)の 道だに知らず おほほしく 待ちか恋ふらむ 愛(は)しき妻らは

(221)妻もあらば摘みて食(た)げまし沙弥(さみ)の山野の上(うへ)のうはぎ過ぎにけらずや

(222)沖つ波来(き)寄る荒磯(ありそ)をしきたへの枕とまきて寝(な)せる君かも


“われわれは古人と必ずしも別の世界に住んでいるわけではない。”  ―『水底の歌』 梅原猛



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Arthur Waley 訳 『万葉集』

2016年09月12日 | 映画『東京家族』
ŌTOMO NO KATAMI (698)
①春日野に
②朝居る雲の
③しくしくに
④我は恋ひまさる
⑤月に日に異(け)に
③With a spreading and spreading
②(Like that) of the clouds that sit at morning
①On the moor of Kasuga, ―
④I increase in my love
⑤In the lapse of months and days.

ANON. (1179)
家にして
我は恋ひむな
印南野の
浅茅(あさぢ)が上に
照りし月夜(つくよ)を
②Shall we make love
①Indoors
⑤On this night when the moon has begun to shine
④Over the rushes
③Of Inami Moor?

THE LADY OF SAKANOYE (1500)
夏の野の
繁みに咲ける
姫百合の
知らえぬ恋は
苦しきものそ
④Unknown love
⑤Is as bitter a thing
③As the maiden-lily
②Which grows in the thickets
①Of the summer moor.

HITOMARO (1879)
春日野に
煙(けぶり)立つ見ゆ
娘子(をとめ)らし
春野(はるの)のうはぎ
摘みて煮らしも
①On the moor of Kasuga
②The rising of smoke is visible
③The women surely
④⑤Must have plucked lettuces on the spring moor and must be boiling them.

HITOMARO (1983)
人の言(ごと)
夏野の草の
繁くとも
妹と我とし
携(たずさ)はりなば
(What) though men’s words will flourish like the grass of the summer moor―
If my Sister and I walk hand in hand!

HITOMARO (2203〔誤植〕→ 2103)
秋風は
涼しくなりぬ
馬並(な)めて
いざ野に行かな
萩の花見に
①The autumn wind
②Has grown cold;
③Bridle to bridle
④Come! Let us go to the moor
⑤To the flower-viewing of the lespedeza!





『Japanese Poetry: The ‘Uta’』 Arthur Waley (BiblioLife)










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『堀河院百首和歌 お題 「述懐」』 源俊頼

2016年09月04日 | 映画『東京家族』
最上川 瀬々の岩角 わきかへり 思ふ心は
多かれど ゆくかたもなく せかれつゝ 底の水屑と
なることは 藻にすむ虫の われからと 思ひ知らずは
なけれども いはではえこそ なぎさなる かたわれ舟の
埋もれて 引く人もなき 嘆きすと 浪の立ち居に
仰げども むなしき空は みどりにて いふ事もなき
かなしさに 音をのみ泣けば 唐衣 おさふる袖も
朽ちはてぬ 何事にかは あはれとも 思はん人に
近江なる 打出の浜の うち出でて いふとも誰か
さゝがにの いかさまにてか かきつかん ことをば軒に
吹く風の はげしき比(ころ)と 知りながら うはの空にも
教ふべき 梓の杣(そま)に 宮木引き 御垣(みかき)が原に
芹摘みし 昔をよそに 聞きしかど わが身の上に
なりはてぬ さすがに御世の はじめより 雲の上には
通へども なにはの事も 久方の 月の桂し
折られねば うけらが花の 咲きながら ひらけぬ事の
いぶせきに 四方の山べに あくがれて このもかのもに
たちまじり うつぶし染めの 麻衣 花の袂に
ぬぎかへて 後の世とだに 思へども 思ふ人々
ほだしにて 行べきかたも まどはれぬ かゝる憂き身の
つれもなく 経にける年を 数ふれば 五(いつゝ)の十に
なりにけり 今行末は 稲妻の 光の間にも 
さだめなし たとへばひとり ながらへて 過にしばかり
過ぐすとも 夢に夢見る こゝちして 隙(ひま)行(ゆく)駒に
ことならじ 更にもいはじ 冬枯れの 尾花が末の
露なれば あらしをだにも 待たずして 本(もと)の雫と
成はてむ ほどをばいつと 知りてかは くれにとだにも
沈むべき かくのみつねに あらそひて なほ古郷に
住の江の 潮にたゞよふ うつせ貝 うつし心も
失せはてて 有(ある)にもあらぬ 世の中に 又何事を
み熊野の 浦の浜木綿(はまゆふ) 重ねつゝ 憂きにたへたる
ためしには 鳴尾の松の つれづれと いたづらごとを
書きつめて あはれ知れらん 行末(ゆくすゑ)の 人のためには
おのづから しのばれぬべき 身なれども はかなき事を
雲鳥の あやにかなはぬ くせなれど これもさこそは
みなし栗 朽葉が下に 埋もれめ それにつけても
津の国の 生田の森の いくたびか 海人(あま)のたく縄
くり返し 心にそはぬ 身を恨むらん

  反歌
世中(よのなか)は浮(うき)身にそへる影なれや思ひ捨つれど離れざりけり



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【和漢朗詠集 「眺望」】
風飜白浪花千片 雁點淸天字一行 白








〔2016.9.7 追記〕
【散木奇歌集第五 祝部】

君がためみたらし川をわか水にむすぶや千世のはじめなるらん

おちたぎつやそうぢ川のはやき世にいはこす波はちよのかずかも

君が代のためしにひかんかすが野はいしのたけにも花さきにけり

あゐよりもあをくそめなす色もあればちとせの宿に万代をませ

曇なくとよさかのぼるあさひには君ぞつたへん万代までも

ときはなる竹の都の君なればうれしきふしをかぞへてぞやる


草の葉に風おとづれて夜とともに涙すすむる秋の空かな


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