「取り敢えず、荷物もありますし先に部屋割りを決めましょう」
椿が言って何やら一枚の紙をテーブルの上に広げた。
そこにはこの別荘のものと思われる間取りが記されている。
見取り図、というやつである。
「今私たちがいるのがロビー、部屋はお母様の研究室を除いて5部屋あります」
見取り図の部屋には①から⑤まで数字が振られている。
奥の何も数字が振られていない大きな部屋が、先生の部屋なのだろう。
「1号室は茅原さん、豊崎さん、遠坂さんが既に使っています」
露天風呂、キッチン、トイレに一番近い部屋だ。
メイドの皆さんが使うには便利そうだ。
「2号室は藤井さん、尾道さんが使用中です」
こちらは研究者用の部屋、ということになるだろうか。
これで二部屋は使用中、残り三部屋の割り振りということになる。
「5号室が客室としては一番大きいので、柊お姉ちゃんの一家で使ってください」
「分かったわ」
頷く柊さん。
「3号室は私と桜お姉ちゃん、楓お姉ちゃんで使わせてもらいます」
「はいはーい」
「・・・・・・」
ん?
と、なると。
「孝一くんと香菜さんは、4号室を使ってください」
「ちょ、待って待って」
「はい?」
きょとんとする椿。
「何か問題が?」
しれっと抜かしやがるぜ・・・!
「僕と香菜が同室なのか? それは、こう、まずいだろう?」
「恋人同士が同室なのは普通じゃないんですか?」
「恋人同士じゃねえっつってんだろうがよ!」
ああもう、こいつは話を聞かない子だな!
何回釈明すれば理解してくれるんだろうか。
「僕と香菜は、こ、恋人とか、そういう感じじゃねえんだよ!」
「でも、仲良しですよねえ?」
「仲がよくても違うもんは違うの! ただの先輩後輩だから!」
「私聞いたことがあります。男女の間に友情は存在しないとか」
「俗説だ! 個人差があります!」
ええい、どんだけ強固に思い込んでるんだコイツは。
と、僕がどうしたものかと頭を抱えていると。
「コーイチ先輩。あたし、その、先輩と一緒の部屋でも・・・いいっスよ」
おずおずと、香菜がそう言った。
「いや、でもだな・・・」
「先輩は、嫌っスか?」
「い、嫌じゃないけど。まずいだろうっていう話で」
「じゃあ、問題ないっスよ。お互い嫌じゃないなら、大丈夫っス」
そ、そんなもんか・・・?
でもまぁ、香菜本人がそう言ってるんだし、何も問題ないのか・・・?
何だかもう、頭が混乱して自分でも何が何だか分からなくなってきたぞ。
「べ、別に、そんなんじゃないっスからね? 部屋が限られてる以上仕方ないから!」
そんなツンデレ台詞を吐いて、香菜はふいっとそっぽを向くのだった。
「うふふ。それじゃあ、お話もまとまったということで」
椿が何故か嬉しそうに笑いながら言い、一旦解散となった。
部屋は二人には随分広い、十分なスペースが確保されていた。
ベッドが二つと小さなテーブル。
外観などの豪華さと比べればいくらか簡素ではあったが、質素ではない。
チープではなくシンプル。
そんな、いい部屋だった。
・・・と、言い訳のようなことを考えていないと持たない。
僕の心臓が。
えー。だって、どうするの?
あの香菜とはいえ、女の子と同じ部屋だよ?
どきどきどきどきどきどき。
い、いい、意識しすぎだっつーの。
はん、相手は香菜だぞ。何か起こる可能性もねえよ!
「コーイチ先輩」
「ひゃい!?」
だめだ、テンパってる。香菜の一言にまともな反応もできなかった。
「せ、先輩まで緊張するのやめてくださいよー。も、もぅ」
「緊張なんかしてねーし?」
変なものを見る目で睨まれた。反省。
「とと、とにかくっ。あたしお風呂入ってくるっス!」
と言って香菜は逃げるように部屋を出ていった。
言い逃げだ。
ふう、とひとつ溜息をついて、ベッドにダイブ。
疲れた。
結局そのまま僕は寝てしまった。
夜中に目が覚めたが、香菜は何事もなく隣のベッドで眠っているようだった。
一度トイレに行って、ああもう何してんだろうと思いつつ、もう一度寝た。
だから僕は、気付かなかった。
何も、気付かなかった。
次の朝。
小鳥遊出雲さん――先生の旦那さんが、ロビーで死んでいた。
椿が言って何やら一枚の紙をテーブルの上に広げた。
そこにはこの別荘のものと思われる間取りが記されている。
見取り図、というやつである。
「今私たちがいるのがロビー、部屋はお母様の研究室を除いて5部屋あります」
見取り図の部屋には①から⑤まで数字が振られている。
奥の何も数字が振られていない大きな部屋が、先生の部屋なのだろう。
「1号室は茅原さん、豊崎さん、遠坂さんが既に使っています」
露天風呂、キッチン、トイレに一番近い部屋だ。
メイドの皆さんが使うには便利そうだ。
「2号室は藤井さん、尾道さんが使用中です」
こちらは研究者用の部屋、ということになるだろうか。
これで二部屋は使用中、残り三部屋の割り振りということになる。
「5号室が客室としては一番大きいので、柊お姉ちゃんの一家で使ってください」
「分かったわ」
頷く柊さん。
「3号室は私と桜お姉ちゃん、楓お姉ちゃんで使わせてもらいます」
「はいはーい」
「・・・・・・」
ん?
と、なると。
「孝一くんと香菜さんは、4号室を使ってください」
「ちょ、待って待って」
「はい?」
きょとんとする椿。
「何か問題が?」
しれっと抜かしやがるぜ・・・!
「僕と香菜が同室なのか? それは、こう、まずいだろう?」
「恋人同士が同室なのは普通じゃないんですか?」
「恋人同士じゃねえっつってんだろうがよ!」
ああもう、こいつは話を聞かない子だな!
何回釈明すれば理解してくれるんだろうか。
「僕と香菜は、こ、恋人とか、そういう感じじゃねえんだよ!」
「でも、仲良しですよねえ?」
「仲がよくても違うもんは違うの! ただの先輩後輩だから!」
「私聞いたことがあります。男女の間に友情は存在しないとか」
「俗説だ! 個人差があります!」
ええい、どんだけ強固に思い込んでるんだコイツは。
と、僕がどうしたものかと頭を抱えていると。
「コーイチ先輩。あたし、その、先輩と一緒の部屋でも・・・いいっスよ」
おずおずと、香菜がそう言った。
「いや、でもだな・・・」
「先輩は、嫌っスか?」
「い、嫌じゃないけど。まずいだろうっていう話で」
「じゃあ、問題ないっスよ。お互い嫌じゃないなら、大丈夫っス」
そ、そんなもんか・・・?
でもまぁ、香菜本人がそう言ってるんだし、何も問題ないのか・・・?
何だかもう、頭が混乱して自分でも何が何だか分からなくなってきたぞ。
「べ、別に、そんなんじゃないっスからね? 部屋が限られてる以上仕方ないから!」
そんなツンデレ台詞を吐いて、香菜はふいっとそっぽを向くのだった。
「うふふ。それじゃあ、お話もまとまったということで」
椿が何故か嬉しそうに笑いながら言い、一旦解散となった。
部屋は二人には随分広い、十分なスペースが確保されていた。
ベッドが二つと小さなテーブル。
外観などの豪華さと比べればいくらか簡素ではあったが、質素ではない。
チープではなくシンプル。
そんな、いい部屋だった。
・・・と、言い訳のようなことを考えていないと持たない。
僕の心臓が。
えー。だって、どうするの?
あの香菜とはいえ、女の子と同じ部屋だよ?
どきどきどきどきどきどき。
い、いい、意識しすぎだっつーの。
はん、相手は香菜だぞ。何か起こる可能性もねえよ!
「コーイチ先輩」
「ひゃい!?」
だめだ、テンパってる。香菜の一言にまともな反応もできなかった。
「せ、先輩まで緊張するのやめてくださいよー。も、もぅ」
「緊張なんかしてねーし?」
変なものを見る目で睨まれた。反省。
「とと、とにかくっ。あたしお風呂入ってくるっス!」
と言って香菜は逃げるように部屋を出ていった。
言い逃げだ。
ふう、とひとつ溜息をついて、ベッドにダイブ。
疲れた。
結局そのまま僕は寝てしまった。
夜中に目が覚めたが、香菜は何事もなく隣のベッドで眠っているようだった。
一度トイレに行って、ああもう何してんだろうと思いつつ、もう一度寝た。
だから僕は、気付かなかった。
何も、気付かなかった。
次の朝。
小鳥遊出雲さん――先生の旦那さんが、ロビーで死んでいた。