古田史学とMe

古代史を古田氏の方法論を援用して解き明かす(かもしれない…)

天空の星と神話の世界(二)「シリウスは赤かった?」

2015年05月28日 | 宇宙・天体

 「火瓊瓊杵尊」の美称部分と思われる「火」は「赤」いという意味があります。これは「穂」に通じるという説もありますが、「穂」の色はいわゆる「黄金色」であり、もし古代米であったなら「赤米」であってその色はやはり「赤」であったという可能性さえあると思われますから、少なくとも「白」や「青白」ではないと思われます。
 また、当時の技術では「火」の温度として「白色」になるほどの高温は作れなかったであろうと思われ(色温度として「1万℃程度」となる)、人工的に作る「火」はすなわち「赤」であったと思われます。語源的にも、「あかるい」という語の語源は「火」の色を示すものであり、「赤」という色のイメージからできた言葉ではないかと思われます。
 今も日本人が太陽を描くと「赤」に塗るなど太陽に「赤」というイメージを持っているのは「火」が赤いことからの類推と思われるわけです。
 ただし、「太陽は実際には黄色に近い。」という言い方もされ、またそのように描く地域(国)もあるようですが、確かに太陽の表面温度は「6千℃」とされますから「色温度」では「黄色」となります。しかし、もし太陽が遠くにあれば確かに「黄色」に見えるとは思われるものの、地上からは光が強すぎて人間の目の中にある「色」を感じる細胞では入力信号がオーバーフローしてしまうため「色」は判別できないと思われます。つまり「太陽」の色を赤や黄色に描いているのは一種のイメージであり、「明るい」と「赤」が近縁の言葉であることからの類推と思われるわけです。その意味では「火」はまさに「赤」であることとなります。
(「瓊瓊杵尊」の「瓊」も「赤い玉」を意味する語ですからその意味でも「赤」のイメージの強い名前です(20151103追加注))
 しかし前項で行った「神話」と「天空」の星との関係の解析からは「シリウス」が最も「火瓊瓊杵尊」に該当する可能性が高く、そうであれば「白い」星に対して「赤」を意味する美称がつけられたこととなってしまいます。そうするとこの神話が形成されたころには「シリウス」は「赤かった」こととならざるを得ませんが、実際に古代において「シリウス」が「赤かった」という記録が複数あるのです。

 「斉藤国治」氏の『星の古記録』という書には、各種の古い記録に「シリウス」についてその色を「赤」と表現する記事があると書かれています。なかでも「紀元前一五〇年頃のエジプトのプトレマイオス(トレミー)は「アルマゲスト」という天文書の中で「赤い星」として、「アルクトゥルス」(うしかい座α星)「アルデバラン」(牡牛座α星)「ポルックス」(双子座α星)「アンタレス」(さそり座α星)「ベテルギウス」(オリオン座α星)という現在でも「赤い星」の代表ともいえるこれらの星の同列のものとして「シリウス」を挙げているのです。しかし同時代の「司馬遷」の『史記』を見ると「白い」という表現がされているものがあり、食い違っています。ただし、「色を変える」というように受け取ることのできる記事もあるなど不確定な部分も見られます。(以下の記事)

「參為白虎。…其東有大星曰狼。狼角變色,多盜賊。…」
「太白 白,比狼;赤,比心;黃,比參左肩;蒼,比參右肩;,比奎大星。」(史記/書 凡八卷/卷二十七 天官書第五)

 これらによれば「太白」つまり「金星」自体色を変えることがあるとされ、そのうち「白」い場合は「狼」(シリウスを指す)と同じような「白さ」であるというわけです。
 「金星」は地平線の近くに出ることが多く(内惑星のため太陽からの離角を大きくはとれない)、上層の大気の様相を反映して色が赤くなるようなことがあります。望遠鏡で見ても「プリズム」で見たように七色に見えることがよくあります。

 ところで上の「太白」の色に関する記事の中に「黄」に対するものとして「參左肩」というものがあります。この「参」とは「オリオン座」を示すものですが、上の記事では「白虎」とされており、その左肩というのは「γ星」(ベラトリックス)のことでしょう。これが「黄」とされています。また「赤」の代表は「心」とされますが、「心」とは「さそり座」を指すもののようですから、「アンタレス」を意味すると思われます。ところが、「蒼」つまり「青」の代表として「參右肩」が出てきますが、これを「オリオン座」のα星「ベテルギウス」であるとすると、これは明らかな「赤」ですから、「蒼」という色とは合いません。最も「蒼」にふさわしいのは「β星」である「リゲル」ですが、これは一般には「左足」とされます。これは明るさもベテルギウスと変わらないほどであり、また「青色巨星」とされていますから、これであれば「蒼」という色に対応するものとして不審はないのですが、実際には「左肩」とされています。たとえばこれが「右」「左」が逆であったとしても「ベテルギウス」に対して「黄」という表現がされたこととなってしまいます。ただし、現時点では「白虎」の姿勢と星の配列がどう対応しているかが不明のため『史記』の記述を性格には判断できないわけですが、「ベテルギウス」は「赤色超巨星」に分類され、「太陽系」でいうと「木星軌道」を超える程のサイズまで膨張していると考えられており、超新星爆発が間近いとされますが、このような星が2~3000年前まで「黄色」であったとは考えにくいものです。
 「ベテルギウス」のような状態になるまでには「赤色超巨星」の期間がかなり長く続いたあげくのことと思われますから、2~3000年ではそれほど進化しないものと思われるのです。
 しかし『史記』において「赤」の代表を「アンタレス」に譲っている事態は「ベテルギウス」の赤みがそれほど強くなかったということもいえるのかも知れません。
 消極的ですが、このことは「白」という色とされている「狼」(シリウス)もそれ以前は違う色であった可能性も考えられることとなるでしょう。
 また「狼」とされる「シリウス」も「變色」つまり「色」を変えることがあり、そのような場合は不吉なことがある(ここでは盗賊が増える)とされているわけです。これについては「金星」と同様「大気」の影響ということももちろん考えられますが、当時は何か不安定な状態で「色」を変えていたのかもしれません。しかし「シリウス」は「主系列」に部類され、変光とか色変化というようなことがあったとは想像しにくいのは事実です。ただし鍵を握っているのは「シリウス」の「伴星」です。

 「シリウス」は確かに青白く見えますが「主系列星」に分類されています。また伴星がありこれは「白色矮星」であるとされています。「白色矮星」は「新星」爆発の残骸といえるものであり、多くの場合「赤色巨星」が爆発現象を起こした後に残るものです。
 「シリウス」とその伴星は連星系を形成していますが、その公転周期は五十年といわれています。この周期から考えられる双方の距離は「20天文単位」と計測されており、かなり近いといえます。(太陽から天王星までの距離に相当する)しかもそれは平均距離であり、伴星が元「赤色巨星」であったとするとそのサイズはかなり大きかったものと見られ、両星は今以上に接近していたという可能性があります。そう考えると当時は「近接連星系」を形成していたといえるかも知れません。
 
 連星系において一方が終末期近い「赤色巨星」である場合、「進化」の過程で「膨張」し(既にそこに至るまでにかなり膨張しているわけですが)、終末期には大きさがいわゆる「ロッシュ限界」まで達する場合があり、そうなると「内部ラグランジュ点」を通って伴星側(これが「シリウス」)に質量が移動する現象が起きることとなります。主星側が伴星に対して質量が圧倒的に大きい場合この「ラグランジュ点」もかなり伴星側に近い場所にできる事となり、このような場合、主星側から質量がもたらされる伴星(この場合はシリウス)は、条件によってはそのまま「質量増加」という結果になる場合もあり得ます。その結果「伴星」であった「シリウス」はやや質量が増加し、発生エネルギーも大きく増加した結果1万度にもなる事となったと見られます。
 シリウスに金属元素が多いという観測結果があるようですが、基本的に「金属元素」や「重金属」元素は「重い星の内部」で作られるものであり、その金属元素は「赤色巨星」(これは重い星)からもたらされたものであると考えると理論的に整合するといえるでしょう。

 ところで「シリウス」の現在の状態は「白色矮星」と「主系列」の組み合わせであるわけですが、当然それ以前は「巨星」と「主系列」という組み合わせであったこととなります。しかもその場合「主星」である「巨星」(現在の伴星)がロッシュ限界に先に達することとなっていた可能性が高いものと推察されます。
 ところが観測された事実からはこのような組み合わせは一例も発見されていないとされます。すべての近接連星系では質量の大きい星、つまり主星が「ロッシュ限界」内にあり、質量の小さい方、つまり伴星が「ロッシュ限界」に達しているのです。この逆パターンつまり「シリウス」の以前の状態の連星系は確認されていないのです。(これをアルゴルパラドックスと称するようです)
 これについては各々の星の「進化」のスピードの違いで説明されています。
 
 先に「主星」が進化・膨張して「ロッシュ限界」に達すると質量の小さい進化の遅い星の方へ(ラグランジュ点を通じて)質量移動が起こり、それにより主星側の「ロッシュ限界」が小さくなり、さらに質量移動が促進されることとなります。ついにはもとの伴星よりも質量が小さくなると急激な膨張はほぼ収まり、その結果「ロッシュ限界内」に止まる新たな主星と「ロッシュ限界」に達している新たな伴星という組み合わせが発生するわけです。この状態が「シリウス」の以前の状態と考えられるわけです。
 この状態でさらに伴星側の進化が進行し、ついには「中心部」から供給されるエネルギーが急激に減少すると重力崩壊を起こし、その結果「白色矮星」が形成されることとなります。これが今のシリウスの状態と思われますが、この「最終段階」のイベントが「紀元前」に起きていたとすると、その時点以前では「赤い」「伴星」と「白い」「主星」という組み合わせであったものと思われますが、この時点では両方の間にそれほど明るさの差がなかったという可能性もあります。特に「赤い星」の状態が末期であるとすると、大きく変光していた可能性が強く、この両星は肉眼では一つの星として見えないわけですから、全体として「赤」くみえたり「白」くみえたりという両方が観測されたとしても不思議ではないと思われるわけです。

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