紅夜叉は利用された

ゴングの音色も掻き消される騒ぎの中、再び神取と北斗がリング上で対峙した。
神取が挑発するように北斗の負傷した左肩に目をやる。
明らかに負傷個所を狙っている対戦相手に北斗はムキになって飛び掛った。
北斗が奇声を発し神取をスリーパーに捕らえ力任せに振り回す。
もう勝負が決したように観客が異様な盛り上がりを見せた。
投げ捨てられた神取が獣の目付きで北斗をコブラクラッチで振り回す。
開始早々喧嘩腰でやり合う中、北斗の額から大量の出血か流れ出す。
憎々しげに神取を睨みつける北斗に神取が何発もキックを突き込んで行く。
一気にたたみ掛けようとイーグルも現れヘッドバットを見舞う。
フラフラになった北斗を再び神取が関節地獄へと引きずり込む。
北斗の悲鳴が館内に響き渡り、たまらずアジャが救出に入った。
負傷個所を狙いつづけるＬＬ軍にアジャの怒りが爆発する。
挑発するように自ら四つん這いの体勢で神取の関節技を誘う。
女子プロ最強と呼ばれた神取の実力を測る絶好の機会であった。
しかし神取の意識にはＷＷＷＡ世界王者のアジャ・コングは無かった。

四つん這いのアジャを睨みつける神取の視線は何故か冷たかった。
神取は挑発をすかす様にリングに座り込みヘッドバットを突き込んだ。
自分の誘いに乗って来ない神取にアジャは少し失望していた。
ヘッドバットの打ち合いをを制するとアジャは神取に猛攻を仕掛けた。
掌打のラッシュから後頭部への裏拳と打撃技で神取を圧倒した。
全女軍が神取をプロレス技で面白い様に翻弄して行く。
初タッグを結成したアジャと北斗の連携に神取がプロレスでの底の浅さを露呈した。
そして神取のピンチにイーグルがその実力を存分に発揮した。
持ち前のパワーでアジャと互角以上に渡り合い歓声を浴びる。
北斗を軽々と抱えあげバックブリーカーで自らのヒザに突きつける。
イーグルの猛攻を楽しむようにアジャも世界王者としてプロレスを展開した。
その中、神取はひたすら執拗に北斗の左肩を狙い続けていた。
アジャと観客の意識がイーグルに集中している最中であった。
リング中央で神取のアームブリーカーが完璧に北斗を捕らえた。
場外で北斗の悲鳴を聞きつけたアジャをイーグルが巧みにカットする。
北斗は断末魔の叫びを上げ、見た事の無い光景を目にしていた。
自分の肘がすぐそこまで接近していたのである。
神取が鬼の形相で北斗の悲鳴と関節の軋む音を搾り出す。