古田史学とMe

古代史を古田氏の方法論を援用して解き明かす(かもしれない…)

「シリウス」と「朱鳥」

2016年06月12日 | 古代史

 ここまで、「シリウス」について考察しており、紀元前八世紀付近で増光しさらに色を変えて「赤く」なったとみたわけですが、これらの考察がもし正しいならば、その「増光」という現象は地球上のどこでも確認できたはずであり(それが列島では「瓊瓊杵尊」の神話となったと見るわけですが)中国においても同様に「シリウス」が「赤く」、「昼間も見えた」という記事等の史料がなければなりませんが、それを示すのが「朱鳥」の持つイメージではないでしょうか。
 この「朱鳥」とは「四神」つまり「青龍」「玄武」「白虎」とならぶ「獣神」であり、「天帝」の周囲を固めるものでした。その起源は「殷代」にまで遡上するとされ、その時点の図像などを見ると元々「鷲」の類であったとされますが、(※)その後「鳳凰」やその意義を持った「雀」などの「鳥」とされるようになったものです。(以下「朱鳥」の例)

「臣某言:臣聞乘雲駕羽者,非以逸樂其身;觀風設教者,將以宏濟於物。故後予胥怨,幾望湯來,吾王不遊,?思禹會。伏惟天皇察帝道,敷皇極,一日二日,智周於萬幾;先天後天,化成於四序。雖鴻名已建,銘日觀而知尊,而膏澤未流,禦雲台而不懌。市朝之邑,天地所中,四方樞會,百物阜殷,爰降恩旨,行幸東都。然以星見蒼龍,『日纏朱鳥』,清風用事,庶彙且繁,桑翳葉而眠蠶,麥飛芒而?雉。…」(『全唐文/卷0217/ 代皇太子請停幸東都表』 崔融(唐)より)

「…東方木也,其星倉龍也。西方金也,其星白虎也。『南方火也,其星朱鳥也。』北方水也,其星玄武也。天有四星之精,降生四獸之體。…」(『論衡 物勢篇第十四』(王充)より)

「…南方,火也,其帝炎帝,其佐朱明,執衡而治夏。其神為熒惑,其獸朱鳥,其音徵,其日丙丁。…」(『淮南子/天文訓』より)

 またその性格として「南方」、「昼」、「夏」に強く関連し、色は「赤」とされます。
 以上のような例を見ると、「朱鳥」は天球上の明るく輝く赤い星からのイメージと思われ、そこから転じて「火」や「火炎」の意義が発生したものであり、「五行説」でも「火」であるとされています。
 また、「鳳凰」は「火の鳥」ともいわれ、火の中から再生するともいわれており、「不死鳥」のイメージも併せ持っています。
 天文学的には一般には「うみへび座」のアルファ星「コル・ヒドラ」がそのイメージの原初的背景にある星ではないかと思われているようです。理由としては「コル・ヒドラ」の南中時刻(真南に来る時刻)が日没直後になるのは旧暦でいうと「二月の始め」頃であり、ちょうど「春分」の頃となり、その意味で「春分」を代表する星ともいえるからです。また「赤色巨星」に分類される星であり、確かに「赤い星」といえるからです。
 これについては、すでに述べたように紀元前のかなり長い期間「シリウス」が赤く、しかも明るく輝いていたことが推測されることとなりました。しかも「ローマ」では太陽とシリウスが同時に出ているから夏は明るく暑いと称して赤犬をシリウスに捧げていたとされるほどであり、これは「シリウス」が「太陽」の近くに)ハッキリと見えていたことを示すものと思われるわけですが(「シリウス」は天の赤道から25度ほど離れているものの昼間も見えていたとすると同じ視野方向で双方とも見えるはずです)、それは中国の伝承でも「朱鳥」について「日」(太陽)に纒りつくともいわれていることから考えても首肯できるでしょう。「鳳凰」が太陽を抱きかかえている図像も多く見られるところであり、これはまさに「太陽」と「朱鳥」が接近していてしかも両方見えていたことの表現ではないかと思われるわけです。
 またこの「朱鳥」の起源は「殷周代」まで遡上するとされますから、時代的にも齟齬しません。後に別の星、「うみへび座」のアルファ星「コル・ヒドラ」(別名「アルファルド」)が「朱鳥」の星であるとされるようになるのは「シリウス」が今のように「白い星」となって以降のことではなかったでしょうか。つまり、その色が「朱鳥」の名に似つかわしくなくなった時点以降「コル・ヒドラ」が「朱鳥」とされるようになったものと推測します。
 確かに「コル・ヒドラ」は「赤色巨星」に分類される星であり、「赤い星」と言い得ますし、また「シリウス」と「コル・ヒドラ」は天球上でそれほど離れてはいないことも重要な点です。「おおいぬ座」の一部は「うみへび座」と境界を接しており、また「シリウス」と「コル・ヒドラ」は天球上の離角で40度ほど離れているものの、春の夜空を見上げると同じ視野の中に入ってきます。このことからいわば「シリウス」の代役を務めることとなったものではないでしょうか。しかし「コル・ヒドラ」がそれほど明るい星ではないことは致命的です。周囲に明るい星がないため目立つといえるかもしれませんが、「天帝」を守護するという重要な役割を担う「四神」の表象の一つとするにはかなり弱いといえるでしょう。(2等級です)これが「朱鳥」として積極的に支持される理由はほぼ感じられなく、「シリウス」の減光と「白色化」によって急きょ選ばれることとなったというような消極的選定理由が隠れているようにみえます。

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