和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

【SS】魔法使い

2010-09-25 16:38:37 | 小説。
魔法使い、というモノは確かにいて。
それは決して万能ではないのだけど、通常の理屈では説明のつかないことをやってのける。
不思議で不気味で、よく分からない存在。

例えば、僕は幼い頃ひとりの魔法使いに出会ったことがある。
当時小学校でいじめを受けていた僕は、登校するのが嫌で公園でひとり時間を潰していた。
そんな僕に、彼は声をかけてきたのである。
風貌はどう見ても普通のサラリーマン。
今思えば、いい大人が仕事もせずにそんな場所にいたこと自体不思議だ。
公園のベンチでぼんやりしている僕に、彼は声をかけてきた。

「どうした、学校行かなくていいのか?」

大人に声をかけられることなどそうそうなかったので少々面食らったが、嫌な気分ではなかった。
「・・・学校行っても、いじめられるだけだから」
僕は、わざと聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。
「そーかそーか」
そんな小さな声を、彼はすんなりと聞き取る。
「俺も昔いじめられてたっけなー。今も昔も変わらんもんだ」
ははっ、と妙に感慨深そうに笑う。
その皮肉めいた口調が、妙に耳に残っている。
そして彼は、こう続けたのだ。

「じゃあ、おっさんが何とかしてやろう」

名も告げず、名も聞かず。
学校名すら分からないはずなのに。
彼は当然のように言ってのけた。
「どういうこと?」
当たり前の疑問を口にする。
「まぁまぁ、ガキはあんま細かいこと気にすんじゃねーよ」
言って、再び微笑う。
「今日のところはもう帰るといい。明日、頑張って学校行ってみな。何かが変わってるぜ」
もう何が何だか分からなかった。
分からなかったが、その時は分かったと答える他なかった。

「おじさんは、何してる人?」
帰り際、その時できる精一杯の質問をした。
すると彼は、当然のように――誤魔化すように、こう言った。
「魔法使い、かな」
完全に変な人だと思った。
取り敢えず、この場は逃げるしかないと考えて、僕は言われるまま帰途についた。

そして次の日。
彼に言われたから、ということもあって、朝から通常通りに登校してみると。

僕をいじめていた数名の生徒が、皆、死んでいた。

その時僕は、初めて彼――魔法使いの言うことを信じることができた。
僕の名前も。
学校も。
クラスも。
僕をいじめていた生徒も。
何ひとつ、僕は話していないのに。
いじめを行っていた生徒だけを、ピンポイントに過不足なく殺してみせた。
これが魔法でなくて何だというのだ。
先生は事故死だと言っていたが、これだけの数の死亡事故が同時に起こるなら、それは魔法だ。

これをきっかけに、僕は魔法が存在することを知った。
そして、それを操る魔法使いに興味を持った。
彼がいかにしていじめっ子を殺したのか。
また、極端で最悪な方法である「殺害」以外での解決はできなかったのか。
何も分からない。
しかし、分からないなりに考えて、考えて、まとめてみると。
――通常の理屈では説明できないが、万能ではないもの。
今の僕は、魔法をそのように理解している。
そうとしか、理解できていない。

そもそも、客観的にはこれはただの偶然なのかもしれない。
それでも僕は――魔法だと思った。
そう信じたかった。
大人になった今も、それは変わらない。

だから僕は、今日も魔法使いを探している。
幼い頃の鮮烈な記憶に突き動かされながら。
そして、あの日の彼を探し出して、一言言ってやるのだ。

「余計なことすんじゃねえよ」
コメント (2)
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